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ラニーエッグボイラー 第1話「安藤幸子の固うで卵の流儀」

ある時、誰かが言った。労働は喜びだと。
また別の誰かが言った、労働は虚無だと。
私の仕事が喜びなのか虚無なのかは、正直な話、気分によるけれども、世間一般で苦痛とされる労働よりかは遥かにマシだ。目の前にずらりと並ぶヒヨコを見ていると、そう思わざるをえない。
そう、私はヒヨコ工場で働いている。
ひよこ饅頭を作っているわけではない、あれはあれで見た目かわいいし楽しいのかもしれないけど、私の仕事は饅頭屋ではない。アンコという、饅頭屋か和菓子屋で働く以外の選択肢はない、と運命づけられたような仇名を持っているけど、あいにく饅頭屋ではないし、和菓子か洋菓子か問われれば圧倒的に洋菓子派だ。饅頭よりもケーキを好み、大福よりもドーナツを選ぶ。
そんな私の仕事は、農場から送られてきた卵を管理し、生まれたヒヨコを育てて、やがて卵あるいは食肉として出荷するヒヨコ屋だ。
取り立ててヒヨコが好き、というわけでもないけど、人間は本能レベルでかわいい生き物が好きだ。たまにそうではない異常者が生まれたりもするけど、その辺りの感覚に関しては私はいわゆる一般的で普通の感覚を持っていたようだ。ヒヨコはかわいい。
給料は恵まれているとはいえない。それでも私のような叩けば埃が出るどころか、叩けば産業廃棄物が掘り出されるような身でありながら、かわいい生き物に携われるのは恵まれていると言ってもいいだろう。
「ふふっ、今日もみんなかわいい」
だってヒヨコを前にしたら、心穏やかに過ごせるのだから。

もしひとつ不満があるとすれば、
「卵はもう見飽きたんだけどなあ……」
空中に浮かび続ける巨大な卵を、疎ましく思ってしまうことくらいだ。

卵が最初に見えたのは、まだ前の仕事をしている頃だった。
前の仕事は一言で片付けるならば武器屋だ。爆弾専門の武器屋で、商品は手榴弾からパイプ爆弾まで様々、仕入れたものから自作のものまで入手経路も様々、たまに自分でも爆弾を使って手を汚すこともある。
2年ほど前までそんな仕事をしていたものの、ちょっとしたトラブルに遭ってしまって辞めた。
そう、ちょっとしたトラブルだ。
私と仕事仲間のギーは、ちょっとしたトラブルに遭遇して、ちょっとだけ怖い思いをしたから、ちょっとそいつの事務所をビルごと吹き飛ばしてやったのだ。
2年前に世間を騒がせた某ヤクザマンション爆発事件、あれの真犯人が私だ。



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「答えはこれだ、クソ野郎」

私は右手で中指を空へと立てて、左手の親指を地面へと向ける。それと同時に私の背後から盛大に銃弾が放たれる。
この仕事は舐められたら終わりだ、売値を吊り下げようとする奴は夏場のゴキブリ以上に即効で駆除しなければならない。それがどんな金持ちであっても、ヤクザや半グレであっても、ゴリラみたいな大男であってもだ。
タダを爆弾を寄越せと抜かすゴリラと金魚の糞のように付き従うアホ共には、説教よりも鉛玉がお似合いだ。私も拳銃を握って後ろの相棒に加勢し、ありったけの鉛玉を食らわせる。
ゴリラと魚糞共はたちまち血相を変えて逃げ出し、4人いた社会のゴミを半分に減らして走り去っていく。
店の中に残った色黒で目つきの悪い外国人の頭に、念のため1発ずつ弾をぶち込んで、間借りしているヤードのボスに頼んで機械に突っ込んで潰してもらう。

