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ラニーエッグボイラー 第7話「銃と刀と爆発卵」

世界は不平等で満ち溢れてるけど、唯一、銃だけは誰に対しても平等だ。
どんなに弱くても引き金を引けば命を奪えるし、どんなに強くても頭か心臓を撃たれれば死ぬ。他の武器ではそうはいかない、剣にしてもナイフにしても、チェーンソーにしても、投げものにしても、どうしても体格の差や腕力の差が出てしまう。しかし銃は誰に対しても平等でいてくれる。
私は銃が好きだ。銃を握っている時間が好きだし、引き金を引く瞬間が好きだし、銃を袖や懐に潜ませている間の安心感が好きだ。
そして、

「待て! 待ってくれ!」
「待つわけないだろ、ヴァーカ」

パスンと空気が抜けるような独特な音を漏らしながら、サイレンサー越しに銃弾が通り抜ける。
銃弾はそのまま標的の眉間に突き刺さり、頭蓋骨の中で頭の中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜて、標的の命を奪う。
趣味でやっているわけじゃないけど、この仕事を成し遂げる瞬間は好きだ。
今回の仕事は事務所ごと天まで吹き飛ばされた半グレの親玉、金御寺の残党狩り。きっちり全員仕留めろという話ではなく、6人の内なるべく多く始末すればいいボーナスステージ。
病院、薬の倉庫、拷問部屋、移動中の車、あっちこっちに潜む残党を狩るのは結構大変だ。それでも今さっき撃った奴を含めて5人も狩ったんだから、かなりよくやったと思う。私じゃないと3人で止まってたと思うね。

「んー! んんー!」

トランクの中に男がふたり、ガムテープでぐるぐる巻きにされてたけど、標的じゃないのでそのまま捨てておいた。
私は殺し屋だけど趣味で殺すことはしない。師匠にもいつも口すっぱく言われてる、快楽や私情で殺す奴は三下だ、って。

▽『仕事終わったっぴ』
SNSで何気なく呟く。別に誰になにを伝えたいわけでもないけど、私は友人も知人もいない。殺し屋にそんなもんいてたまるかって思うけど、作れないのと作らないのは全然違う。せめてSNSでくらい誰かと繋がってもいいじゃないか。
▼『おつかれっぴ』
暇なのかすぐにリプが飛んでくる。
何人かやりとりする特定の相手がいるけど、その中でもキャビア丼さんは特に暇人だ。きっと無職に違いない、無職にしては親子丼とかハンバーグとか家系ラーメンとか、載せる写真がいつも外食ばかりの上、基本的に生ビールがセットになってるからエンゲル係数と健康状態がやばそうだけど。
この前なんてメガジョッキビールに爆盛のいくら丼なんて食べてた。もしかしてフードファイターか何かなのか?
▽『ありがとちゃん』
スマホをポケットに突っ込んで、欠伸しながら電波も監視の目も届かない地下へと降りる。
殺し屋は地下生活者だ。いつでもどこでも姿を消せるように秘密の通路を何本も持ってる。最初はめんどくさって思ったけど、仕事をすればするほど監視カメラだらけの町にうんざりするし、地下通路のおかげで捕まらずに済んでる。誰が作ったか知らないけど、マジありがたいってところだ。


