見出し画像

神がかり的な癇癪を持った男

大山ノブヒデ、56歳独身。神が与えたと思われるほどの酷い癇癪持ちの為独身だ。顔も昔は好青年だった筈だが、度重なる憤怒によりシワだらけだ。いらない知恵は脂肪と同じくらい余分に蓄えたので、そこそこの大学を出ている。辞書に載ってない日本語を話す人間を極端に嫌う。そんな人間を見つけると、下僕、それも殴る蹴る権利を当然持ち合わせてる様な関係であるかのように無礼かつ乱暴に訂正をするのが彼の生き甲斐だ。他人に対して完璧主義者であるのに反して、なにか欠如した者の集まるとこに行くのが彼の唯一の趣味である。(もっとも、訂正する対象を探す為かもしれないが)

今日は彼がホスト狂いの女へ向けた癇癪とその発露をご覧頂こう。
幸いと言うべきか、癇癪が酷くなる前の好青年の面影は妻に出ていかれたリビングにほんのり残るカレーの香のようにまだ残っていたので、ある程度の質問なら女性は反応してくれる。相手はホスト狂いの少女、齢24にして年間600万円を超えるほど男に貢いでる。その大半は彼女の友達と遊ぶという口実を信じ切っていて、家庭の幸せより我が子の幸せを選んだ、シングルマザーの財布からである。ノブヒデが仕掛ける。

「政治についてどう思う?そこの女の子」
「うちぃ、そうぃうの分かんない。。」
そこでノブヒデは、ほくそ笑んだ。今日の獲物を見つけたからだ。彼は大きい餌を思いっきり叩くことをモットーとしているので、一撃目は耐える。
「そうかい。それなら、僕が教えよう。」
「ぇ、ぅちに教えてくれるの?いいの?おじさん?」
癇癪持ちだが、おじさんと言われることに腹を立てるタイプでは無い。事実は理解しているのがタチの悪さを加速させていく。
「いいよ。じゃあ哲学の話だ。トロッコ問題というものがあってな…」かれはトロッコ問題の説明をする。ホスト狂いの少女にも分かるように。彼女がトロッコ問題の話を完全に理解した時、ノブヒデは壁に立てかけてあった観葉植物が「やれやれ、ようやく理解したのか。俺はもう理解したぜ。」と呟いた気がした。
「それで、君はどうするんだ?このトロッコ問題。」
「ぅちはね。。両方殺しちゃうの。。。」
ノブヒデはやや呆気に取られた。
「なぜだい?」
ここでノブヒデはエネルギーのチャージが完了した。かれは次の発言の如何によって、大砲を発射する。このホス狂いのトンチンカンな答えをただ、待つ。彼は唾を飲み込んだ。グラスには水滴が溢れんばかりに着いていた。
「ぅちね、あんまりお金持ちじゃなくてね。。それで……」愚にも付かぬ彼女なりの理論が展開された。その話はあまりに長く、もう1つの話を構成出来るほどに奥がある為、ここでは省くことにする。そしてそれを聞いたノブヒデはほんの少しの良心の呵責による迷いの後、怒りで締めくくった。
「は!?おい!?何っ言っとんや!?ワレェ!?分からんて!!分かる!ように!言えゃあああ!!おら!もっ一回よ!!!」
机を叩きながら彼は怒鳴った。彼はいま、喜びを得ていた。激しく人を怒鳴ることに喜びを見出していた。

彼は怒鳴り終わった頃、涙を流していた。とうにその少女は恐怖による為か、あるいは関心が薄れたのか、姿を消していたが、彼はただ、涙を流していた。その涙は彼が忌み嫌う、辞書に載ってない感情かもしれないが、彼のモットーに則って、筆者は彼が涙を流した理由は嬉し涙だと言っておくこととする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?