中川マルカ

御嶽神社裏マルカフェにくらしています。 ■https://malucafejapan.…

中川マルカ

御嶽神社裏マルカフェにくらしています。 ■https://malucafejapan.tumblr.com/https://www.malucafe.com/

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忘備録、或いは自己紹介として

書籍として刊行された作品、健闘の証など。 中川マルカ活動の、あしあと的なそれをまとめました。 お声掛けいただきましたら、喜び勇んで参じます。 各SNS、メール(maluあっとmalucafe.com ) 御嶽神社裏にも、どうぞお気軽に。 作品紹介2024年 小説「おにぎりの達人」『NIIKEI文学賞2023』惑星と口笛ブックス(電子書籍)3月刊行予定 随筆「十三年目目の、東京のカフェで」『綴りましょう、あなたの大好きな北九州2023』キタキュースタイル 2023年 小説「

    • 5年前の。

      5年前に書いたものが、出てきた。 冬のこの時期、どうしたっていつもより人恋しくなる。 2019年 1月21日 大寒を前に、祖母が亡くなった。89歳だった。 亡くなったと聞き、死んだ瞬間を見たわけでもないのにそれを見たかのような気持ちになった。知っている限りの「死」と、憶えている限りの祖母と祖母とのことを一気に思い出したからだと思う。何をしてあげることもできなかった無力さが情けなく、裸で放り出されるみたいな心細さに見舞われた。急ぎ、贈った枕花を立派だとほめられた。祖母の好き

      • 千字戦(2回戦) お題「開いている」

        「検討委員会」(874字/20分) 「それでは、戦略的な資産マネジメントの観点からよろしくお願いします」 と安田が言った。 ほがらかであった。 資産はわかる。 マネジメントもわかる。 資産マネジメントもわかる一応。 しかし、戦略的であることがなんかもうずっといまいちわからない。 だいたい何と戦わねばならんのかおれは、とにがにがしくおもいながらネクタイを直す。資産としての保全、運用についての私見を語り、マネジメントに関する一般的な考え方を申し述べ、本市の財政状況と人口推移の

        • 千字戦(1回戦) お題「方向」

          惑星と口笛ブックス 西崎憲氏主催「千字戦」に参加しました。 対戦B 中川マルカ×河野桂士 いさかいのあと(615字) じゃあ珈琲を淹れるから、と席を立ってミチルはそのまま帰ってこなかった。 火にかけた薬缶の水が、湯になって、湯気をあげて、やがて、揮発して、キッチンにはホーローがただ燃えている。 テーブルには、旅先で買った波佐見焼のカップが向い合せに並ぶ。 窯元で器を手にしてから清算を待つあいだもずっと、これでようやく一人前になれた気がする、とミチルは小鼻をふくらませてい

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          片づけておくよう、約束したはずなのに。 見つけてしまったんです。でもあの人は平気なんです。全然。もともと私の元カレのパンツを履けるような人だから平気なんだと思います。とラウンジで声を押し殺した幸子は、金曜の夜に発見したおパンティのことを打ち明けた。 「それは怒ってもいいんじゃないですかね」 「でも、怒ったり、騒いだりすると馬鹿みたいじゃないですか。せっかくの週末なのに」 「だけど、腹が立ったんでしょう」 「立ちましたよ、滅茶苦茶に、むかつきました。むかついたし、後からどんどん

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          随筆「話半分の世界にも、その」

          「第1️回NIIKEI文学賞」投稿作です🍙 「話半分の世界にも、その」(1000字)  中川マルカ うまいものを、とつぶやいていたら米が届いた。 送り主は、まだ見ぬSさんだった。箱には、新潟の美味が詰まっていた。新之助とこしひかり、そこに瓶詰のおかずまで添えてある。お米の国で暮らす、を冠するその人の完璧なセレクトだった。どのように食べるのが一番よいかを尋ねると、炊きたてに好きなものをのせる、そして、新之助はおむすびにすると格段に美味いと教えてくれた。伝票に本名を知り、Sさ

          随筆「話半分の世界にも、その」

          棕櫚shuro10|小説|試し読みページ

          マルカフェ文藝社「棕櫚shuro10」より、小説作品の冒頭をご紹介します。  【小説参加】  糸川乃衣 「飼育」  大木芙沙子 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」  カフェラテイリエ 「ゾルバと饒舌」  こい瀬伊音「雛流し」  渋皮ヨロイ 「横山の右手は夜の魚」  関元聡 「火馬」  中川マルカ 「あたらしい人には」  万庭苔子 「十子さん」  枚方天 「前歯をご覧ください」  冬乃くじ 「水と話した」  山川葉子 「リニューアル」   吉田棒一「10 to 10 pas

          棕櫚shuro10|小説|試し読みページ

          マルカフェ文藝社「棕櫚shuro10」

          御嶽神社裏マルカフェで編む、総合文芸誌「棕櫚shuro」。 第8号…ではなく、棕櫚10(しゅろてん)! できました! ※小説作品試し読みは、コチラから。 参加作家アート 岡崎友則  我が街を形成する10個のピース  sheeno   MaluCafe / OPEN  hunton   喫茶X  KazuTabu  inktoberシリーズ(全10点) 小 説 糸川乃衣   飼育  大木芙沙子  ジャンピン・ジャック・フラッシュ  カフェラテイリエ  ゾルバと饒

