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好奇の視線、代表落ち…それでも逆境をのりこえられた力とは?

岩崎恭子さんプロフィール:
静岡県沼津市出身の日本の元競泳選手、指導者。専門種目は平泳ぎ。1992年バルセロナオリンピック200m平泳ぎ金メダリスト。14歳での競泳史上最年少金メダル獲得記録保持者でもある。
instagram:kyo_koiwasaki

1992年、岩崎恭子さんは若干14歳で金メダルを獲得。でもその後、なかなか大変だったようです。  

はじめてのアメリカ遠征

諸岡:中学1年生でアメリカ遠征。これは? 

岩崎:初めて海外に出て、初めて日本の一応代表として、トップではなくてトップのひとつ下ぐらいで、代表として選ばれたのが中学1年生だったんだけど、異文化に触れたっていうのはすごく大きくって。 

諸岡:うーん。 

岩崎:もう、(アメリカの選手たちは)バンバン、バンバン泳ぐのね。そういう、試合をバンバンこなすっていう体力にも驚いたし、日本の選手の、周りはみんな高校生とかで、もう前年にはアジア大会経験してるような選手の方々だったから、次の年はオリンピックっていうのをもう見据えているの。そういう中で、初めて代表というものを経験して、”代表とは”っていうものをそこで学べたっていうのもあったし。なんかね、常に吸収したい!っていう気持ちがあって、その人たちが泳いでる姿を水の中に潜って見たりとか。 

諸岡:へえ! 

岩崎:水中の動きってすごく大事なのね。「この人、こうやって泳いでるんだ」って(見てた)。もう、なんでも楽しかったんだよね、吸収できて。あと、お兄さんお姉さんの中に入って可愛がってもらって。初めてのアメリカだったし。とにかく楽しかったっていう思い出が。その中で急成長したのね。で、次の年のオリンピック。 

諸岡:じゃあ、アメリカ遠征でぐーっと伸びたんだ。 

岩崎:そう、その頃のタイムで5〜6秒伸びたの。 

諸岡:すご! 

岩崎:誰しもが、多分、濃い練習を積まなきゃいけない時期っていうのがあると思うの。それを、私は中学校1〜2年で、ガシッとハマったんだと思うんだよね。 

諸岡:そのタイミングと。 

岩崎:そう。 

金メダルのあと、2度目のオリンピックに向けて

諸岡:じゃあその、バルセロナでは純粋に競技に向かう自分がいて、4年後のアトランタではまた心と競技力の成長があったんだと思うんだけど、その時はどんな気持ちで臨んだの? 

岩崎:アトランタの時は、バルセロナが終わってから、もう周りの変化に、正直、自分がついていけなくて、あのー・・・、まぁ・・・、よく乗り越えたなって、自分で今でも思う(笑)。 

諸岡:想像を絶する・・・ 

岩崎:そうそうそう。根も葉もないウワサも立てられたし、火のない所に煙は立たないって言うけど、立つんだなって知ったの!(笑) うれしい手紙もきたんだけど、嫌な手紙もきたりとかしたことがあったの。なんでわざわざこんなに嫌なことを送ってくるんだろうって。なんで私ばっかりこんな辛い思いしなきゃいけないの!ってなってきちゃって。今までは、姉を追いかけたりとか、自分が目標を達成するために頑張ってきた水泳が、なんか、メダル取ったからこんなに生きづらくなっちゃったの?とか思ってる自分と、でも金メダルってすごいものだから、誰しもが(競技者なら)ほしいものだし、目指してるものだから、それを取って、嫌だって言うことは言っちゃいけないなって思ってた。で、楽しかった水泳もそうじゃなくなって、毎日こなせばいいやって言う生活になっていっちゃった時に、2年後に代表になれなかったんだよね。もう、記録が遅くて。 

諸岡:へえええ。 

岩崎:それは考えてみれば当然のことで、今までは練習しなければ早くなれないぞって思いもあったりとか、がむしゃらに、先輩たちについて行かなきゃ!って思いで練習してたり。その結果がオリンピックだったのに、そうじゃなくなったら、当然ね、競技力も落ちるわけで。でも自分では気付いてないの。「私、練習してるじゃん。練習してるのになんでこんなに遅いんだろう・・・」っていう風に思っていて、当時は気づかなくって。  

自分の”今”に気づいたきっかけ 

岩崎:昔から見ててくださった記者の方がいて。『スイミングマガジン』っていう、専門誌じゃない?だから小学校の頃から、私とか姉とかを取材してくれてて。で、その方にはいろいろ本心とか話したりとかしてたんだけど。そしたら、その2年後に代表になれなかった時に、その方が「いやあ、恭子ちゃん、オリンピックの前まではなんかワクワクさせてくれたんだよね。レース前とかどんな泳ぎしてくれるかなとか、どんな記録が出るかなとか。だけど、オリンピック終わってからそれが全然なくなっちゃったんだよね」って言われた時に、

諸岡:えーーーーーーーー。それは、随分、正直な方というか・・・。 

岩崎:そうそうそうそう。で、すごくはじめ「え!?何をいってるのよ」とか思ったんだけど、1時間経ち、2時間すると、いや確かにそうかもしれない・・・となんとなく思ってきたの。で、私なんか、ずっと、「メダルがあるから大変だ」しか思ってなかいかもな〜っていう時に、一番上の代表にはなれなかったんだけど、中学1年生の時のアメリカの同じ遠征に選んでもらえたのね。 

諸岡:へえ!

