第三夜

こんな夢を見た。
何を探して、何を見たくて、今焦っているのか分からない。久しぶりの幽体離脱だ。やけに身体は重く感じる。苦しいけれど、眼前に傾いた夕日が現れる。

何かを美しいと思えるだけで、幸せなんだろうか。感受性が死ぬ音がする。いつか夕日を見たって、何とも思わない日が来てしまうのだろうか。

あの時の言葉を間違えた。
悲しそうな顔に気付かぬ振りをした。
震えてる手を離してしまった。
大切なものを見落とした。
幸福を渇望してしまった。
壊れたものを壊れたと認識することから逃げた。


今まで繰り返してきた悪行の数々が身体へまとわりついて、重たくなっていく。幽体離脱の足取りは難航を極めていた。

誰かの幸せを願えたなら、きっと今頃救われていたのだろうか。幽体離脱してもなお、現世から離れられぬ事が苦しい。

気がついたら、あるお寺の境内に居た。幸福を願うこと、渇望することが煩悩だとするなら…。思い切り鐘に体当たりしてみた。鳴らすこと、105回。未だ幸福への渇望、消えず。あと3回。

3回なんかで足りるものか。楽に幸せになりたいだろう。そんなことより、早く肉体に戻って、深く深く眠りたい。何だか身体が重くなった。