「アンコちゃん、大変だ。今月も財布がピンチだ」
相棒のギーが嘆きの言葉を溜息と一緒に吐き出す。
ギー、本名は左義長(ヒダリヨシナガ)、ヒダリだとややこしいのでサギチョーとかギッチョとか呼んでたけど、どれも長いので最近はギーで落ち着いている。うちの会計士兼店番兼用心棒みたいなもの。
「そうだねー。弾丸代、死体の処分代、アホ共の調査費と始末代、余計な出費で大変だ」
ギーに悲しい現実を突きつける。自分で言っててアホみたいで泣きたくなる。誰だ、武器屋が儲かるって言った奴は? 開業してからこれまで、毎日が火の車で、四六時中休みなく引火して吹き飛ばされそうになってる。
されど、金をかけてでも後腐れなく、がモットーなので、私はゴリラとうんこ共の報復を避けるために奴らの居場所を調べて、この世から消さないといけない。
ドブネズミでも手負いともなれば恐ろしい、今後の平和と安心のためにも禍根は根こそぎ絶たねばならないのだ。


▽ ▽ ▽


昔から禍根と火種は小さい内に潰せという。
誰が言ったかは知らないけど、実際にその通りなのだから仕方ない。善は急げというやつだ。
私が善かどうかは怪しいところだけど、仮に悪だとしたら、それはそれで善が急げなら悪は爆速で、というやつだ。
私はギーに店の片付けとヤードへの支払いを任せて、秘密の抜け道からこっそりとヤードを取り囲む壁の外へと出て、そのまま禍根潰しの支度を整えに行く。
私たちは地下生活者だ。社会的にも環境的にもアンダーグラウンドの住人だ。上でわちゃわちゃと悪を気取ってる連中の知らない、深くて暗い秘密の通路の10本や20本は当然持ってる。ドブネズミやモグラよりもずっと深い、海の底みたいな光の届かない地下に、毛細血管のように張り巡らされた無数の通路をどう歩くか、それが地下生活者を続けるコツというやつだ。

地下には様々な人種がいる。
武器屋に殺し屋に運び屋に偽装屋に不動産屋に葬儀屋に情報屋。どいつもこいつも褒められたような人間では無いけど、使いようによっては馬鹿よりも鋏よりも、銃や爆弾に匹敵するくらい役に立つ。
今から会う奴も、そういう役に立つ道具のひとりだ。

「アンコちゃん、面倒な奴を敵にまわしちゃったねー。奴の名前は金御寺(キンギョジ)、20年ほど前からヤクザの真似事を始めて、詐欺や恐喝で飯を食ってる。今は界隈でそこそこ名の知れた半グレのボスで、裏では殺しもやってる。殺した人数は判明してるだけでも20人以上、得意なやり方は2メートル近い巨体を活かした素手での蹂躙。圧し潰してボッコボコに殴って、機械でミンチにして犬の餌にする。趣味は拷問と理不尽な暴力。曰く、暴力と残酷さが悪党の資本。人望はないけど、抜群の嗅覚と暴力性でそれなりの組織を築き上げた。おっかないねえー、怖いねえー、ボファッファッファッファ」
情報屋の百々山(トドヤマ)が、今にも圧し潰されそうな悲鳴を上げる椅子をくるくると回しながら、相撲取りもびっくりな贅肉だらけの体を揺らして、でっかい生き物のように笑う。
だらしなさを絵に描いたような体型だけど、仕事ぶりは真面目で緻密。砂金を探すように片っ端から集めた情報をふるいに掛けて、多角的に分析して真実を拾ってみせる。
「はい、これ。金御寺の事務所の住所と泊まり歩いてる寝床の一覧、それと部下の名簿、全員の顔写真付き」
膨大な情報の入ったUSBを差し出してくる。百々山曰く、この世で最も強力な武器は情報、どれだけ強力な武器を持っていても、どれだけ強靭な体を持っていても、どれだけ賢く生き意地が汚くても、人間である限り便所にも行くし布団の上で横にもなる。その隙だらけの時間と場所さえ握ってしまえば、それはもう心臓を直で握りしめているようなもの、なのだそうだ。