▽ ▷ ▷


「ししょー、ただいまー」
「おう」
私の師匠はカナガシラと名乗る武器商人だ。
無口で無愛想で60過ぎのジジイだけど、武器を買いに来る客が言うにはルックスはかなり良いらしい。私から見た師匠は田舎の田んぼに浮かぶカラス除けに人間の体がくっついてるだけにしか見えないからわからないけど。
そうなのだ、私は人間の顔が同心円状の的にしか見えない奇病を患っていて、人の区別がつけられない。映画を見ても写真を見てもそれは変わらなくて、私の世界は物心ついた時から的だらけだった。
ただし、依頼の標的と説明された相手だけは、頭の中のスイッチが入ってくれて正しく顔を認識できるから、仕事をする上での不自由はない。むしろ人混みの中でも標的とそれ以外の区別が瞬時につくから結構便利だ。
だから、殺し屋って仕事は転職だと思う。他の仕事はなにひとつ出来る気がしないけど、殺し屋はこのまま一生、いつかババアになって衰えて返り討ちにされるまで続けたい。
「何人やった?」
「5人。あとひとりはどーしても見つかんなかった」
「そうか。まあ、お前にしては上出来だな」
師匠は人を手放しに褒めることはしない。ただし不必要に蔑むこともしない。つまり上げることも下げることもなく、私にしては上出来、というが現時点での正当な評価なのだ。
「私にしてはっすか……鮫は遠いなー」
【鮫】というのは殺し屋の頂点と呼ばれる連中のことで、仮に殺し屋ランキングなんてものがあったら、都市伝説的な死神ヨハネを除いて2位から下はずらっと鮫の名前が並ぶ。デブの情報屋がいうには私は58位らしく、ついでに金御寺は36位。私は吹き飛ばされるマヌケ以下かよ、舐めるな。

「ねえ、ししょー。私が鮫になれるの、いつなの?」
「鮫? お前、そんなもんになりたいのか?」
「なりたいに決まってんじゃん。やるならなんでも上を目指すでしょ、ふつーは」
師匠はジジイだから現状満足できるのかもしれないけど、私はまだ19のクソガキだ。伸び盛りで才能あふれる年頃なんだから、このまま順当に仕事をこなせば鮫に選ばれるって夢見たっていいわけで。
思い上がるわけではないけど、私には才能がある。完全な両利きで両目利き、左右どちらで撃っても、左右同時に撃っても、それが動く的でも早撃ちでも精度を下げずに当てれる。テッポウの異名で呼ばれる理由でもある特異な才能だ。
師匠だって左右同時に当てるなんて真似は出来ない。100メートル以上の狙撃に関しては師匠の方がまだまだ上だけど、拳銃の距離に限ったら私の方がずっと上だ。
「だって、ほら。私、天才だし」
師匠が呆れたように溜息を吐いて、腰をトントンと叩きながら台所へと引っ込んでいく。

師匠はもう年だ。
鮫に選ばれれば依頼金は桁が1つ2つ変わるって噂だ。ちょっと大金でも渡して楽させてあげたい殊勝な気持ちくらいは、私みたいな殺し屋にだって少しはあるのだ。

△ ▷ ▷


「テッポウちゃん、次の標的はこの男、世間を絶賛お騒がせ中のカルト団体、傾乱教の教祖様。期間は問わず、何年かかってもいいからこの世から葬り去ってほしいって、騙された元信者の遺族からのご依頼だよー。常に教団幹部に囲まれてる上に、最近は腕利きの護衛を雇ったんだって。大ピンチだねー、うまくやれるのかなー、健闘祈ってるよー、ボファッファッファッファ」

スマホの向こうで、デブの情報屋がふざけた口調で笑っている。
送られてきた写真には、その教祖様こと鳥塚敬乱(トリヅカケイラン)の他人を小馬鹿にしたような長い髪を天辺で結び、同じく伸ばし続けた髭を三つ編みにした姿が映っている。
護衛の情報はまだ不明らしいけど、鳥塚を囲ってる奴は全部敵と考えれば済む話だ。
ゆっくりと息を吸い込んで、奴が滞在しているらしい教団支部のビルを見上げる。ビルは山裾に建てられた幅の広い8階建てで、1階は駐車場になっていて、屋上にはなぜか知らないけど巨大な卵のオブジェが設置されている。パッと見には卵工場にしか見えない。
夜空に浮かぶ巨大な卵と並ぶと、ますます頭がおかしくなりそう。世界は卵で出来ていて、顔に的を張り着けた人間ばかり。私じゃなかったら気が狂ってると思う。
「……帰ったら卵かけごはん食べよ」
改めてビルを観察すると、壁面全体がガラス張りで開放的に見せかけているけど、よくよく見てみるとどこにもドアらしきものがない。ビルの2階から上全部に大きめの水槽を被せたような、よくわからない構造をしている。もしかしたらスライド式の扉とかあるのかもしれないけど、そこまでは外から眺めてもわからない。
要するに出たとこ勝負ってやつだ。

