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侵襲性非チフス性サルモネラ菌感染症は、サハラ以南のアフリカの多くの地域で、HIV陽性の成人における敗血症の最も一般的な原因

マラウイ出身の35歳女性の発熱と高度の貧血

現病歴

35 歳のマラウイ人女性が、発熱と衰弱のため地元の病院を受診した。発熱は3日前からで脱力感は数カ月間にわたって進行している。咳や寝汗はないが、体重が減少しているとのことである。下痢や排尿困難はなく、異常出血の既往もない。

2ヶ月前、彼女は体が弱くなったため、地元のヘルスセンターを訪れた。顔色が悪いため、鉄剤が処方された。しかし衰弱は進行した。それ以外に特に異常はない。

彼女は離婚しており、3人の子供(17歳、15歳、12歳)がいるが、みな元気である。彼女は小規模農家で働いており、地元の市場で野菜を売っている。一家は1日3食、たまに肉や魚を食べる余裕がある。

身体所見

35歳女性、痩せ型、BMI 17kg/m2。血圧90/60mmHg(上腕囲が低いため測定困難)、脈拍110bpm、体温37.8℃、呼吸数25回/分、酸素飽和度97%(室内気)、GCS 15/15。

結膜は貧血著明、黄疸はない。口腔内は正常で鵞口瘡、カポジ肉腫、口腔内白板症を認めない。胸部は清である。腹部は軟らかく、わずかにびまん性の圧痛があるが、 筋性防御はない。脾臓は左肋骨縁下3cmに触知可能である。直腸診は正常である。

検査所見

マラリア迅速診断検査は陰性である。HIVの血清検査は陽性である。血算は表29.1の通りである。

クエスチョン

  1. 疑われる診断名は何か?

  2. この患者をどのように管理するか?

ディスカッション

35歳のマラウイ人女性が、明確な局所症状を伴わない敗血症状態で来院した。彼女は衰弱しており、重度の貧血で、新たにHIV陽性と判定された。

これは、サハラ以南のアフリカにおけるHIVの高蔓延環境では、非常に一般的な臨床シナリオである。

クエスチョン1の答え

この患者は、明確な焦点のない敗血症像を呈し、新たにHIV陽性と診断され、衰弱と貧血は進行した免疫抑制と結核の併発の可能性を示唆している。サハラ以南のアフリカの多くの地域で、HIV陽性の成人における敗血症の最も一般的な原因は、侵襲性非チフス性サルモネラ菌(invasive non-typhoidal Salmonellae: iNTS)の感染である。わずかな腹部圧痛と脾臓の腫大もこの診断に合致する。

Enteric fever(腸チフスまたはパラチフス)は、臨床的にはiNTSの感染と区別できないが、サハラ以南のアフリカのHIV陽性患者ではiNTSよりはるかに少ない。この理由は不明である。この患者の場合、重度の貧血が進行性の「衰弱」という非特異的な感覚を引き起こした。これは、彼女の骨髄がHIV、サルモネラ菌、および、結核に感染した結果である可能性が高い。

鉄欠乏性貧血、helminth infection、マラリアなどの重篤な貧血の他の原因は、HIV陽性の都市部の成人ではあまり見られないが、その他の患者、特に子供や妊婦、農村部の貧困層では考慮しなければならないかもしれない。サラセミアは通常、小球性貧血を引き起こす。

サハラ以南のアフリカでは、重篤な貧血が非常によく見られる。患者が医療機関を訪れるのは遅く、重度の貧血のために心不全を発症して初めて受診することもある。

内臓リーシュマニア症は、この患者のように発熱と汎血球減少を引き起こすこともある。通常、顕著な肝腫大を起こすが、この患者にはそれがない。この病気はマラウイでは流行していないようだが、アフリカの他の地域、例えば南スーダン、ウガンダ北部、ケニア北部、エチオピア、ソマリアなどでは検討されるべき疾患である。

クエスチョン2の答え

直ちに輸液と広域抗菌薬の投与を開始する必要がある。抗菌薬治療の開始前に、血液培養検査を行う必要がある。菌量が少ない可能性があるので、培養のために十分な量の血液(少なくとも20-40ml)を採取することが重要である。

HIV感染者における重度の貧血は、一般に結核の徴候である。したがって、この患者は、背景に結核があるかどうかを評価する必要がある。胸部レントゲン写真と腹部超音波スキャンを行うべきである。CD4数が100cells/μl未満の場合、尿リポアラビノマンナン(LAM)のラテラル・フロー検査も結核の確認に役立つかもしれない。

