遠藤 直見(サステナビリティ経営研究家)

日本企業の持続可能な経営のあるべき姿についての調査・研究、情報発信など。 国内大手IC…

遠藤 直見(サステナビリティ経営研究家)

日本企業の持続可能な経営のあるべき姿についての調査・研究、情報発信など。 国内大手ICT企業にてソフトウェア開発、品質企画・推進、CSR推進業務全般を担当後、シンクタンク系グループ企業の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。

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最近の記事

サステナビリティ経営と資本コスト経営

伊藤レポートが一貫して要請してきたこと 2014年、経産省が伊藤レポート(伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科教授(当時)を座長とするプロジェクトの成果)を公表しました。そこでは、日本企業がイノベーション創出力を持ちながらも持続的低収益に陥っているという問題提起がなされました。そして日本企業に対し、資本効率性の向上(市場が期待する収益率である資本コストを上回るROEの達成)を要請しました。 この要請は、その後の伊藤レポート2.0(2017年公表。無形資産への投資及びESG(

    • 松下幸之助氏の「想い」とサステナビリティ経営/SX

      国家国民の繁栄と発展のために 10月6日付日経新聞に『貯蓄から投資へ未完の挑戦 「1億総株主」幸之助翁の先見』と題する記事が掲載されていました。これは、日本の家計金融資産が貯蓄から投資へとシフトすることの重要性について解説したものです。 その題材となっているのが、パナソニック創業者の松下幸之助氏が、今から半世紀以上前の1967年に雑誌「PHP」に発表した「株式の大衆化で新たな繁栄を」と題する論文です。 本論文を通して松下幸之助氏は「株式会社が健全にして安定した経営を行い

      • 伊藤レポート3.0と価値協創ガイダンス2.0

        8月31日、経済産業省は伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)と価値協創ガイダンス2.0を公表しました。 2014年公表の伊藤レポートでは、日本企業がイノベーション創出力を持ちながらも持続的低収益に陥っているという課題認識を踏まえ、資本効率性の向上(資本コストを上回るROEの達成)を企業に要請しました。 2017年公表の伊藤レポート2.0では、中長期的な企業価値向上のためには、人的資本や知的資本などの無形資産への投資やESGへの対応が重要であり、それらの取組についてスト

        • 人権尊重はサステナビリティ経営の基盤

          9月25日付日経新聞の社説で「企業は人権問題への対応急げ」と題する記事が掲載されていました。「企業活動において人権尊重は不可欠な要素。人権尊重に積極的でない企業は評判を落とし、製品やサービスの競争力を失う。米欧では人権を軽視する企業が、取引から締め出されつつある」という内容です。 2011年に全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準として、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で承認されてから10年余りが経過しました。 企業の人権問題が多様化・複雑化 各

        サステナビリティ経営と資本コスト経営

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        • サステナビリティ経営
          15本

        記事

          中小企業にも求められるサステナビリティ経営

          サステナビリティ情報の有価証券報告書への開示が義務化へ 6月13日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告が公表されました。この中で、気候変動、人的資本、多様性など企業のサステナビリティ情報について有価証券報告書(以下、有報)に「記載欄」を新設することが明らかになりました。 また、サステナビリティ情報が、自社の中長期の企業価値や投資家の投資判断において重要である(以下、重要性がある)場合には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークであ

          中小企業にも求められるサステナビリティ経営

          企業のサステナビリティ情報開示の義務化と価値創造ストーリー

          5月23日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(案)が公表されました。 この中で、気候変動、人的資本、多様性など企業のサステナビリティ情報について有価証券報告書(以下、有報)に「記載欄」を新設する見通しであることが明らかになりました。 ■ TCFDの4つの柱に基づくサステナビリティ情報開示 有報へのサステナビリティ情報開示に関する主なポイントは以下のとおりです。 TCFDの4つの柱に基づくサステナビリティ情報開示については、ISSB(国際サステナビリテ

          企業のサステナビリティ情報開示の義務化と価値創造ストーリー

          人材版伊藤レポート2.0と人的資本情報開示

          5月13日、経済産業省が「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書として「人材版伊藤レポート2.0」を公表しました。 社会のデジタル化や脱炭素化の進展、コロナ禍における人々の意識や働き方の変化など経営環境の変化が顕在化するにつれ、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上に繋げる「人的資本経営」の重要性が益々高まっています。 このような背景を踏まえ、2020年9月公表の「人材版伊藤レポート」は、人的資本経営における日本企業の重要課

          人材版伊藤レポート2.0と人的資本情報開示

          長期ビジョンを基軸とするオムロンの経営

          先行き不透明で不確実性の高いVUCAの時代、企業は自社の価値観(企業理念、存在意義)を起点に、自社として実現したい未来の社会像や会社の姿を描き、その実現に向けて主体的にトランスフォームしていくことが求められています。そのような経営の羅針盤として長期ビジョンの重要性が高まっています。 長期ビジョンとは現在経産省で検討中の「価値共創ガイダンス2.0」によると、長期ビジョンとは「特定の長期の期間においてどのように社会に価値を提供し、長期的かつ持続的に企業価値を向上していくかという

