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雨の匂いの話

今日は帰りに突然の雨が降ってきた。いつもより大粒な雨は、車の花粉や黄砂を取り払うようにぽたぽたと降った。傘に当たったなら、いい音がすると思う。

雨は嫌いじゃない。傘を叩く音が好きだし、何となく寂しくないから。ことに夏の雨は良い。蒸される感じもするが、深夜を過ぎると途端に魅力的な風景を連れてきてくれる。

今日も暖かい日の雨だった。車から降りると、アスファルトに染み込み始めた雨の匂いがする。電車が雨をかき分けながら進む。濡れているのに、何だか良い気分だった。

雨の成分に反応して、アスファルトから雨の匂いが発せられるらしい。だから、土の傍で嗅ぐ匂いとは異なるらしい。調べてみれば、自分も産業の上の風流を感じているのだとゾッとする。

今日は窓を開けてみる。春の雨の匂いがする。長電話しながら、外の空気に触れた日を思い出す。この季節が気に入っていると言っていた人を思い出す。

ちょっとだけ悲しいけれど、少しだけ暖かい気がする。貰ったものは、自分の中で少しずつ育っている。痛みを伴う温もりだ。