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私がみている世界は、私がどんな風に見るかで変わる。

「ねぇ、なんで、フライパンを火にかけて乾かさないの?汚いじゃん。」

「塩はさ、天然塩じゃない?普通。」

彼と付き合うようになって

私は私が思っていること感じていることを

否定され続けて

段々と、自分の感じることに自信がなくなっていった。

些細なことだけど

毎日、彼の普通を押し付けられて

「私」が人生で学んだ全てのことを否定されていた。

「なんで、君はそんな辛い思いをしてきたんだ。

そんな思いすることなかったのに。可哀想すぎる。」

って、思いやりを装って

私が歩んできた人生を「必要なかったもの」

として、扱った。

そうやって、緩やかに、私は私の人生を否定されて

私の彼への想いさえも、鬱陶しいと否定され

「じゃあ、なぜあんたは今、私の目の前にいるんだよ。」

と、思った。


なんだかちょっと頼りなくて

これまで傷つけてしまった人達のことを

後悔をにじませながら語っていた彼。

あの頼りなさの奥には

自分が関わってきた人達よりも

大事にしたいものがあったんだな。


私が仕事で遅くなったある日

家に帰って、鍵を開けてドアを引くと「ガチャン」と言う。

「あ、開かない。チェーンロックだ。」

きっと、お酒飲んで帰ってきて、かけたんだろうな。

と予測がつく。

本当に、お酒がやめられないんだ。

酔っ払っては暴言吐いたり

人に絡んだり、挙げ句の果てに

同居してる恋人が帰ってくるというのに

チェーンロックするか!?

カバンから、折畳式の携帯を出し何度か、電話をする。

彼のいびきと共に聞こえてくる、携帯の着信音。

「あー、何やってんだろ私。好きだと思ったんだけどなぁ。

目の前にあるものに手を出す、私の悪い癖だな。」


お腹が空いている私の鼻に向けて、階下のイタリアンから

オリーブオイルとニンニクのいい香りがしてきた。

何度か起こそうとチャレンジしたけれど

彼のいびきは、止む様子がない。

「仕方ない、ピーチ行くか。」


下北沢にある、老舗のロックバー。

通称「1階」は小窓から店員が出入りする。

その1階に、私は通っていて

彼に出会った。


お腹が空いていた私は、店に着くなり「焼うどん」を頼んだ。

なんの変哲もない、ただの焼うどん。

醤油の香りと鰹節の旨味が私の空腹を満たしていく。

お腹が満たされていくのと同時に

締め出されたことへの怒りが、湧いてくる。

締め出されたことを話すと

そこにいたみんなが、爆笑して、笑い飛ばしてくれた。

うん、確かに美味しい話だ。ネタになる。


でも、この出来事が私にもたらしてくれたものは

もっともっと、深く優しいもので

「私には、私が作り上げてきた居場所が

ここ以外にもあるという事実」だった。


私は、男性と付き合うと、その人しか目に入らなくなり

その人中心に世界が回るようになる。

私の目には、その人しか写らない。

そのうち、私の世界は「彼と私だけ」の世界になる。

そのたった一つの私の居場所から否定されたら、

私の存在は足元からグラグラと揺れ始め一気に不安定になる。

その場所を失いたくない一心で、取引してみたり、

泣き喚いてみたり、暴言を吐いたこともある。

ただ、この時、私が見た世界は

私の作り上げている世界が、私の周りにいくつもある。という世界だった。


今となっては当たり前だけど

当時の私にとっては深い安堵と、心地よい幸福感を与えてくれる

とてもとても大切な感覚だった。

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