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三つ首輪の犬と戦斧 インターミッション①~00791006~

「どうでもいいけど狭い!」

戦艦内に肉体労働者の弁当箱のように、ギッチギチに詰め込まれた戦車に戦闘ヘリに鹵獲した人型の機動兵器モビルスーツ。これらは私たちが北米の荒野や砂漠を駆けずり回って、遭遇した部隊を片っ端から叩いて潰して奪った戦利品だ。
戦利品は戦の誉れ、昔の地球人は斬り落とした首なんかを戦利品にしたそうだけど、今は人類が宇宙に移住して80年近く、そんな野蛮なものを戦利品になどしない。
今この地上における最適な戦利品は、捕虜と武器だ。
捕虜は正直なところ別に居ても居なくてもいいけど、武器、特にそれがモビルスーツともなれば味方の士気は上がり、軍上層部からの評価もいわずもがな上がるというもの。
この臨時編成部隊、ケルベロス隊のエースパイロット、ジーナ・マスティフこと私が尉官になるのもそう遠くないのでは、などと思ってしまう。
しかしだ、そんなことよりこの狭さはどうにかならないのか。
「……痛っ!」
荒野を駆ける陸戦艇、我らが旗艦ミニトレーの振動で落ちてきた鉄のボルトで控えめなこぶを作りながら、私は改めて振り回されて偏った弁当箱同然の艦内に目を向ける。

「隊長、これどーすんの!?」
「あぁ? 売るに決まってんだろ? もうしばらく待ってな」

隊長、ダリア・ブラッドレー少佐は元死の商人で、戦争が始まるまでは地球に宇宙に場所を問わず、紛争地帯を渡り歩いて、敵味方関係なしに武器を売ってきたという、なんていうか悪魔みたいな女だ。
そんな女が率いているケルベロス隊は、元々それぞれ別の部隊だった私とハンス・グレイロック中尉以外、元々彼女の私兵。副官のオルト・ハーネス少尉以下10名余りの兵隊たちは、長年同じ釜の飯を食ったブラッドレー商会の仲間たち。熟練の整備士から腕利きのパイロットまで、個人レベルでは過剰なほどに優秀な人材を抱えている。
優秀なのは私兵だけではない。彼女の古巣であるブラッドレー商会の輸送艦隊、彼らは非常に鼻が利く。ブラッドハウンドの異名も納得のその鼻で、戦場のにおいを嗅ぎ分けながら地球各地を駆けずり回っているのだ。
今この宇宙で最も商売になるのは激戦地である地球だ。特に北米はかつて地球連邦の一大拠点キャリフォルニアベースがあったこともあり、また南米ジャブロー攻略の足掛かりでもあることから、残党狩りも含めた敵味方入り混じっての激しい戦闘が続いている。

人類が宇宙に移住して80年近く、宇宙移民の代表を気取るジオン公国が独立を宣言して、地球に対して宣戦布告してから10ヶ月、人類は相変わらず血泥を歩んで血涙を流す歴史を、しょうこりもなく繰り返しているというわけ。

「おい、お嬢。ラジオ聴くか?」
「クールなロックでも流してるならね」
「残念、流れてるのはお偉いさんの国葬だ」
副長がお道化た身振り手振りをしながら、頭と体をわずかに傾ける。その勢いで館内放送のスイッチを入れて、お偉いさんの葬式をBGM代わりに流し始めた。