貧血は、骨髄に結核が潜伏している患者における唯一の所見であるかもしれない。そして、すべてのルーチン検査が目立たない場合でも、患者が満足のいく回復をしない場合、すなわち発熱や貧血が続く、または体重が減り続ける場合には、結核は診断リストの上位にあるべきであろう。

ベースラインのCD4数をチェックし、ニューモシスチス肺炎、トキソプラズマ症、その他の日和見感染の予防として、ST合剤の予防治療を開始する必要がある。ARTは、急性感染症がコントロールされ、日和見感染症の併発が除外された後、できるだけ早く開始されるべきである。日和見感染症の除外は免疫再構成性炎症症候群(IRIS)を事前に予防するために重要である。彼女の子供と現在および過去の性的パートナーには、HIV検査を受けるように勧めるべきである。

ケースの続き

血液培養を採取し、セフトリアキソン2gの静脈内投与を開始し、水分補給を行った。血液培養からSalmonella Enterica var Typhimuriumが検出された。抗菌薬はシプロフロキサシン500 mg内服に変更し、14日間継続した。結核検診で肺門リンパ節腫脹が認められ、抗結核治療とARTが開始された。また、コトリモキサゾールの予防投与、末梢神経障害予防のためのビタミンB6投与、栄養療法が行われた。

彼女は4週間の入院後、退院した。3ヵ月後のARTクリニックでの診察では、体調はかなり良くなっていた。体重は増加し、ヘモグロビン値も回復していた。彼女の3人の子どもたちはHIV検査で陰性だった。彼女の元夫はHIV検査を受けることを拒否した。

SUMMARY BOX

侵襲性非チフス性サルモネラ菌(Invasive Non-Typhoidal Salmonellae: iNTS)感染症

S. entericaは、アフリカやアジアにおける市中感染型血流感染症の主要な原因となっている。腸チフス菌は、腸チフスやパラチフス、すなわちenteric feverの原因となる。これらの菌はヒトを宿主とする。非チフス性サルモネラ菌は、宿主のジェネラリストであり、広範な脊椎動物にコロナイゼーションし、感染する。

非チフス性サルモネラ菌(NTS)は、通常、免疫正常者にはself-limitingな腸炎を引き起こす。一方、サハラ以南アフリカ(sub-Saharan Africa: SSA)では、NTSは通常、侵襲性疾患を引き起こし、敗血症や死亡に至る。iNTS感染の危険性がある重要な集団は、マラリアの高蔓延地域や重度の栄養失調のある地域に住む乳幼児や子供、そしてHIV感染が進行している成人である。

アジアでは、侵襲性サルモネラ症の原因として腸炎が依然として優勢であり、これは人口におけるiNTSの危険因子の有病率の低さと関連している可能性がある。

iNTSのリザーバーと感染源は依然として不明である。S. TyphimuriumとS. Enteritidisが最も一般的な血清株であるが、同じ株が侵襲性疾患と下痢性疾患を引き起こすのか、感染様式が同じかどうかは不明である。iNTSの感染症は、一般的に非特異的な発熱性疾患として現れる。腹痛や下痢を訴える患者もいるが、臨床的には不明確な点が多い。軽度の脾腫は3分の1以上の患者に認められ、肝腫大はそれほど多くない。iNTS患者の約30%は、結核や肺炎球菌などの下気道感染を併発している。重度の貧血は一般的であり、臨床医は結核の併発の兆候を注意深く探す必要がある。

血液培養は依然として診断の標準であるが、多くのアフリカの環境では広く利用されていない。また、血液培養の感度は菌血症の規模が小さい(中央値<1CFU/mL)ため、最適とは言えない。したがって、培養のために十分な量の血液を採取する必要がある。

アフリカのiNTS株は抗菌薬耐性が増加している。エンピリック治療はenteric feverと同様であり、地域の耐性パターンと薬剤の入手可能性に応じて、フルオロキノロンまたはアジスロマイシンのいずれかを使用する。経口摂取が不可能な場合は、第三世代セファロスポリンを投与する必要がある。効果的な抗生物質治療は10〜14日間行う必要がある。再発防止のため、抗レトロウイルス療法を緊急に開始する必要がある。iNTS患者の症例致死率はenteric feverよりもはるかに高い(22-47% vs 1%)。

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