          マルカフェ文藝社「棕櫚shuro10」

          沙汰DAY

          第6回 阿波しらさぎ文学賞(徳島文学協会、徳島新聞社主催)  最終候補作品です。期間限定公開。 縦書き版(画像)は、ガーッとスクロールすると出現します。 腹に響く太い音が、六つ鳴った。 一つ目で夢が切れ、二つ目で目を覚ます。六つ鳴り終わる前に起き出して、小便のあと掛け布を畳む。朝の身支度を済ませ、呼ばれるのを待っていた。身支度といっても、汲み置きの水に手、口を漱ぎ、己の髪を確かめるだけだ。撫でさする指の腹に短い毛が刺さる。ぐずぐずしていると怒声が飛ぶ。小窓からの声に、跳ね

          ある春の日の。

          4月が終わった。 桜が散ると、わたしは年をひとつとる。 新年を迎えたあたりから、春が来れば誕生日だ、と思い暮らしているものだから、2月の前には年が上がったような気分になって、年齢を書く際によく間違えてしまう。適当な時期に勝手にひとつ足してしまって、実際に誕生日を迎える日には、何だかほっとしたような、ぽっかりしたような、妙な気持になる。ぽっかりにはきっと、新たに始まるこの1年の楽しいことを詰め込んでいくのだろうと思いながら、今年も、上等なケーキを食べて、上等なパフェを食べたり

          ある春の日の。

          右手を。

          差し出された指先に、小蟹の入ったビニル袋がぶらさがっていた。受け取るふりをして、右手を、つよく掴んで引き寄せた。奥さんがよろめいて、落下の蟹が、袋の中でかさこ音を立てた。 「あ」 赤いパンプスが、ことりと外れて横を向く。僕はこのうすい胸に奥さんを受け止めた。可憐な靴の、ひとつが脱げた。 花弁のような赤色が剥がれ、放られた爪先は人形の足のように白い。産卵を控えた魚をおもわせる曲線がふたつ、くの字を描く。先端まで覆う80デニールのタイツが、はだけたスカートの下に、ふくらはぎ

          2022年をふりかえる。

          四回目のワクチン接種を終えて、師走。 おかげさまで、パンデミックの緊迫感は薄れ、罹患したら死、みたいなお話も今は昔。油断ならぬはずと思いきや、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、もはや、あって、ない、ような扱いとなり、「緊急事態宣言」の言葉もすでに遠い。人は忘却の生き物であり、かなり雑。ついでにいえば、二〇二一年の東京五輪の記憶も早速あやうい中、関係者の逮捕続出で、お、いまから本番ですか、という気にもなったりもしたが、五輪に反対していた人たちが、割と平気でワールド

          2022年をふりかえる。

          その色のあせるまえに

          BFC4。二回戦作品。幻の。 雨音のあるあけがたにだけ、りんりこはふかくよく眠る。律された雨だれの、ときに不規則なリズムに心をあずけ、からだをあずける。とん、ぱら、とん、と、天窓を打つ音を、めぐる血潮の、その流れと細胞の、すこやかであるさまに重ね、心地よく、まぶたをとじたまま眠魚の数を数え続けた。 …千百六十三、千百六十四、千百六十五。 眠魚が羊になって羊が白色の綿あめに変わって、気がついた。雨とばかりにおもっていた音は、愛した雨の水の玉などではなく、陽の光を孕む木々の

          その色のあせるまえに

          中川マルカ「鱗」

          BFC4 落選作 きくの海が、白く波打つ。 太陽を照り返すこともなく、月を映すこともない。 灰をたたえた白の海原は、あかりをのみこみ、満ち引きをつづける。ざらりざらの音で。砂浜にも海にも、同じ白が続く。瓦礫の重なる浜辺には、流れついたあまたの樹々が横たわり、散らばり、突き刺さる。海に面した高台は、草木の根ごと白く燃え尽き、ところどころくすぶったまま、細い煙をのぼらせる。落ちた枝木をあつめる人の姿も、今朝はない。打ち上げられ、灰まみれの魚は、木彫りのようにじっと、わたのひきず

          中川マルカ「鱗」

          やくそくの箱

          「第5回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」最終候補作 (徳島文学協会、徳島新聞社主催) やくそくの箱 中川マルカ くねくねしながら両手を差し出し、つくしはソロモナイトを受け取った。 「ほうせき?」 「そう。王様の」 「ぴかぴか! マスター、いいの? いいの?」 「おお、持って行け。床屋のせがれ」 右と左のくっついたちょうど真ん中に、薄緑の光のまとう石がのる。太陽にかざせば、はじき返すように輝いて見える。すごいねと跳ねて、石を握って走り出す。見せびらかしてはいけないよ。どん

          やくそくの箱

          犬が死んだときのこと。

          先住チワワが死んで、丸三年経った。 日記のようなものが出てきたので、貼っておく。 【日記】 月曜の朝、ネオの様子がいつもと違う。 じっと伏せたまま、でも、いつも通りレバースープとおくすりをざぶざぶ飲んで、ぱたぱた尻尾を振って、だけど、食事を中途半端に、からだをそらしたり、起きたと思ったらぱたっと倒れた。マスター起こして状況を説明して、とりあえず服を着てもらって(すでに全裸の季節)、わたしはマスターのお昼と自分のお弁当をいそいで詰め、今日はどうしても出ないといけないから、な

          犬が死んだときのこと。