「はい、まいどありー」
情報は最も強力な武器だ、決して安くない。でも金はどれだけ積み上げても所詮は金だ、命とか尊厳とか五体満足とか、そういうものよりは安い。例えば全財産と指1本なら、私は迷わず指1本を選ぶ。金は道具でしかないのだ。
「出費!」
でも、その金に振り回される日々にはうんざりしている。

金のために危険な橋を渡るのも、安全のために金を惜しみなく使うのも、正直どちらも御免だ。
出来れば静かに平穏に暮らしたい。鉄火場に居ないと退屈で死ぬ、そういう頭のおかしい人種ではないのだ、私は。


▷ ▷ ▷


「というわけで、今回は地雷作戦で行こうと思う」

地下に借りてる隠れ家でパソコンにUSBを突っ込み、金御寺と部下たちの情報を片っ端から頭に叩き込む。
金御寺、下の名前は渥見。36歳、家族構成は別れた妻がひとりと幼い娘がひとり。両親は他界済みで兄弟はいない。娘とは月に1回、毎週第3日曜日に必ず会っている。寝床はランダムで選ぶから確定できないけど、事務所には週に何度か顔を出している。1日に12時間以上同じ場所に居ないようにしているのは、かつて殺し屋を送り込まれたことがあり、とある凄腕の殺し屋を警戒しているからなのだとか。
「本当に実在するのかね、ヨハネなんて」
「さあね。私は会ったことも見たこともないけど、百々山が言うには実在はしているらしいよ」
殺し屋ヨハネ。どんな相手であっても、どんな人数であっても、どんな警備を敷かれていても、24時間以内に確実に仕留めるといい、死神とも死の天使とも呼ばれている。殺し屋たちの最高峰である【鮫】を上回るその腕は、地下生活者たちからも都市伝説の類と思われていて、情報屋が実在するとは言うものの『俺たちに手を出したらわかるよな?』的な牽制なのかもしれない。
本当にいるなら、代わりに金御寺とそのお友達共を全滅させて欲しい。馬鹿ほど金持っていかれるんだろうけど。
「あてにならない都市伝説様には期待せず、自力でどうにかするんだけどね」
私はペンを走らせて、金御寺の事務所の住所と今回の作戦を書き殴る。

事務所の場所がわかるなら、そこに地雷を仕掛ければいい。現れる時間が不明なら、必ず来るように仕向ければいい。
「……アンコちゃん、知ってたけど性格悪いよな」
「いやいや、お優しい方だと思うよ」
作戦を読んで眉をひそめるギーに向けて、鉄火場に似つかわしくない涼しい微笑みを向けた。


△ △ △


普段は上下繋がった作業服代わりのツナギを愛用している私だけど、ヤードの外にいる時は流石に目立つ。
小綺麗な服など滅多に着ることはないけど、人に会うならそれ相応の服装をするべきだし、街を歩くなら異物感のない恰好をするくらいのわきまえは持っているつもりだ。
いわゆるお出かけコーデっぽい格好をして、念のため明るい髪色のウィッグと帽子を被り、パッと見で私だとバレないように街に溶け込む。何年か前に飛沫感染する疫病が流行ったけど、そのおかげでマスクをしたまま歩けるのは実に好都合だ。顔の情報を半分も隠せて、ついでに普段掛けることのない眼鏡でも着けてみせれば、余程近くから覗き込まれない限り、正体を見破られない。

