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【高校物理】力学分野                                         「剛体にはたらく力」

「剛体の回転運動」は大学で本格的に学びます(大学物理範囲)。
高校物理範囲の「剛体の回転運動」は,「回転運動」といいながら,
剛体が回転運動しないための条件式」を立てることがほとんどです。
すなわち,剛体は回転しません。

はじめの4つの講義で「剛体」の扱い方を押さえ
そのあとの実戦問題で,様々な設定の問題に対応する力をつけていきます

「剛体にはたらく力」は,
それ単独で大問がつくられるというよりは,
(力学分野に限らず)さまざまな分野で,
実験装置の一部として剛体が使われるとき
その考え方が必要になります。
ただし,今回取り上げた入試問題(実戦問題)は,
純粋に力学分野の問題として出題されたものに限りました

(その11の実戦問題の最後の小問のみ,熱力学範囲の問題です)


【剛体にはたらく力 その1】
「力のモーメントのつり合い」(講義)
 岩手大学(1981年) 過去問解説

 一般に,物体にはたらく力の大きさ 𝑭 と,回転軸上の点𝐎から力の作用線におろした垂線の長さ (うでの長さ) 𝒍 との積 𝑴 は,大きさのある物体を点𝐎のまわりに回転させる力のはたらきを表している。この積 𝑴 を,点𝐎のまわりの力のモーメントといい,次式で表される。
  𝑴=𝑭𝒍

第一学習社「高等学校 物理」より

すべての教科書は,「うでの長さ」を上のように定義しています。
しかし,上の「うでの長さ」は「仮想のうでの長さ」です。
(私はそう呼んでいます)
さらに,上の定義が成り立つのは,
剛体にはたらく力を作用線上で移動させても,その効果は変わらない
ということを前提としています(「作用線の定理」というらしい)。
下のポストでつぶやいたように,移動させる前と移動させたあと,
力のモーメント自体は同じ値を与えます。
力のモーメントが同じ値だからといって,同じ効果だと言い切れない
と私は思っています。
(作用線上を移動させると,作用点も移動してしまいます…)
これに関しては後ほど改めて考察することにしましょう。


【剛体にはたらく力 その2】
「剛体にはたらく力の合成と重心」(講義)
 富山大学(1981年)・東京農工大学(1980年)
 過去問解説

剛体にはたらく力の合成の仕方を
・2力が平行でない場合
・2力が平行で同じ向きの場合
・2力が平行で逆向きの場合
のそれぞれについて示しました。
なぜその作図で合力が求まるのか,図形的な説明を心がけました。
また,合成ができない「偶力」についても言及しています。
最後に,
2物体系の重心位置座標の式の導出を行いました。
例題2題はどちらも重要な問題です。


【剛体にはたらく力 その3】
「切り取られた板の重心・つり合い」(講義)
 センター試験(2018年)・東京理科大学
 過去問解説 

「一部が切り取られた板の重心の位置」については,
センター試験(共通テスト),さまざまな大学で出題されています。
その考え方・解法は,「切り取った部分を元に戻して考える」こと。
これがもっともシンプルで,ミスが少ないものです。
(詳しくは講義を読んでください。)
東京理科大学の問題は,重心の位置を求めさせた上で,
「一部が切り取られた板」の力のつり合いを考えさせています。
中心軸としてうまい点を見つければ
(力のつり合いの式を立てることなく,)
力のモーメントのつり合いのみで問題を解くことが可能です。


【剛体にはたらく力 その4】
「輪軸・差動滑車」(講義)
 杏林大学保健学部(2011年) 過去問解説

「輪軸」について原理をまとめ,
「輪軸」と「差動滑車」の(入試)問題を解いていきます。
今回は問題としては扱いませんでしたが,
軽い輪軸が加速度をもって回転しているという設定の問題
を見かけることがあります
小さな半径の滑車と大きな半径の滑車にかけられたそれぞれの糸
の張力の大きさの比が半径の逆比になる
という事実をつかって問題を解くのですが,
これは厳密には大学物理範囲です(補足参照)。
本来は大学入試で出題してはならない問題だと私は考えています。


【剛体にはたらく力 その5】
「一様でない棒のつり合い」(実戦問題)
 東京学芸大学(1987年)・富山大学
 過去問解説

一様でない棒のつり合いも,
はたらく力の作用線が1点で交わることを利用できます。
また,力のつり合いの式を立てる前に,
力のモーメントのつり合いの式のみで処理ができないか
考えてみる価値はあります。
回転の中心(軸)をうまくとれば,
未知量をできるだけ少なくすることができるのです。


【剛体にはたらく力 その6】
「倒れない(倒れる)ための条件」(実戦問題)
 東京理科大学(2020年)・東進ハイスクール
 第2回学力判定模試 高2理科(1997年)
 過去問解説

「倒れやすい形状とは?」「倒れる瞬間何が起こっているのか?」
「倒れるのが先か,滑るのが先か?」
斜面上,水平面上で剛体を倒す運動を通してそれらを探っていきます。
斜面もしくは水平面から受ける抗力(垂直抗力と摩擦力の合力)の
作用点の位置に注目
し,
「倒れる」「倒れない」の境目を見極めてください。