「あれ? 警備いない?」

唯一の入り口である1階駐車場の奥の、正面ではないけど力技で正面玄関と言い張る扉の前には、警備員のひとりも立たず、おまけに鍵も掛けられていなかった。田舎の山の中とはいえ、命を狙われるようなカルト宗教のくせに不用心なことだ。それとも頭がイカレ過ぎて、全員返り討ちにしてやる何時でもかかってこいって姿勢なのか。どっちみち理解できないイカレ具合だ。
ビルの構造は、入ってすぐにエレベーターと階段があって、2階から4階までが信者の居住スペース、5階から7階までが修行場、8階が儀式用のフロアと幹部用の部屋になってると案内板にあるけど、これを信じていいものか。カルト宗教が対外的に案内するんじゃない、もっと秘密裏であれ。
エレベーターは夜だからか起動していない、依頼人によると信者は居住スペースにすし詰め状態で暮らしている、ということは最悪の場合、かなりの数の信者を突破しないといけないわけで。
「爆弾でも持ってくればよかった」
人壁対策に弾は多めに持ってきたけど、私は別に殺戮者になりたいわけじゃない。標的以外を巻き込むのは美学に反する、無駄弾を使うのはもっと反する、失敗は反するどころか屈辱だ。
ドア開ける、信者が起こさないように階段を上がる、とっとと仕留めて即脱出。
頭の中で何度か動きを反芻させて、静かにドアを開いた。


△ △ △ △ ▷


……無駄弾? 撃った撃った、非殺傷性のゴム弾だけど。
美学で腹が膨れたら苦労はしない、階段を上がってる時にたまたまトイレか何かで出くわした信者を撃っておいた。カルト宗教に洗脳された連中と話し合う気はない、先手必勝、傷害は即排除が最善手だ。悪党のやり口だけど。
そのまま手足を縛って階段の隅っこに転がして、無駄にでかくて縦に長い扉を開くと、そこは妙な空間だった。
修行場とされるエリアは3階分をそのまま縦にぶち抜いた造りで、太い柱と蛇のように巻き付いた螺旋階段が10本、壁際には渡り廊下のような通路と上下を繋ぐ梯子と階段、天井には吊り下げ式の照明が10個くらい、奥には多分倉庫と便所が複数。窓はひとつもなく、扉を閉めた途端に外からの音が一切遮断される。おそらく中の音は扉の向こうに一切届かない、そういう造りだ。
だけど妙なのは構造そのものじゃない。床一面に無数の刀剣が西洋東洋を問わず突き立てられているのだ。まるで武器の墓場、剣の森、武器マニアが見るヤバめの幻覚、そんな光景。

(……あれが護衛?)

そんな酔狂な修行場の奥に人影がひとつ。
顔は的だからわからない。背は高くないけど佇まいに雰囲気がある。だぼっとしたオーバーサイズの上下を着て、腰に左右2本ずつ刃渡り70センチほどの刀を提げて、服の中や袖口にも何本かナイフを隠している。
武器は強い、その武器をいっぱい持ってたらもっと強い、みたいな発想なのか。それとも投げたり手放したり、次々に使い捨てていくスタイルなのか。床に突き立てられた数え切れない刀剣からすると、使い捨てと考えるのが妥当か。
相手の動きを警戒しながら銃を握る手に力を込めた瞬間、目の前の人影は器用に1本の剣の上に飛び乗り、さらに片足をもう1本、別の剣へと伸ばした。そのまま爪先で剣の柄尻を掴んだかと思ったら、まるで足が延びたみたいに地面を剣ごと走り始めた。地面に刺さった剣を2本擦り抜け様に掴み取ったかと思うと、銃を撃った瞬間には遥か頭上へと剣ごと跳び上がり、空中から足で掴んでいた2本を投げつけてきた。
私の目の前に突き立てられた2本の剣の上に着地しながら、高所から左右の剣を繰り出し、まるで手足が刃の分だけ長いモンスターのように4本の剣を振り回すという、曲芸師もびっくりな離れ業を殺意に満ちた太刀筋でやってのける。
しかも少しでも距離を取ろうと撃ち込んだ弾丸を、足で掴んだ剣で蠅でも追い払うかのように斬り飛ばしたのだ。