2度目のアメリカ遠征

岩崎:そう。で、やっぱり人間同じ場所に行くと、前回こうだったなとか思い出すじゃない? 

諸岡:はいはいはい。他の競技してる人の水の中に入って見てたみたいな、たのし〜みたいな。 

岩崎:そうそうそう。そういうのとか思い出したら、私、今何やってるんだろうな、とか。で、ちょうどその時に中学2年生のオリンピックの時に(一緒だった仲間が)3人いて。稲田法子ちゃんってもう1人の子も、彼女も一番上の遠征に出たかったんだけど、その時、記録が良くなくてその遠征になったの。でも、その遠征では大会で日本記録で泳いだの、彼女。で、その姿を見て、「うわー、どうやったらこんなにすごく・・・切り替えられるんだろう」と純粋にすごいな!っていう風に思えたし、私も頑張らなきゃって思えた。っていうところと、やっぱりアメリカっていうところに行って、昔を思い出させてくれた?自分が純粋に水泳をやってた時の気持ちと。あと、それまで日本にいて、ホント生活しずらかったんだ。外に出れば周りから見られる、そういう目がなくなって、すご〜く楽だったの。のびのびできたの。それが大きかったから、いろいろ視野が広がって、そこで吹っきれた。なんか、いろいろ言う人は言ってもいいや。 

諸岡:すごいねー。 

岩崎:近くにいる人はわかってくれるじゃない?私がどんな人かとか。それだけでいいって思った時に、水泳のことに関しても、前向きになれない自分がいるっていう風に思うことは間違ってるんじゃないかな。それからもう・・・ひらけたというか、いろんなことが。 

諸岡:うーん、すごい。同じ場所に行けたのもよかったんだね。 

岩崎:そう、それはね、だからラッキーだったと思う。じゃなかったら気づかなかったかもしれなし。 

ご両親のこと

諸岡:その、メディアとかに一番注目されてた時って、ご両親って、外側に対して、あと恭ちゃんに対して、(なにか)対応してた? 

岩崎:うん、それはしてたと思う、やっぱり。バリアはってたと思うし、バリアだけじゃなくて、何か感謝してる時にはちゃんと感謝の気持ちを伝えてくれてたと思うし。私がね、やっぱり外でいい子になってないといけないのかなって思ってたから、家の中では「なんで私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないのよ、うわー」みたいな感じでは言えた環境はすごくありがたくって。 

諸岡:へええ。 

岩崎:でも、「うんうん、そうだね」みたいな感じで、「そんなの大丈夫よ!」みたいな感じで言われていて、「何で?大丈夫じゃないんだけどな」みたいな感じでは思ってるんだけど、そこで言えたっていうのはよかったの、やっぱり。家の中で。だから、受け止めてはくれた。ただ、両親はとっても喧嘩をしてた。(姉妹)3人いるから、どうやって育てるのか。しかも、私がこんな・・・って、こんなとは言わないけど、こんな風になって。 

諸岡:教育方針みたいなこととかで? 

岩崎:そうそう、教育方針でね、喧嘩してるなーって言うのは感じていて。でもなんか、後々から、(通っていた)大学の(心理学の)教授とかから聞くと、中学生くらいになってからの親の喧嘩っていうのは、別に見るのは悪いことじゃないらしいの。意見が合わないことってあるんだ、家族でもって(感じられるようになっているから)。・・・っていうのを大学の先生に聞いた時に、「ああ、そうなんだ。だから私はまだ大丈夫(だったのか)」って。小学生の時とか全然そういうのはなくって、母もすごく笑う人だし。そういうとこで育ったからこそ、乗り越えられた部分もあったのかなっていう気はしてるね、うん。 

編集後記


金メダルを獲得する・・・それだけでも大変な環境の変化があるだろうことは想像に難くありませんが、それが14歳という人生で最も多感な時期だったことで、岩崎さんご本人もご家族も、想像を絶するご苦労があったと思います。私もお話を聞きながら胸がいっぱいになりましたが、それでも逆境を乗り越えられるための様々な力があることが、彼女の類稀な才能の1つなのだと強く実感しました。順番は逆かもしれませんが、だから金メダリストなんだなと。そしてそのレジリエンス(しなやかな強さ)の源泉が家庭の中にあったという、今回も素敵なお話を聞かせていただきました。次回もお楽しみに!
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