『ギー、こっちは準備万端だ。あとは予定通りに』

準備を進めるギーにメールを打って、ふっと空を見上げる。
空は雲ひとつない快晴。青空を割るように時折刻まれる飛行機雲。澄み渡る青色の中には、ぽっかりと浮かぶ、やたらと巨大な卵。
……いつからか卵が見えるようになった。
最初はどこぞの国の観測気球でも飛んできたのかと思ったけど、誰もその存在に気づかず、写真にも写らず、映像にも残らない。形状は目測で高さ500メートル以上はある巨大な卵で、微動だにせず空中で制止し続け、朝も夜も変わることなく在り続ける。
この卵はどうやら私にだけ見えているらしく、相棒のギーに卵のことを話した時には、ドラッグだけはやめろ今すぐ、とあらぬ疑いを掛けられてしまった。私は煙草は吸ってもドラッグには手を出さない主義なのだ。
だったら卵の幻覚は何なんだ、って話だけど、きっと精神病の一種なのだと勝手に納得している。
中学卒業時に当時の友達を殺害しかけて以来13年、随分と多くの悪事に手を染めてきた。殺した数は金御寺のことを笑えない数に上り、私の売った爆弾でどれだけの被害がもたらされたかわからない。昔から人を傷つけても騙しても見捨てても心の痛まない欠陥人間だと自覚しているけど、私が自覚しない内に無意識下ではゆっくりと傷が膿んでいたに違いない。私にだって人の心というものがあったようだ。
そういうストレスだか罪悪感だかが形になったのが、きっとあの卵なのだ。いや、なんで卵なの、ってツッコミのひとつも入れたくなるけども。

「アホらし……」

だけど、卵は今日も変わらずに、ただただそこに在り続ける。その姿は私のことなんて1ミリも関係ないようにも見えるし、こっちをひどく馬鹿にしているようにも見える。あと少しだけ美味しそうにも見える。
そう、美味しそうなのだ。卵が現れてからというもの、パブロフの犬にでもなったかのように、空を見上げれば卵料理が食べたいと思ってしまう。
元々卵料理は好きでも嫌いでもなかったけれど、こうも四六時中、卵でも食べないかと見せつけられると、卵欲も増してしまうというものだ。なんだ、卵欲って? 肉欲ならまだギリギリありそうだけど、卵欲はないだろう。いや、あるのかな。
でも、もしもあの卵が割れて、中から盛大に卵黄と卵白が垂れ落ちてきて、その下に巨大な熱された鉄板があったら、その卵は恐ろしく旨いに違いない。もしかしたら私の傷が癒えれば、あの卵は割れてくれるのかもしれない。傷の自覚なんて卵の破片ほども無いわけだけど。

「……今夜はオムレツにしよう」

今日もいつも通り動かない卵から視線を外し、目の前の道路をゆっくりと歩いてくる小さい生き物に目を向ける。
よしよし、いい子だ。時間通りに現われてくれた。
私はとびっきり優しく親しみやすそうな作り笑顔を浮かべる。


「ねえ、君。ちょっといい?」



▷ ▷ ▷



『✕✕日午後4時ごろ、○○区のマンションで大規模な爆発があり、未成年を含む50人以上が負傷し、病院に搬送されました。正確な被害状況は未だわかっていません。爆発のあったマンションは通称ヤクザマンションと呼ばれる場所で、近隣住民によると複数階でほとんど同時に爆発が起こったということです。警察と消防は、ガス爆発の可能性がある他、暴力団同士の抗争、過激派宗教団体によるテロ行為等の可能性もあるとみて詳しい情報を調べています。警察と消防によるとマンションは上半分が跡形もないほど壊れており、周辺の住宅や飲食店などで窓ガラスが割れるといった被害も出ています。現在もなお危険があるとのことで、周囲は立ち入り禁止となっています』


ここ数日、ラジオから流れるニュースはこればかりだ。
まさかこんな大事件を起こした犯人が、呑気に蕎麦を啜ってるなんて店主も予想だにしないだろう。
私は向かいの席に座るギーの天ぷら蕎麦の海老を箸で挟みこむと、素早く自分の口の中へと放り込む。
「アンコちゃん、海老を取るのは禁じ手だろ」
苦情は無視だ。私は目の前に海老があるのに、それを見逃すほど愚か者ではない。
海老に続いて自分の陣地にある出汁巻き卵に箸を伸ばす。途中、ギーが箸を伸ばしてきたけど、皿ごと非難させて阻止してやった。
うん、うまい。適当に入った蕎麦屋だけど当たりだな、あとで蕎麦湯も貰おう。