『……我々は一人の……を失った……これは敗北を……するのか? ……始まりなのだ! 地球連邦に……』

移動するミニトレーが電波を上手く受信できないのか、演説の聞き心地は最悪だ。仲の悪い隣人に嫌がらせで聞かせるのであれば満点だけど、狭い艦内の空気を和らげるためだとしたら0点を下回ってマイナスだ。
「ガルマ大佐の追悼演説か。よくもまあ、弟の死を利用できるもんだな」
ハンス中尉が吐き捨てるように呟く。演説の主である公国総帥は、数日前に亡くなった地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐の兄。ザビ家の長兄で、反体制側からはヒトラーの尻尾とも揶揄される独裁者気質の男だ。
だから実の弟の死を利用してもなんら不思議ではないし、吐き捨てるほどの嫌悪感も感じなければ、かといって現実的な政治家だと好感を抱くこともない。
「ザビ家ねえ……」
あんなめんどくさそうな家に生まれたら、さぞ大変だろうな、なんて亡くなった坊ちゃんに同情してしまう。彼は聞くところによると部下からだけでなく、占領地のニューヤークの市民からも好感を持たれるような、有能な上に人間らしさのある一角の人物だったそうだ。
兄のドズル閣下と並んで、ジオンの軍人からの人気は高い。なにかと後ろ暗い長兄と姉とは種か腹でも違うんじゃないか、なんて陰で噂される程度には評価も別物だ。

「マフィアと王様、どっちがマシなのかね……?」

私を拾ったマフィア組織マスティフ家と弟の死でさえも利用するザビ家、なんていうか鉛の弾丸を頭に受けるか胸に受けるかの究極の二択のような絶望を感じるけど、まあこれだけは口が裂けても言えないから黙っておこう。

『……国民よ立て! 悲しみを怒りに……立てよ、国民よ! 我らジオン……こそ選ばれた民……優良種である……人類を救い得る……ジーク・ジオ……』

どうやら演説は終わったらしい。
それと同時にミニトレーも、そのグラグラと揺れ続けるような歩みを止めた。外では黄土色の巨大なカーゴを連結させた大型陸戦艇、ギャロップが待ち構えている。
艦体側面に描かれた口から血を滴らせる猟犬のエンブレム、ブラッドレー商会の輸送艦隊のシンボルは、北米の砂漠においても埋もれることのない、不気味な威圧感を漂わせている。
それはまるで餌を前にした獣のような……。



「ダリア様、随分と集めましたなあ。流石でございます」
「世辞はいい。買い取ってくれるんだろうな?」
「はい、もちろん。モビルスーツに戦車、戦闘機、武器弾薬、使い道は山ほどありますから」
ブラッドレー商会の、右目が金魚のように大きく左目がナイフのように細い左右非対称な顔の男が、次々と戦利品に値をつけていく。相手が自分たちの主の家族、それも同じ死の商人だからか、評価額は甘めに見積もってくれているらしく、普通よりは1割ほど高く買い取るのだそう。
買い取った機体は必要な相手に必要になるタイミングで売る。
例えばジオンのモビルスーツはジオン軍は元より、地球連邦にも売れる。その逆もまた然り。使い道は前に遭遇した鹵獲部隊のような騙し討ちから軍事技術の研究や分析と多岐に渡る。さらにはゲリラや民兵、悪趣味なコレクター、果てはジャンク屋にスクラップ工場、軍人以外にも買い手は多数。
まさに、兵器に捨てるところなし、なのだ。
「ジオンは連邦のジムを研究しているそうですよ。なにやら蝙蝠のような機体を作るのだとか」
「コウモリ? 空でも飛ぶの?」
ジムとは地球連邦の開発した量産型モビルスーツで、性能はザクと大差ない。大きな違いはジオンがまだ量産化に至ってない指向性のビーム兵器を使う点で、必死に生身の兵士みたいに銃弾を撃ってるこっちよりも、ずっと効率よく敵を殺傷できる分、ザクよりも優位に立っていると思う。
でも鳥のように空を飛ぶ技術は搭載されていない。
「鳥と獣のおとぎ話ですよ。私は全身に毛が生えているから獣の仲間です、私は羽があるから鳥の仲間です。ジムの形をしているから連邦の味方です、と見せかけて相手をズドン。なんて考えてるそうです」
左右非対称の男は見た目に寄らず、話してみると意外と気さくで礼儀正しく、新顔の私にもこっそりと秘密の噂話を聞かせてくれる。