【剛体にはたらく力 その7】
「走行する2輪車の加速と減速」(実戦問題)
 慶應義塾大学医学部(2016年) 過去問解説

このタイプの問題は,模範解答では,
「力のつり合い」「力のモーメントのつり合い」の式を立てている
だけで,何ら難しいことはやっていないように見えます。
しかし,いざ本番で出会うと手が止まってしまう受験生が多いのです。
それは,問題の問い方や問題設定にも原因があるのだと思います。
(問1と問2とで加速度の向きは変わっているのだけれど,
 大きさは両方とも 𝒂 としている。
 「動摩擦係数の満たすべき条件」を求めることなど…。)

問2(c)は,
赤本や旺文社全国大学入試問題正解などで解法が分かれますが,
ここはやはり 𝜽 が小さいとして近似式を利用して,
力のモーメントがつり合うときの加速度の大きさを見積もる必要
があると思います。


【剛体にはたらく力 その8】
「加速荷台にある棒のつり合い」(実戦問題)
 大阪大学(2004年) 過去問解説

トラックの荷台後部の鉛直面に立てかけてある剛体棒
が動かない条件を求める問題です。
トラックが加速するときと減速するときのそれぞれの場合について,
棒を立てかける角度と加速度の大きさの関係式を求めます。
条件が変わるたびに剛体棒にはたらく力を図示しよう。
静止摩擦力に関しては,
はたらく向きが判断しづらい場合もあるかもしれませんが,
とりあえずどちらかに決めて立式をしよう。
出てきた関係式が正しい向きを教えてくれます。


【剛体にはたらく力 その9】
「小球が埋め込まれたパイプ」(実戦問題)
 東京大学(2002年) 過去問解説

一様でない棒の重心の位置を探る方法はよく知られていますが,
なぜその方法で重心の位置が分かるのか,
なぜ支点が交互に「すべる」「止まる」を繰り返すのか,
と問われると,返答に困ってしまいます。
この現象はたまに入試で見かけます。
東京工業大学後期日程第5類小論文(2002年),中央大学(2006年),
昭和大学医学部(2013年),福島県立医科大学(2019年) など。
2002年には,東京大学と東京工業大学(後期日程)で出題されました。
これは,テレビの科学番組の影響だと私は考えています。
( 2000年前後というのは ,
 (米村)でんじろうさんがテレビなどでかなり活躍していた時期です。)


【剛体にはたらく力 その10】
「小球が埋め込まれたパイプ」(実戦問題)
 福井大学(2002年) 過去問解説

角度が小さいとき,近似式を用いることがあります。
この問題は,近似式を用いることはありませんが,角度が小さいため,
力はすべて鉛直方向に作用するという近似を用います。
あとは図を描いて考えてみよう。

問題文のあとに【ある疑問】という題名で,
教科書や参考書に必ず書いている
「力を作用線上で移動させてもその効果は変わらない」
は本当に言えるのか,という疑問に関して考察をしています。
力を移動させるということは,作用点も移動します。
はたして作用点が移動した力は,元の力と同じ効果を与えるのか,
このことについて述べているものがほとんど見当たらないことが
私には不思議でなりません。


【剛体にはたらく力 その11】
「自転車の加速と減速」(実戦問題)
 東北大学後期日程(2005年) 過去問解説

再び「自転車(2輪車)の加速と減速」がテーマです。
2016年の慶應義塾大学医学部の力学問題と設定が似ています
旺文社や数研出版などの解説は「静止系」での解法を選択していました
が,私はあえて「重心系」を選びました
(別解で「静止系」での解法も示してあります)
力のモーメントのつり合いの式を立てるときの軸(支点)を
前輪と後輪と地面との接点とすることで,
摩擦力によるモーメントが式中に入らないようにしました


【剛体にはたらく力 その12】
「糸でつながれた質点と剛体」(実戦問題)
 慶應大学理工学部(2016年) 過去問解説

「剛体にはたらく力」最終回は,
「力のモーメントの問題」というより,「二体問題」です。

下のポスト(ツイート)にも書きましたが,
この問題の設定は,2016年の東京工業大学の力学問題に似ています
(一番下に問題・解説のリンクをはっておきました)
同じ年に似た問題が2つの大学で出題されることはよくあるのですが,
今回の2つの大学は両方受験した者が多いという特徴があります

慶應大学理工学部は
2017年「人工衛星」,2018年「鉛直ばね振り子」,
2019年「二体問題」,2020年「摩擦のある面上での単振動」,
2021年「二体問題」,2022年「二体問題」,2023年「二体問題
と,明らかに「二体問題」の割合が増えています
そしてそのほとんどに円運動が絡んでいるのが特徴です。
(2021年「二体問題」も,一番下にリンクをはっておきました)


2016年の東京工業大学の力学問題

2021年の慶應義塾大学理工学部の力学問題


これで「剛体にはたらく力」の講義を終わります。
「力のモーメント・剛体」に関しては,これだけやれば十分です!
マナブ


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