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喫茶柘榴【読書感想文】

92日目。

普段、小説を読まないわたしが、珍しく読んだ小説。
米倉愛さん『喫茶柘榴』

『喫茶柘榴』は、とってもとっても丁寧に作られた本。
とってもとっても丁寧に紡がれた言葉たちが織りなす物語。
それが本の佇まいから伝わってくる。
そして、インターネット上で読む物語も素敵だけれど、こうして「本」という物質になっているのって、たまらない魅力があるよなぁ、わたしは好きだなぁ、と改めて思った。

主人公の「わたし」が喫茶柘榴の扉を開けるときの気持ち。
同じような気持ちで、読者であるわたしは、小説『喫茶柘榴』のページをめくっていたと思う。

人は、人を愛したいんだな、って。
当たり前のことだけど、当たり前すぎて忘れてしまいそうになるこのことを、物語に出てくる「わたし」と「彼」に教えてもらった、ような気がした。

情景描写の美しさも、胸をきゅーっと切なくしめつける。
こんなふうに鮮やかに愛おしく、誰かのことや、いつかの風景を、わたしたちは感じているはずなのに、それもどんどん忘れていってしまうんだ。
それをこうして、愛さんの手によって言葉にしてもらうと、なんというか、癒やされる気持ちになる。
あぁ、わたしたちはみんなきっと、美しい時間をそれぞれが生きているんだよな、って、あらためて確認できたような気がするから。

主人公の「わたし」が、ちいさく勇気を出す瞬間も好きだった。
あの瞬間の「わたし」は、かつて勇気を出したわたし自身だった。
「勇気を出してよかったね」って、わたしは、物語の中の「わたし」にそっと語りかけていた。

「彼」が放つ優しい言葉も好きだった。

「目に見えなくても確かにそこには流星があるということのほうが、大切だったりするからね」
「最初はね、似たところがあるなって思って嬉しくなった。だけど今は似ていないところを見つけるともっと嬉しくなる」

※『喫茶柘榴』より引用

こんなふうに、わたしも、世界を愛していたいと思う。

***

「こんにちは」
カウベルを鳴らしながら、『喫茶柘榴』の扉を開ける。
そうだな、わたしなら、主人公「わたし」の最初の居場所だったテーブル席に座るかな。
「ブレンドください」
『喫茶柘榴』の表紙を眺めながら、コーヒーを一口啜る。
わたしが『喫茶柘榴』で飲んだコーヒーは、きゅんと甘く切ない優しい気持ちになる、そんなコーヒーでした。

***

ライティング・ライフ・プロジェクト(第4期)、満席にて受付終了いたしました。ありがとうございました。



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