思いがけず利他
利他って何だろう?
人は一人では生きられないし、他との関係の中で生きているからこそ
「利他」とか「思いやり」が大切だということは、多くの人がわかっています。
だけど利他的とは?
中島岳志さん著の「思いがけず利他」という本がとても興味深かったです。
とても面白い視点を与えてもらえました。
それは「向こうから、私にやってくる」です。
ヒンディー語には、表現方法として主格と与格(よかく)があるそうですが、この主格と与格の違いについてとても興味深かったです。
日本語の「私は」という場合は主格ですが、ヒンディー語には「私に」で始まる文法があるそうです。たとえば「私は嬉しい」は「私に嬉しさが留まっている」という言い方をする。
「私はあなたを愛している」は
「私にあなたへの愛がやって来て、留まっている」
といった言い方をするのです。
風邪をひいた時も「私に風邪が留まっている」と与格を使います。
中島さんは、インドでは「君はヒンディー語ができるのか?」とよく聞かれたそうですが、そんな時は与格を使い「あなたにヒンディー語がやってきて、留まっているのか?」という言い方になるのだそうです。
ちょっと面白いと思いませんか?
自分の意志や力が及ばない現象については与格をつかって表現するそうで、そこにあるのは「やってきて留まっている」という考え方。
ここにあるのは自分の力の及ばないものがあるという考え方で、
他力とか、何か見えないものの存在です。
自分以外の何か
例えば日本語で表現する時、そこには私しかいません。
「私は風邪をひいている」「私が嬉しい」「私の畑だ」
だけど、ヒンディー語のように私にやってきて留まっているという表現をした時には、そこに自分以外の何かが含まれています。
風邪でも、嬉しさでも、愛でも、それらはどこか自分の知らない所からやってくる。つまり自分以外の何かがあって、自身の意志や力が及ばない次元からやってくるわけです。つまりこれは他力です。
ヒンディー語のように、他者の存在を含む表現方法をとることは、
無意識レベルで他力や何らかの力を認めているからなのかもしれません。
神からやってきて人間を動かしている
なぜ与格構文を使うのか?
中島さんは次のように説明しています。
言葉とか、喜びとか、愛はどこから来るのかというと、インド人の感覚でいえば「神」であり、神からやってきて人間を動かしているというインド人の世界観が、この文法構造の中に非常に強く現れていると言います。
神からやってくるというと宗教っぽいですが、そこは目に見えない大きな力と考えればよいでしょう。
そう考えてみると、私たちが良く使う「私が・・・」とか「私の・・・」といった表現は、自分中心でちょっと利己的な面があるようにも思えてきますね。
現代社会に生きる私たちは、つねに「私が頑張る」「私が点を取る」と
自分中心に考えており、目に見えないものについては忘れがち。
そして頑張る方向にばかり忙しく時間を過ごしています。
私も以前は「自分が頑張れば」「自分が努力すれば」と思い込んでいました。頑張り・努力が足りないといつも否定的で焦ってばかりいました。
でもある時、それは思いあがった考え方だということに気が付きました。
自分だけの力ではない
他力をわかっている人は、大会で優勝した・試験に合格した・実力が出せたなど思い通りの良い結果が出せた時に、自分に才能があったからだと自慢することはありません。もちろん本人の才能や努力は必要ですが。
例えば・・・
美味しい料理ができた。染色で良い色が出せた。美しい音楽がつくれた。
それらは自分の腕が良いことや本人の努力はあるものの、
人間が作るものではなくやってきてくれたものだと思うのです。
そこにあるのは、全て自分の頑張りで出来るという傲慢さとは、
まったく別の発想です。
「あなたのために・・・」
「あなたのために」という言動も実は、本当に相手のためにならなければ
自己満足です。相手のためになるどころか利他的な私に自分で酔っているだけなのかもしれません。
だからこう思います。
ごく自然にふるまうことで、相手に「ありがとう」「嬉しかった」と感じてもらえるのが理想的なのかなと。
利他とは、送り手と受け手相互の中に生じる奥行きあるものであり
自分と他者が深くつながることと言えるのかもしれません。
私に留まっている
さて、私たちが使う日本語で「私にあなたのまごころがやってきて、私に留まっている」という感覚があるでしょうか?
今度、誰かの心づかいが嬉しかった時「私に嬉しさが留まっている」と
言い換えてみるのも面白そうです。
利他は私にとっても大切な言葉。
今回、その理解の入口に立てたように思いました。
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