私とギーは武器屋を廃業して、どこか遠くへ逃げることにした。金御寺の残党を恐れて、というわけではない。そこはすでに手を打ってある。
単純に金が尽きたのだ。情報代に爆弾代、買い取った部屋の代金、運び屋の代金、残党狩りの派遣代、隠れ家と車の処分代、口止め料、その他諸々、あまりにも金が掛かり過ぎた。今回のトラブルと後始末で店を回していく資金は底を尽き、このままでは食べれる野草を調べなくてはならない、というところで、ならば残った在庫を格安で店ごと他の武器屋に売り払って、しばらく食べていけるだけの金を握り締めて地上へと出てきた、というわけだ。
元々愛着のあった仕事でもない。このまま誰も知らない地方都市でのんびり次の仕事でも探しながら、謎に卵料理を食べたくなる幻覚に悩まないようにしっかり治して、その後は真面目に働くもよし、地下に戻るもよし、その時の風まかせだ。

「で、ギーはどうすんの?」
「今さら堅気の仕事も無理だし、ほとぼり冷めたらカナガシラの旦那でも頼るよ」
カナガシラというのは老舗の武器屋の男で、火薬屋と呼ばれている。銃器から火薬まで幅広く扱い、店の処分に協力してくれたのも彼だ。生涯現役を掲げているけど、実際のところ年齢は60過ぎで後継者を欲しがってた様子もあったから、彼に弟子入りするのもそんなに悪い選択肢ではない。
私は御免だけど。

「アンコちゃんはどうするんだ?」
「そうだね、天津飯かな」
「いや、晩飯の話じゃねえよ」



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ということがあり、私は縁も所縁もない地方都市に逃亡して、そのまま地味にひっそりと暮らしている。
ギーが今どうなってるかわからないし、限りなく少なくなった貯金は減ることはあっても増えることはなく、枕元に忍ばせた拳銃はいつまでも手放せない。空中に浮かぶ謎の卵は相変わらず遠くの空に浮かんでいて、卵のことが頭から離れないあまり、うっかりヒヨコ工場なんかに就職してしまった。
ヒヨコがかわいいのと時々食べる用の卵を持って帰れるので、別に不満があるわけではないけど。

「えーと、塩、塩」

IHの卓上コンロでお湯を沸かして、そこに塩を何度か振って、生卵を何個かゆっくりと落とす。
今日の夕飯は茹で卵を使ったサンドイッチだ。料理が趣味というわけじゃない。ただ、今頃になって報復があるとも思えないけど、不用意に繁華街をうろうろするような真似はしたくない。必然的に引きこもりがちになってしまうから、節約も兼ねて自炊をするようになってしまったのだ。
おかげで毎日を案外健康的に丁寧に暮らしているし、職場と職場近くのスーパーと家の3箇所だけで生活が成り立っている。たまに光熱費と水道代を払うコンビニを入れたら4箇所か。どのみち最低限で静かな生活だ。

「5……4……3……2……1」

きっちりと時間を計りながら秒を刻んで、流し台に移した鍋に盛大に水を注ぎこむ。
茹でた卵は水で冷やすと中身が縮んで剥きやすくなる。折角茹でたのに剥いてボロボロになるほど興覚めするものはない、暇を持て余した引きこもりは茹で卵にも妥協しないのだ。
ちなみに剥く時は水をかけながらだと綺麗に剥ける。これも暇人の知恵というやつだ。
完璧に剥けて、しっかりと黄身まで固まった茹で卵を包丁で半分に割り、冷蔵庫の横のパンだの袋麺だの置いてある棚に顔を持っていく。

「……ラーメンだな」

私は鍋に再び水を注いで、IHのスイッチをそっと押した。


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