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ラニーエッグボイラー 第3話「パパとオムレツ」

わたしのパパはおおきくてやさしいです。
ママはいつもパパの悪口ばかり言っていて、「ぼーりょくクソやろう」とか「ヤクザくずれ」とか言うけど、パパは顔はすこしこわいけど私にはとってもやさしいです。
りこんちょーてーのじょーけんとかで月に1回しか会わせてもらえないけど、だい3にちようびはパパに会える日です。
その日は朝からこうえんに連れていってもらって、ベネディクトといっしょにいっぱい遊んでもらいます。ベネディクトはパパが買ってくれた犬で、ポリッシュ・ローランド・シープドッグというしゅるいの犬です。とってもかわいいです。
こうえんで遊んだあとは、かならずわたしの好きなオムレツを食べさせてくれます。オムレツはパパのてづくりで、ほんとはパパはりょうりとかしないけど、わたしのためにがんばってれんしゅーしたそうです。
その後はイオンにかいものに連れていってくれて、いつもプレゼントにってぬいぐるみを買ってくれます。

パパは泣き虫です。
ママは「あくまみたいなおとこ」って言うけど、パパはほんとはとっても弱くて泣き虫です。パパはねているときはいつも泣いていて、すごくこわがりながら「ママァー、ママァー!」ってさけびます。
わたしが生まれるより前に、すごくこわい思いをしたからです。
パパのせなかにはホトケサマの絵がかいてあって、でもはんぶんくらい消しゴムで消したみたいになっています。パパの手には穴があいたあとがあって、すごくこわいサメに、虫のひょうほんみたいにさされて、せなかの肉をはがされたんだそうです。
今でもそのことがこわくて、ねむるとわんわん泣いてしまうのです。
あとバイバイするときも、いつもわんわんと泣いてしまうので、なんだかおっきなあかちゃんみたいです。
わたしはそんなパパが大好きです。

その日はパパに会うやくそくの日のすこし前で、学校がおわってともだちといっしょに家にかえろうとしていると、きれいなおねえさんに話しかけられました。先生からはしらないひととしゃべってはいけませんって言われていたけど、おねえさんはパパのおしごとの部下って言ってたし、とってもやさしそうな顔をしてたので、ついしゃべってしまいました。
おねえさんは「お父さんが待ちきれないからむかえにきたんだ、大人もがまんできないことがあるんだよ」と笑いながらソフトクリームをおごってくれて、タクシーにのってパパのおしごとのじむしょまで連れていってくれました。
タクシーにのっている間に「お父さんをおどろかせてあげよう」と、服のうえから小さい箱をいっぱいつけて、その上からポンチョをかぶせてきました。箱にはパパが喜んでくれるプレゼントが入っていて、おねえさんのどくだんらしいので、言ってはいけないよって指きりをしました。

じむしょのあるおおきなマンションの近くにつくと、おねえさんは私をタクシーからおろして「あっちだよ」と指さして、そのままおしごとにもどっていきました。
わたしももう小学1年生なので、ひとりでパパに会いにいけます。
マンションの前までいって、立っていたあたまが金色のおにーさんに、パパに会いにきたっていうと、すぐにパパを呼んできてあげると言って、でんわをかけていました。
パパはすぐにやってきて、すこし前にけがをしたとかで腕にほーたいを巻いていました。
パパのじむしょでポンチョをめくると、パパたちは驚いた顔をしていました。
サプライズせいこうです。

でも、パパは今まで見たこともないくらいこわい顔をして、まわりの人たちは「ばくだんだ!」っておおさわぎです。
ばくだんはしっています。せんそうえいがとかヤクザえいがとかに出てくる、とってもあぶないものです。
わたしはびっくりして泣いてしまって、そのあとすぐに箱からピピピピって音がして、そのあとはよくおぼえていません。
気がついたらじむしょはぜんぶふきとんでいて、パパはからだの上半分がなくなっていました。

わたしはなにがなんだかわからなくて、泣きながら歩いていたら、みんながずらーっと並んでるぎょうれつができてたので、どうしてもそこに並ばないといけない気がして、そこに並ぶことにしました。
「おやおや、おじょうちゃん、こんなに小さいのに死んじゃったのかい、かわいそうだねえ」
さいこうびって書いてあるたてふだを持ったおじさんが、たてふだをわたしに持たせながら頭をなでてきました。
おじさんが言うには、この行列は1000人くらいいて、かずが多すぎて先がみえないけど、みんなゆうれいで誰かにとりついてるそうです。
とりつかれてる人はふしぎなちからがあって、24時間その人といっしょにいた人の数だけ、せんとうからじゅんばんにじょーぶつできて、その代わりに同じ数だけゆうれいになった人が並んでいく「シチニンミサキ・システム」という仕組みになっているそうです。
ときどきわたしみたいな迷子のゆうれいがまざっちゃうみたいで、行列もはじめは100人くらいだったのに、だんだんとふえていってるんだって教えてくれました。

とりつかれてる人の名前はすこしむずかしくて、みんなからは呼びにくいから「ヨハネ」と呼ばれているそうです。

パパもゆうれいになったんだったらいっしょに並んでほしいのに、パパはいつまでたっても来てくれません。きっと迷子になって寂しくて泣いてるので、ヨハネさんにパパを探してって言いたいです。
でも行列はおいこしきんしなので、ヨハネさんと話せるのはずっと先になりそうです。
行列がちっとも進んでくれないから、近くのおじさんやおばさんと、みんなで空にうかんでる卵をながめました。
パパのつくってくれたオムレツが食べたいです。ヨハネさんと話すばんになったら、いっしょにパパを探してもらって、オムレツを作ってもらいたいです。
だからヨハネさんは、はやく行列をどーにかしてください。


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