「こいつ、鮫か……!?」

真っ二つに割れた弾丸を視界の端で捉えて、ようやく察した。
やってることが滅茶苦茶で、人間離れし過ぎてて、器用とかそういうレベルじゃない。なんていうか、存在そのものが理不尽で不条理で、それくらい生き物として馬鹿げてる。
殺し屋の最高峰【鮫】、きっと目の前のこいつはその中のひとりなのだ。
師匠から以前言われたことがある。鮫を同じ人間だと思うな、人間を殺傷する技術を突き詰めた彼らは、人間の形をしている別の生き物、人間を食らう捕食者だと思え、と。
「鮫……そんな呼ばれ方もされてる」
人影がぐるりと回転しながら2本の剣を真っ直ぐに飛ばし、片方は握った銃の尖端を、もう片方は抜こうとした銃の側面を、強引に打ち落とすように突いてくる。
「あんな連中と一緒にされるのは不本意だがね」
鮫は高くも低くもない中性的な声色で答えながら、バク転を何度か繰り返して再び剣を4本補充して、今度はさっきと同じ要領で大きな歩幅で壁を走り出した。

師匠はこうも言っていた。もし鮫と対峙したら――


――絶対に逃げろ、と。


だけど、私は逃げるつもりはない。相手が強いから、難しいから、鮫だから、そんな理由で退いたらプロ失格だ。
考えろ。相手は鮫、とはいえ離れているけど人間で、腕も足も伸ばされてるけど2本ずつで、銃に当たれば死ぬ生き物だ。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ――



静かに肺いっぱいに息を吸い込む。
銃を連射して鮫を牽制しながら扉を蹴り開けて、階段から階下に向けて銃を連射し、肺に溜め込んだ空気を一気に吐き出す。

「起きろ、信者共! お前らの大事な教祖様を狙った殺し屋がここにいるぞ!」

サイレンサーを通さない銃声が派手に響き、叩き起こされた信者たちがぞろぞろと階段へと集まって、ひとつの塊となって上がってくる。
小さい頃に読んだ小魚がいっぱい集まって大きい魚を退ける絵本みたいだなとか思わなくもないけど、別にそういう狙いじゃない。
むしろ逆、私の作戦は満員電車だ。
鮫が化け物じみた動きをしてくるなら、動けないくらいの大勢をこの部屋に放り込んでしまえばいい。
波のように押し寄せる信者たちの群れを引き寄せながら、鮫から聞こえてきた僅かな舌打ちを確かに聞き取って、渡り廊下へと走って銃を連射する。照明を次々と撃ち抜き、真っ暗になった修行場は非常灯や懐中電灯を探す信者たちで溢れている。
鮫は2本の剣を使って反対側の渡り廊下へと駆け上がり、そのままこっちへと走ってくる。剣を足代わりにするには下の信者が邪魔になり、かといって一足で跳んでくるには距離があり過ぎる。
「足場を封じたら勝てるとでも?」
「まさか。そんな甘い生き物じゃないのはわかってるよ」
瞳を閉じて心の中で数字を数える。

鮫の剣が届くまでおよそ5秒、4、3、今だ!

