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芝居は感情のリハビリ

※書籍『子育てを最高の宝物に』
第4章 <わたし〜点と線〜> より抜粋(十数回に分けて公開中)

僕は今41歳で、以前役者をしていた時期がありました。
今は役者はしていなくて動画制作の仕事をしています。

このnoteでお伝えしたいことは中盤以降に記載していま。
まずは小噺になりますので、ほんの少しばかりお付き合いください。

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20歳くらいから芸能事務所の養成所に週1・2くらいのペースで芝居の稽古をしていた時期がありました。
大阪市内にあるそれほど大きくない事務所でしたが、初めて体験する世界にワクワクしながら通っていたのを覚えています。

しかし、この事務所に入った理由は、芝居が好きで入ったわけでも芸能界に憧れて入ったわけでもありません。

入るきっかけを簡単に説明しますと、事務所に入る数ヶ月前に当時付き合っていた女性と別れて落ち込んでいた時に、新聞の広告枠に養成所募集オーディションの記事を見かけたことがきっかけです。

ものすごく不純な動機です(笑)。

オーディションには運良く合格して、会社で働きながら週末は芝居の稽古の日々でした。
もちろん芝居の経験なんてゼロの自分には初めての経験ばかりです。

台詞を覚えることや言葉に感情を乗せること、台詞の掛け合いや喜怒哀楽の心の動かし方。
登場人物の役を考えたり、その人の背景(歴史)をイメージしたりと、足を踏み入れたことのない世界で、事務所に入って2年くらいは素人なりに必死でした。

2年くらいは大阪の事務所に通い、それから東京に行きました。
東京の芸能事務所主催の自主制作映画のオーディションに合格したことがきっかけで東京に住むことになりました。

それからは事務所の稽古とオーディションとバイトの日々。
それはそれで楽しかったんですが俳優としての下積み生活を始めてもすぐに芽が出るわけもなく、東京で8年ほど役者として活動していました。

俳優活動の中で自主制作映画団体に誘われて自主映画を監督する機会があり、制作することが楽しくなり、それがきっかけで出る側から制作する側に転向しました。

それ以降は映像制作者としての下積みを始めますが、「芝居の経験」が僕に大きな影響を与えていたことを、後になってから(30台後半ごろ)気づきました。

そこを深掘りして、今この本を読んでくださっている方々に参考になればいいなと思うことをお話します。



芝居は、登場人物がいて、その人物には台詞があります。何か嬉しい出来事があった時なら楽しそうに台詞を言います。悲しい出来事があった時なら悲しみを込めて台詞を言います。
こういった台詞のキャッチボールを繰り返して会話が成立して物語が展開しています。

今ものすごく簡単に説明していますが、本当の芝居は、場所(自分の家か知人の家かコンビニか居酒屋かなど)によっても感情は変わりますし、相手の台詞次第で受ける側の感情も変わります。

「芝居は生物(なまもの)」と言われたり「舞台には魔物が住んでいる」と言われる所以は、その瞬間瞬間で感情が微妙に変わるから芝居も毎回変化する、そんなところから来てるのかもしれません。

毎回感情のちょっとした変化が生まれるから同じ芝居は2度とできなかったりします。

ちょっと専門家っぽいことを言いましたが、話したいのはそこではありません。
20代後半で映像に転向したので芝居を語れるほど積み上げたものはありませんが、この8年ほどの芝居経験が自分に与えたものは、


【感情を動かすきっかけ】


です。

本書の自己紹介のところでも書きましたが、僕は小4から中3までいじめを受けていたので、なるべく目立たないよう感情を出さないようにしてきました。

高校生以降はクラスメイトとそれなりに話すことはできましたが、話し方やどこまで話せばいいのかとか、距離感や関係の作り方がまったくわからないままなんとなく周りの同年代と関わっていました。

元々人見知りだったのでそれも相まって、話しかけることがすごく苦手でした。

極力人と接するのを避けていた自分が、芝居というものを始めたわけですが、もちろん人を感動させるような芝居は全くできませんでした。

8年間やっていても売れない役者でしたが、芝居が上手いか下手ではなく、実生活の上でこの芝居の経験はすごく良い影響を受けました。

普通は人と会話する場合、話したいことを話しますよね。
難しく考えずに思ったことを伝えたりすると思います。

しかし、僕の場合は人と交流すること自体が苦手だったんですが、芝居は言葉が決まっているので相手に話しかけることができます。

もちろん言葉に感情を乗せるのは大変な作業ですし、棒読みで相手に話してもちゃんとした会話にはなりません。

それでも、

【芝居を通して相手に話しかける言い訳】



ができました。

自分の意思で話しかけることをためらっていた自分にとって芝居はとても便利な「話しかけるツール」として機能しました。

そして、台本には喜怒哀楽を表現した台詞が書かれていて、それを不器用なりに感情を込めて表現します。

今まで気持ちを表に出さないようにしてきた自分にとって、感情を表現する経験はとても新鮮でした。
台詞の意図や登場人物が背負っているもの、好きなことや嫌いなこと、相手との関係性を考えます。

見えないものを想像したり考える経験は初めてで、何をどう考えて良いか難しいのですが、それでも楽しく想像していたと思います。



芝居と出会って3つの経験をしました。

1つ目は、口下手だった自分にとって、相手と話すための
【コミュニケーションツール】の役割を果たしたこと。

2つ目は、気持ちを表に出してこなかった自分にとって
【感情・心を動かす経験】を与えてくれたこと。

3つ目は、登場人物の背景を
【自分なりに想像する経験】を与えてくれたこと。


芝居は本当にヘタクソでエキストラの仕事ばかりでしたが、この経験は僕にとっての【感情のリハビリ】になりました。

心の動かし方や頭の使い方を色々と経験を通じて教えてくれました。



もし仮に、芝居をしていなかったら自分はどんな人間になっていたのか。

いじめを受けて人と接することを避けたままその後の人生を生きていたんだろうか。

楽しいことを自分から見つけ出そうとしていたんだろうか。


そんなことを想像するだけでちょっと怖くなりますが、結果的にはずいぶんマシな人生を選べるようになった気がします。

芝居は本当に人の感情に影響を与えます。

個人的な考えですが、学校教育の中に芝居を導入したい気持ちもあります。

芝居を通じて人と会話や喜怒哀楽の感情を動かす経験、登場人物を想像するこの経験は、若い年齢の時に感情を動かす経験しておいた方が、大人になった時に生きるんじゃないかと思ってます。

演劇部は色んな学校にすでにありますが、

【芝居を学ぶ】という目的以外に

【感情の動かし方を学ぶ】
という目的で取り組む

という考え方で芝居にアプローチするのも、芝居がまた違った在り方になるような気もしています。

僕にとって芝居という経験ができたことは、今思い返しても本当にやっておいて良かった、これは本気で思ってます。



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