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かえるくんの葉っぱ

ある秋のこと
葉っぱをあつめている一匹のカエルくんがいました
はじめは 誰も見向きもしませんでしたが 
カエルくんは きれいな葉っぱをあつめて 仲間にあげました

カエルくんがあつめた葉っぱは とても美しく
だんだんと カエルくんの葉っぱがほしいという動物たちが あつまってきました

動物たちは 美しい葉っぱに惹かれ
カエルくんがくれる葉っぱを みんな こぞって あつめはじめました

そのうちに 動物たちは 競いはじめました

やい! オレさまは こんなに いっぱいに なったぞ!
わたしだって ほら! すごいでしょ?

みんな 葉っぱの数の自慢をはじめました

カエルくんは みんなが 葉っぱをあつめだしたので 大忙しになりました

来る日も来る日も 葉っぱ集めに追われ カエルくんは
寝る間もなくなってしまいました

ある日 てんてこ舞いになった カエルくんは あることを 思いつきました

( そうだ! この葉っぱに 赤い実の汁で しるしをつけよう
  そして この赤いしるしがついた葉っぱは
  とても価値があるものだと言って渡すんだ
  そうすれば この葉っぱがほしいとみんながやってくる
  今まで渡した葉っぱととりかえれば オレも楽チンになるし
  これは おもしろいことになるぞ )

カエルくんは 落ちていたしるしのついていない葉っぱを見つけると
赤い実の汁を( ちょん )とつけました

しばらくすると 向こうから リスがやってきました

『 やあ リスさん きみはラッキーだね
  さっき見つけたんだけど これは なかなかない葉っぱだよ
  そうだな… しるしのない葉っぱの10枚分の価値はある
  なんなら 君が持っている葉っぱ10枚ととりかえてもいいよ 』

カエルくんは リスに 赤いしるしがついた葉っぱを 差し出しました

『 わあ すご~い! 』
リスは すぐさま 自分のもっている葉っぱと とりかえました

赤いしるしの葉っぱを手にしたリスは
すぐに 他の動物たちに 見せびらかしました

それを見た 動物たちは われもわれもと カエルくんのところに押しかけました

やがて 動物たちは あつめた葉っぱで
いろんなことが 思い通りになることに 気づきはじめました

“ 葉っぱを3枚あげるから この荷物を うさぎさんのところに 届けてちょうだい ”
“ うちの戸の調子が悪いから この葉っぱ5枚で 直してくれない? ”

葉っぱがあれば なんでも 簡単に できてしまうようになりました

動物たちは 葉っぱの魅力に心を奪われ
もっともっと 手に入れたいと思うようになりました

そして しるしのない葉っぱよりも 赤いしるしのついた葉っぱをたくさんほしくなりました

とっぷり日が暮れたある晩
きつねが たぬきに 相談をもちかけました

『 なあ たぬきどの 山のふもとの やぎさんのことだが…
  たぬきどのは なにか 聞いておらんかの? 』
『 ん? 山のふもとのやぎさん? やぎさんが どうかしたかの? 』
『 人から 聞いた話じゃが
  赤いしるしの葉っぱを たいそう ためこんでおるというんじゃ 』
『 おお… そのことか
  わしも どこかで そんなうわさを 聞いたことがある
  どれほどためこんでおるかは知らんが まったく うらやましい 』
『 話によると やぎさんの家の奥の方に かめがあって
  そのかめに たんまり しまってあるそうだ… 』
『 ほぉ… かめにか? 』
『 そうとも 大きな 大きな 茶色のかめじゃそうな
  たぬきどの どうかの…
  そのかめ どんなものか 一度みてみたくはないかの? 』
『 おお 見られるもんなら 見てみたいがの
  しかし そんなこと できるまい 』
『 それがじゃ たぬきどの
  こんどの満月の夜 やぎさんはとなり村の妹やぎの 出産祝いにでかけるそうじゃ
  その晩は 家に帰ってこないと聞いておる 』
『 で どうすると? 』
『 その満月の夜 どうじゃ いっしょに かめを見に行かぬか? 』
『 なるほど… それは おもしろい!
  きつねどの お供させてもらえぬか 』
『 ただなぁ・・・ 見るだけで すむじゃろうか くっくっくっ 』


そして 満月のその夜
きつねとたぬきは 山のふもとにある やぎの家をたずね
茶色のかめを見るやいなや 自分が下げてきた大きな袋に
葉っぱを たんまりつめ込み しめしめと 持ち帰ってしまったのでした

こうして 盗みをはたらく動物が あらわれました
そのうちに 葉っぱをめぐって 争いがはじまりました

葉っぱを より多く持つ者が威張り 持っていない者は小さくなって いきました

動物たちは 自分のことばかりを考え みんなとたのしく 過ごすことを忘れてしまったかのようでした

しばらく経った ある日
赤いしるしの葉っぱを手にした ライオンが
『 ところで なぜ この葉っぱが 価値あるものなんじゃ? 』
と ぽつりと言いました

『 だって カエルくんが とっても価値があるものだと言って くれたんでしょ? 』
『 それはそうじゃが… はて... その...
  わしらは 何のためにこんなことをしておるんかの? 』
『 なんでって... そりゃ この葉っぱがあれば なんでも思い通りになるからよ! 』
『 まあ たしかに 便利ではあるのじゃが… 
  このところ 葉っぱ集めばかりをしておらんかの? 』

周りにいた動物たちも 必死に集めた たくさんの葉っぱをみて
なんだか おかしな気持ちになりました

そして ライオンは カエルくんをたずねました

“ なぁ カエルくん 
  なんでも思い通りになる すぐれた葉っぱじゃと 聞いておったが
  どうも わしには 使いこなせんようじゃ
  集めるのも たいへんじゃろう どうか使っておくれ ”

ライオンが そう言うと ほかの動物たちも
どんどん 葉っぱを 返しました

カエルくんは 返された葉っぱに埋もれながら
しょんぼりしてしまいました

そこへ 冬支度をいそいでいる うさぎが やってきました

“ この秋は カエルくんが葉っぱを拾ってくれたおかげで 野山が とっても きれいだわ ”

それを聞いたカエルくんは ( はっ )と 急に恥ずかしくなりました

それから カエルくんと動物たちは いつまでも のんびり暮らしました


※このお話は、2007年に私が書いたものです。その後、「お金のいらない国」著者の長島龍人さんが、同じテーマで「かえるくんの葉っぱ」をとても面白く書いてくださいました。赤いしるしのついた葉っぱは、龍人さんが書いたものからヒントを得ましたが、私の話とは全く別物で、長島龍人HP~人間って何だ?~や「長島龍人 ブラックショートショート」に掲載されています。お金の価値観を考えるきっかけになる素晴らしい物語です。ぜひお読みください。







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