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ボブ・ディランにまつわる、ロンドン北部の都市伝説とは?

家から15分ほど車を走らせたところに、クラウチ・エンドという町がある。私も夫も大好きな場所で、子供の学校(通学の問題)さえなけば、明日にでも移り住みたいところなのだが、実はこの町にはアーバン・ミスがある。それは、ボブ・ディランに絡む都市神話なのだった。

11月16日付のHam&Highが面白い記事を掲載していたので、抜粋して要約してみた。

今から30年ほど前、ユーリズミックスのデイヴ・ステュアートはクラウチ・エンドに居を構えていた。彼は、元教会の一部にレコーディング・スタジオを所有しており、それは、クラウチ・ヒルの麓ーーもっと正確に言えば、"クラウチ・ヒル通り145番地"ーーにあった。ここは、スイート・ドリームスがレコーディングされた場所でもあり、アデルや、U2、レディオヘッド、マムフォード&サンズなど他のミュージシャンにも使用されている。

それはさておき、長年ボブ・ディランと旧知の中にあったデイヴ・ステュアートは、彼をこのスタジオに招待した。その際ディランは、クラウチ・エンド界隈を案内され、地元のレストランにも度々顔を出したという。その一つが現在も人気を誇る、カリビアンレストラン「Banner's」で、実際、ディランが食事をしたというテーブル脇には "Bob Dylan sat at this table August 1993(1993年8月、ボブ・ディランがこのテーブルに座りました)"という銘板が掲げてある。ディランがこのエリアを気に入ったのかどうかは定かではないが、近隣によく顔を出し、売家のサインの出ていたエドワード調の一軒家の内見まで行ったという。

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で、問題の都市神話だが、自称ロック専門家のラッセル・クラークが 2012年にThe Times紙に語ったところによると、1985年、ロスアンゼルスでボブ・ディランと仕事をしていたデイヴ・ステュアートは、ディランをロンドンに来る際には自分のスタジオに寄ってくれ、と招待していた。数か月後、ロンドンに滞在していたディランはスチュアートが残してくれたクラウチ・エンドの住所を頼りに、タクシーに乗り込む。しかし、クラウチ・エンドには、クラウチ・ヒル、クラウチ・エンド・ヒル、そしてクラウチ・ホールの3つの似通った名前の通りがあり、その中の一つでディランは降ろされる。ディランは目の前の家の玄関をノックする。ドアを開けた女性に「デイヴはいる?」と尋ねると、その女性は、今外出しているが、20分位で戻るので中で待ってて、とディランを招き入れた。そして20分後、デイヴが戻る...が、それは、ロックスターのデイヴではなく、排水工のデイヴだった。家主のデイヴは、女性より「ボブ・ディランがリビングルームでお茶を飲んで、あなたのこと待っているわよ」と知らされるのだった...。

この話が嘘か誠かの都市伝説となっているようなのだが、ラッセル・クラークは、真実であると念を押している。というのも、当時、ディランのレコードレーベルの広報担当だった女性が、 Radio Londonに出演し、この話の詳細全てが実話であることを保証しているからだ。

また、この話をデイヴ・ステュアート本人から直接聞いたという人もおり、ここまでくれば、この話は本当なのか、とも思わざるを得ないのだが、ここはやはり、ディラン本人が、もしくは排水工のデイヴまたは応対した女性がこの話をバックアップしてくれるのが理想だろう。しかしながら、ディラン本人がいまさらこれを語ることはないだろうし、奇妙なことに排水工のデイヴがこの話に関して表に出てくることは今まで一切ないのだ(実在したのかどうかも疑わしい?)。

それなら、状況証拠を挙げてみようと試みるも、なんとボブ・ディランが訪ねようとしていたスタジオの住所"クラウチ・ヒル通り145番地"というのは存在せず(クラウチ・ヒル通りは85番で終わっている)、辻褄が合わない。ということは、彼はクラウチ・ヒル通りではなく、クラウチ・ホール・ロードの145番地で降ろされた?ムムム...クラウチ・ホール・ロードも73番までしかない。ミステリー...。

というわけで、では一体ディランはタクシーでどこに行ったのか?そもそも排水工のデイヴは存在するのか?がクラウチ・エンドのアーバン・ミスとなっているのである。

Ham&Highの記事は「So you can believe the tale and "blame it on a simple twist of fate" or take to heart Dylan's protestation that "no, no, no, it ain't me babe" or perhaps the answer, my friend, is "blowin' in the wind".」とディランの曲名で苦し紛れに(!)締めくくっているが、But for those who like a feelgood story, then "it don't matter, anyhow"ーーーどちらにしても、フィールグッドなストーリーが好きならば"it don't matter, anyhow"、どっちでもいいよね、とのことだ。

まあ、よっぽど気が滅入る話でない限り、都市伝説はあまり紐解かずに、いいところだけを信じれば良いと思う。今回の件は、面白く笑えるようなエピソードなので、信じておこうかな。まあ、確かにどっちでも良いけどさ。それにしても、ディランを降ろしたタクシー運転手に話を聞くことはできなかったのだろうか。それも不思議。

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クラウチ・エンドの『バナーズ』レストラン。私がこのレストランを初めて訪れたのは、約17年前。当時付き合っていた夫に「ボブ・ディランが行ったレストランに連れて行ってあげる」と言われ、「ふへ―!マジー!?」と野次馬根性丸出しで行ったのが最初。あれから、幾度となく来ていますが、未だにお気に入りのレストラン。

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写真はインスタより。安くて美味しいのでいつも満員。

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こないだも家族で行ってきました。今では息子たちも「ディナーどこ行く?」と訊くと、迷わず「バナーズ!」と答えます(笑)。

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