「連邦がザクを使う日も近いかもしれませんな」
「……うわ、なんかゾッとするね」

今回購入した商品は以下の通り。ハンス中尉用のスナイパータイプのザクに、連邦の技術を転用して完成させた狙撃用のビームライフル、ケルベロス隊の陸戦仕様のザクに追加装甲やキャノン砲やロケットランチャーなど多数。
さらに嬉しい買い物がひとつ。
「聞け、ハウンド共! この度、我らケルベロス隊は部隊の増強と戦力の強化を果たした! そこでだ、新たに陸戦艇をもう1隻用意した! あいにくこれから海を渡らねばならんので、お披露目までは数日かかるが、楽しみに待っているがいい! 嬉しいか!? そうだろう、嬉しいだろう! 待ちきれないか!? そうだろうそうだろう、でも大人しく待っていろ!」
隊長が機嫌よさそうに隊員たちに告げる。
他のはぐれ部隊から役立ちそうな人員を、ブラッドレー商会から腕利きの傭兵を補充し、それをフルに活用するにはミニトレーでは狭すぎるため、ケルベロス隊は新たに陸戦艇を購入した。
ただし納品は次の戦地でだけど。

死の商人はいつだって激戦地に赴く。死の商人上がりの隊長も当然その習慣に倣って、獲物を求めて激戦地へ向かう。
次の目的地は中央アジア、連邦の反抗作戦を叩き潰すために戦力の集結を急いでいるらしい。
まったく、どいつもこいつも忙しいことだ。


(続く、ただし気が向けば)


ガンダムです。ガンダムの二次創作です。
Gジェネレーションジェネシスのプレイ記を小説風にしたものです。
この手の育成ゲームは「いや、なんでこの時代にこれあるの?」とか「鹵獲した機体を誰に売ってんの?」とか「どっから戦艦買ってんの?」みたいな、よくよく考えたらそうだよねえって疑問が付いて回るものなので、今回その点をまとめて解決するために、インターミッションとして戦艦購入と捕獲整理パートを死の商人の話で作ってみました。キャラクターの掘り下げがてら。

<縛り内容>
・ザク縛り
ザク系以外の使用禁止、ただし開発や捕獲は可
・主人公(ジーナ)とハンスは乗り換え禁止
ジーナはザクⅡ(ドズル・ザビ専用機)ハンスはザクⅠ・スナイパータイプから乗り換え不可。
・戦艦はミニトレーとジオン系戦艦のみ
空中スタートなマップは裏でこそっと進めます
・基本は時系列に沿って進める

キャラ設定その2
ダリア・ブラッドレー
32歳、階級は少佐。
ケルベロス隊の隊長、武器商人。
実は地球降下時にジーナのケーナイン隊と同じような経緯で上官を始末し、隊を乗っ取って自分の私兵たちで脇を固めている。
死の商人ブラッドレー家の武器販売担当だったこともあり、色々と軍需産業方面に顔が利く。
ケルベロス隊旗艦ミニトレーの艦長。

戦艦語り
ミニ・トレー(小説中ではミニトレー)
連邦軍の小型陸戦艇。正式名称は不明でビッグ・トレーの小さい版だからミニ・トレーという仇名。
小さいので小回りが利き、岩とかの障害物にひっかっかりにくいので大変に使い勝手が良い。
最初から空飛べる汎用艦やミデアとかガウとか使えばいいじゃんと言われると、まあおっしゃる通りです、なんだけど、私は地上艦や陸戦艇が好きなのでミニ・トレーを愛用しているのです!
増設ハンガーがあれば搭載数もカバーできますし! 増設ハンガーまだ手に入れてないけど!

ギャロップ
小説内でブラッドレー商会が使っていたジオン製陸戦艇。ケルベロス隊の新しい艦もこれ。
ミニ・トレーと同価格という安価な上に、ちょっと蛙みたいでかわいい。でっかいカーゴを牽引してるのも特徴的でよし。

これがギャロップ&カーゴ。かわいい。

でっかいカーゴが付いてるのに搭載数が少ないので、カーゴは捕獲機体を詰め込んでると考えるべきかなあと。
カーゴはカーゴ、ハンガーはハンガー。似て非なるものなのだ。


現在の進捗状況

順調に進めております!