逃げるように手摺に乗り上げて、そのまま螺旋階段の絡みつく柱めがけて跳んだ。しっかりと置き土産を残して。
顔を覆う両腕と堅く閉じた瞼越しでも強烈な光が飛び込んでくる。私が残した土産は閃光弾、師匠に護身用にと持たされた大音量と閃光を発するフラッシュバンだ。それをちょうど私が跳ぶ瞬間に爆発するように仕掛けておいた。
鮫は私を狙うために暗闇の中で目を凝らしていたはず。そうじゃなくても至近距離で閃光と爆音を浴びせられたら、数秒はまともに五感が働かなくなる。
その間に私は目と耳のやられた信者たちを掻き分けて、螺旋階段を上へと一気に駆け上がる。
「じゃあな、鮫! そこで麻痺ってろ!」

そう、私はプロだ。護衛の鮫と戦うのが仕事じゃない、標的を仕留めるのが仕事なのだ。


✕ ✕ ✕


「……で、失敗して帰ってきたわけか?」

師匠が呆れた口調で私を見下ろしながら、片手で器用に林檎を剥いている。
そう、私はプロ失格だ。螺旋階段を駆け上がって最上階に行ったものの、標的の教祖の姿は何処にもなく、バタバタしている間に鮫に追いつかれたかと思ったら、鮫はそのまま屋上へと駆け抜けて、巨大な卵のオブジェを支える土台をぶった切って、卵を下へと落としたのだ。
その動きに教祖が卵の中に隠れていると判断した私は、慌てて下へと走ってビルの外に飛び出して、卵の落下した位置まで走った。
そしてちょうど卵に辿り着いたあたりで、鮫にも追いつかれて、脇腹に強烈な1発を貰って倒されてしまったのだ。
「騙されてくれて助かったよ」
「……あぁ?」
顔が的にしか見えないからわからないけど、あの時確かに、鮫が笑ったような気がした。

「で、気づいたら鮫に闇医者のところまで担ぎ込まれて、そうやって半泣きになってるわけか」
「そう虐めてやるな、カナガシラさん。この年であの腕なら将来有望だ……有能さを活かす未来はないがね」

鮫はイタチという名の女で、どういうわけか目を覚ましたら隣で椅子に座って、面白ポイントのわからない死刑囚の手記なんかを読んで時間を潰していた。
起きた後で聞かされた話によると、教祖は実は上ではなく、殺し屋が来ると察したイタチが修行場の奥の便所に放り込んでいて、卵は冷静に考えたらそうなんだけど単なるオブジェで、中に誰か入っているわけもなく、私はまんまと騙されてしまったのだ。それはそうだ、あんなのに入って屋上から落ちたら、中の人間は無事では済まない。焦りのあまり、私はそんなことにも気づかなかったのだ。馬鹿じゃないの、そうだよ、馬鹿だよ!
そのまま私を叩きのめしたイタチは、二丁拳銃使いの小娘という情報から私を師匠のとこの子だと気づいて、普段世話になっているからと運んでくれたのだとか。
ちなみに何度か師匠の店で顔を合わせてるそうだけど、全員顔が的なんだからそんなもんわかるか。名札付けてこい。

「テッポウだっけ? 私が言うのもなんだけど、鮫なんて目指すことはない」
「私みたいなマヌケにはなれないって言いたいの?」
「そうじゃない。鮫に選ばれると、食いっぱぐれるからだよ」

イタチによると、鮫に選ばれると単価は桁がひとつふたつ跳ね上がるものの、そうなると依頼自体がものすごく限られてしまい、だいたいの仕事は私のレベルの、いわゆる中堅どころに回される。そして世の中的な不況のあおりもあって仕事そのものが大幅に減りつつあり、殺し屋という存在がそもそも時代遅れ、今は闇バイトだなんだとクソみたいな値段で使い潰せる駒が溢れてるせいで、市場バランスが崩壊してるのだという。

「ねえ、ししょー。私にそんなもんになりたいのか、って聞いた理由って……」
「あぁ? 廃業したいのか、って意味だが?」

長めの溜息が漏れる。魂が抜ける音かもしれないけど、生きてるから魂はまだ抜けてないらしい。ちゃんと生きてるし、ちゃんと死に損なったし、ちゃんと虚ろな感情でスマホつついてる。


▽『仕事やめよっかな』
▼『そのうちいいことあるから元気出しなよ』
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スマホからイタチへと視線を移すと、いつの間にか本をスマホに持ち替えている。
「フォローしといたから」
「いらん!」
私はスマホを投げつけて、脇腹の痛みに悶絶しながら、うっすらと涙を浮かべたのだった。


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