          長期ビジョンを基軸とするオムロンの経営

          世界が混沌とし、予測困難な時代だからこそ「人的資本経営」を

          「人」への投資の重要性の高まり 気候危機に伴う脱炭素社会への移行、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展、有形資産から無形資産への価値源泉のシフト、ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心の高まり、安全保障を巡る地政学的リスクの高まりなど、企業を取り巻く経営環境や国際情勢は激しく変化しています。経営者には従来にも増して高度で複雑な舵取りが求められています。 そのような時代においても(だからこそ)、企業は揺るぎないパーパス(社会的存在意義)の下、社会価値と経済価値

          世界が混沌とし、予測困難な時代だからこそ「人的資本経営」を

          サステナビリティ情報開示の義務化の意義と課題

          2022年は、サステナビリティ情報(ESG情報)の開示ルールの義務化を廻り、国内外で大きな進展がありそうです。 近年、企業価値評価におけるサステナビリティ情報の重要性への認識が増すにつれて、国際的に比較可能で一貫した開示基準へのニーズが高まると共に、投資家を中心として開示の義務化への期待が高まっています。 国内では金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示(法定開示)のあり方が検討されています。 ■ サス

          サステナビリティ情報開示の義務化の意義と課題

          知財・無形資産を活用したビジネスモデル革新と価値創造ストーリー

          デジタル・トランスフォーメーション(DX)に代表される急速な技術革新、モノの生産・供給だけでなく個人のニーズに合致したコト(顧客体験)の提供、気候変動や人権など環境・社会課題への関心の高まりといった経営環境の急激な変化、更には経営におけるリスク要素として昨今重要性が高まっている国際的な経済安全保障(サイバーセキュリティ含む)の観点などが相まって、知財・無形資産は、中長期の企業価値向上のための競争力の源泉として益々その存在感を増しています。 知財・無形資産の投資・活用戦略の開

          知財・無形資産を活用したビジネスモデル革新と価値創造ストーリー

          サステナビリティ経営と人権デューディリジェンス義務化の進展

          政府が初の人権関連調査を実施 11月30日 経産省が「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果」を公表しました。 本調査は、外務省との連名で、9月3日から10月14日にかけて、東証一部・二部上場企業等2786社を対象に実施されました(回答企業数760社)。これは日本企業のビジネスと人権への取組状況に関する政府として初の調査になります。 政府がこのような調査を実施した背景には、近年、企業経営におけるサステナビリティを巡る課題として、気候変

          サステナビリティ経営と人権デューディリジェンス義務化の進展

          サステナビリティ報告基準の統一化を超えて

          11月13日まで英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、企業のサステナビリティ報告(情報開示)を巡る動きに大きな進展がありました。 IFRS財団がサステナビリティ情報開示基準の統一化を表明今回のCOP26では、国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)の策定を担う国際会計基準審議会(IASB:International Accounting Standards

          サステナビリティ報告基準の統一化を超えて

          新しい資本主義の構築に向け、日本企業は積極的な関与を

          10月4日、岸田新内閣が誕生しました。 新内閣では成長戦略とともに富の再分配を重視する「新しい資本主義」の構築を目指すとしています。「先端科学技術の研究開発への大胆な投資」「デジタル田園都市国家構想による地方と都市の格差是正」など幾つかの政策が掲げられていますが、まだ具体的な姿は見えてきていません。今後の展開に注目したいと思います。 世界の潮流はステークホルダー資本主義へ近年グローバル社会では、行き過ぎた株主至上主義への反省から資本主義のアップデート(新しい資本主義の構築

          新しい資本主義の構築に向け、日本企業は積極的な関与を

          DXレポート2.1を超えて(持続可能なデジタル社会の実現へ)

          8月31日に経産省が「DX レポート2.1」を公表しました。 もはや個々の企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を待っていたのではグローバルなデジタル競争の中で日本は埋没してしまう。今後日本が取るべき方向性は産業構造全体のDX(デジタル産業の創出)であるという大胆な提言がなされており、非常に興味深い内容です。 DXレポートとDXレポート2の概要2018年9月に「DXレポート(初版)」が公表されました。 本レポートでは、日本企業(ユーザー企業とベンダー企業)にお

          DXレポート2.1を超えて(持続可能なデジタル社会の実現へ)

          イノベーション創出に向けた知財投資・活用促進メカニズムとは

          6月のコーポレートガバナンス・コード改訂では、取締役会の機能発揮、企業の中核人材における多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みなどと並んで人的資本及び知的財産への投資等の重要性が明記されました(下記2箇所)。 補充原則3-1③ 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等に ついても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべ

          イノベーション創出に向けた知財投資・活用促進メカニズムとは