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マミの東京上京物語#4「ニトリ姫になりたくて」

吸い込まれるようにニトリに入った私。

ニトリなら、私の財布に優しいベッドがきっと見つかるはず!
そして、「お、ねだん以上」のフレーズにふさわしい優雅なベッドと出会えるはず!

優雅なベッドを手に入れた暁には、私はこう呼ばれるでしょう。
「ニトリ姫」と。

ニトリ姫、うん、悪くない響きだわ。


実は、私はこれまで、ベット選びに何度も失敗してきました。

たとえば以前、住んでいた部屋の収納を少しでも増やそうと「収納付き」のベットを選んだことがあります。
たしかに、収納場所は増えたのですが、ベッドの高さが出て、部屋の圧迫感がとんでもないことになりました・・・・・・。

また、広めのベッドを選んだことで、元々狭かった部屋の足場がなくなってしまったこともあります。
足の踏み場がない生活・・・・・・それはまるで、部屋の中に突如現れたアスレチックジムのよう。

そして何よりも、広いベットに1人で寝るのはとても人肌恋しい・・・・・・。
寂しさが加速するベッドでは、もう眠りたくないんです・・・・・・。

だから、私にとって、ベッド選びはとっても大事・・・・・・!


慣れ親しんだニトリであっても、ここは銀座。
うう、ニトリとはいえ、「銀座の」という冠がつくとやっぱり緊張してしまう・・・・・・。

ああ、誰か一緒にベットを選んでくれる人がいたらなあ・・・・・・。
心細さを胸に抱き、勇気を出して、ベッドフロアに設置されているベッドにゴロゴロと寝てみました。

ベッドフロアにはたくさんのベッドがありました。
私はすべてのベッドにゴロゴロと転がっていました。

その姿は、いろいろな葉っぱを行き来する、イモ虫のよう。

「ああ、私は銀座のイモ虫、誰か私を蝶に変えてくれないかしら。
いえ、蝶でなくてもいい、まずはサナギでもいいわ」

そんなことを心の中でつぶやきながら、ゴロゴロと転がっていました。


ゴロゴロ。
ゴロゴロ。


ゴロゴロと転がり続ける中で、私はあることを悟りました。
それは・・・・・・柔らかいマットレスより、硬いマットレスのほうが寝返りを打ちやすい!ということ。

私は以前から、柔らかでフワフワなベッドに憧れていました。
けれども、実際に寝てみると、フワフワとした柔らかさは私の寝返りを止めてしまうことに気付いたんです。

自由を求めてやって来た東京。
その東京で寝返りを打てないなんて・・・・・・。

そんな未来をイメージしたとき、私の選択肢の中から、フワフワなマットレスは消え去りました。
狙うは、硬いマットレス、一択ッ!!

また、私はシンプルなデザインが好きだったので、ベッドのフレームにもこだわり出しました。

ベッドのフレームは、寝る前に必ず目に入る場所。
だから、素敵なデザインのフレームじゃないと、寝る前にテンションが下がってしまう気がしたんです。
(まあ、テンション上げながら寝る人はあまりいないとは思うのですが・・・・・・)

シンプルでもいい。
私の眠りを素敵に演出してくれるフレームに出会いたい。


そんな条件をもとに、ベッドを吟味し続けて約2時間。
ようやく自分の願いを叶えるベッドに出会えました。
値段も「お、ねだん以上」な感じ。


買うしかない・・・・・・!!!


ワクワクを胸にレジへ駆け込んだ私。

人生初のニトリのベッド。
私の東京生活を、今後、優しく抱きかかえてくれるであろうニトリのベッド。


ありがとう、ニトリ。
あなたがいてくれてよかった。

そんな思いで、レジを打つ店員さんの目を見つめていました。


すると、店員さんが一言。

「ああ、このベッド、1ヶ月先まで入荷しませんね」


オワタ。


ニトリにも見放された私。

東京はよそ者に冷たいと言うけれど、まさか、ニトリにさえも見放されるとは思っていませんでした。

ああ、私は、ただ2時間以上ゴロゴロとベッドで転がり続けたイモ虫。

ごめんなさいね、ニトリさん。
イモ虫はこちらの葉っぱをあきらめて、別の葉っぱへ移ります。

ああ、どこかに私を包んでくれる葉っぱはないかしら・・・・・・。


そんなことを思いながら、ニトリを出た私。
相変わらずまぶしい銀座の光。
その光を浴び、私はいよいよ干からびようとしていました。


ああ、銀座の光は私にはまぶしすぎるわ・・・・・・。
イモ虫はここでその命を全うするのね・・・・・・。
せめて、光合成ができる葉っぱに生まれたかった・・・・・・。

さよならニトリ、さよなら銀座、さよなら東京・・・・・・。


そんな独り言を言いつつ、力尽きようとした私。
倒れかけた私の目に、ある文字がかすんで見えました。


「MU JI RU SHI」


「・・・・・・む・・・・・・じ・・・・・・、無印!」

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