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正義の名を借りた暴力について

今年の4月に東京の池袋で12人の死傷者を出した自動車の暴走事故について、遺族の方が40万を超える署名とともに厳罰を求める要望書を提出した。この署名についてニュースやSNSで見聞きして感じたことを整理して書いてみたいと思う。

感じた違和感について

まず、私はこの署名活動およびSNS等で厳罰を求める行為にとても違和感を感じる。本事案以外でもニュース等で取り扱われ、話題となるような事件では度々厳罰を求める署名活動が行われるのを目にするが、このような活動はSNSの発達とともに増えてきたように思える。今回の池袋の事故でもTwitterで #池袋署名や #池袋暴走事故 等と調べると大量の投稿がされているのがわかる。これらの投稿では遺族への同情や無念の意を唱えるものとともに、加害者に対する怒りを綴るものがその大半を占めている。このような感情を抱く国民が多いからこそ、SNSを通じての署名活動は爆発的に拡散されたのだろうと思う。

しかし、本来刑事罰とは、裁判所が検察官及び被告人から得た証拠をもって、これを被告人に責任として科するものである。そうすると厳罰を与えるかどうかは裁判所の判断によるものであり、部外者である私たち第三者は量刑判断に積極的に関わる事はできないはずである。また、Twitter上では加害者に対して罵詈雑言を投げかける投稿をよく目にするが、これにしても普通は面として言えないような発言が多々されている。

このように、SNSの発展とともに多くの人が加害者に対して怒りをぶつける、もしくは加害者へ与えられる刑罰の厳罰化を求める行為が増えてきているが、このような事が正しいのかどうかという点で私は強い違和感を感じる。

加害者への暴力は正しいのか

たとえ加害者であっても私たちはこの者に対して暴力を振るうことはゆるされないはずである。例えば、自身の家族を傷つけられたからといって、加害者を同様に傷つければ暴行罪もしくは傷害罪となる。これと同様に加害者に対して自身の怒りをぶつけ、または罵詈雑言を浴びせることは本来正しい行為とは言えないものである。しかし、厳罰を求める署名活動やSNSでの投稿では、あたかもそれが正義であるかのようにされ、多くの人がこれに賛同している。

確かに、裁判所に署名を提出することは裁判所の判決に民意を反映するために重要なことであり、私たちの権利でもある。しかし、署名と同時に加害者へ怒りをぶつけることや罵倒することは本来これを是とすることはできないものであり、多くの人が賛同していることや匿名で発言できることをいいことにこれをするのは、正義の名を借りた暴力に過ぎないのではないかと私は考える。

また、池袋暴走事故では加害者が逮捕されなかったことから、多くの人がその理由を上級国民だからだと言っている。しかし、逮捕という制度は被疑者の逃亡防止と証拠隠滅の防止を目的とした制度である。本件の事件では被疑者が事故により自身も重症を負ったことから逃亡の危険性が小さいことが、逮捕しなかった大きな理由になっている。つまり、制度の目的からは被疑者を絶対に逮捕しなくてはならないという帰結は得られないのである。私たちの中にはマスコミや他のメディアが逮捕までの報道しかせず、その後の経過を報道しないことから、犯罪行為=逮捕=有罪というイメージを持っている人が多数いる。私たちは事件の加害者や犯罪者に対して正しい認識をできているのか、正しい知識がないまま根拠のないイメージでこれらの人を見ていないかということを冷静に考えてみた場合に、恐らく多くの人は正しい知識がないまま偏見で見てしまっているのだと思う。

私たちは加害者だから、犯罪者だからという理由でこれらの人に暴力を振るっているのかもしれない。確かに加害行為や犯罪それ自体は許されるものではない。しかし、それと同様に、私たちが加害者だから、犯罪者だからという理由でこれらの者を傷つけることも正当化することはできないし、また許されるものではない。SNSにより多くの人と繋がり、不特定多数の人に向けてメッセージを発信できる時代だからこそ、私たちが加害者・犯罪者に対してしていることが本当に正しいことなのか、それとも正義の名を借りた暴力なのかをもう一度考えてみることが大事なのではないかと思う。

まとめ

今回は池袋暴走事故の厳罰を求める署名活動を題材に、加害者に対する行為が本当に正しいのかを考えてみた。集団での行動や匿名での行為は時として思わぬ程に攻撃性が上がり、理性の枷が外れてしまうことが多々ある。特にSNSが発達し、ネットとリアルの境界が薄くなってきた現代社会だからこそ、自分のやっていることが本当に正しいといえるのかを、感情に任せずに冷静に見つめ直す事が大切なのだと思う。

以下のリンクから前回の記事を読むことができます。興味がありましたらぜひ読んでみてください。

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