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今だからこそ記したい黒石寺蘇民祭② 生命誕生の物語を追体験

黒石寺蘇民祭とは何か?
それは生命誕生の物語を追体験できるお祭りだ。

前回は、祭に参加する一個人の立場から蘇民祭を表現したが、今回は少し俯瞰をして蘇民祭を語ってみたい。

黒石寺蘇民祭に初めて参加したのは2015年のこと。当時一緒に行ったアメリカ出身女性の友達が、祭の全体を観察して最後にこんな感想をくれた。

"I was impressed by how people from all different backgrounds and walks of life, including famous personalities, could by the end unite almost as a single pulsating being.
The primal chant of 'JASSO' seemed not just something that was said or repeated but emanating from the soul, a thread between the throng of bodies."

すごく簡単に訳すと、こんな感じ。
「それぞれ違った個々が一つの脈打つ塊になっていく」「ジャッソという掛け声が、単なる声ではなく身体の集まりから発せられてるように感じた」

この高尚な感じの感想が、当時の私にはいまいちピンと来なかった。だけれども、これは単なるお祭りではないこと、個人だけでなく集団として捉えると見え方が変わってくるというヒントをなんとなく得られた。

参加1年目はただただ必死で、感想と言われたら、「痛い」「寒い」くらいだった。でも蘇民祭に参加しはじめて2年目、3年目となると、だんだんと祭全体のことを理解できるようになる。祭の中で行われるそれぞれの儀式の繋がりなどを感じられる。

ある時蘇民祭を終えて温泉に浸かっていた時に他の参加者の会話を聞いていて分かったことは、「蘇民袋争奪戦はチーム戦」ということだった。
体育会のアメフト部で来ていてなんとか取ろうと頑張ったが「あの集団にこんな風に阻止された…」とか会話をしている。
過去の取り主を辿ってみると、かなりの確率で蘇民祭青年部になる。もちろん地の利やテクニックはあるのだろうが、蘇民祭を知り尽くした百戦錬磨のチームなのだ。チームだから、「最後はお前が行くんだ」というある程度の決め事があってもおかしくない。

「我こそ漢なり!」という個人個人の競い合いだと思い込んでいた蘇民袋争奪戦の見え方が変わった瞬間だった。

そして全てがつながった瞬間は、初参加から4年が経ち2019年の冬、4度目の蘇民祭を迎えるくらいのタイミング、自宅で読書をしていた時のこと。

私は2018年に結婚をし、お互いがすでに30代中盤に差し掛かっていたので、子どもを見据えて不妊治療に関する本を読んでいた(いわゆるHow toではなく、自分好みの研究書っぽい本。その中で「受精の仕組み」というページで書かれていたことに衝撃を受けた。

要約すると、生殖行動をすることで放たれた精子は、バラバラで動くのではなく、卵子の厚い膜を破るため、チームで一点突破の総攻撃を仕掛ける。みんなで頑張って、頑張って、力尽きるものもいて、何とか膜に穴が開いた瞬間「お前行け〜!」といってみんなにアシストされて一匹の精子が卵子の中にダイブするのだと。

あれ?昔保健の教科書で習ったことと違う。。。てっきり一番強くて早いやつが競争に勝って辿り着くのだと思い込んでいたのに。めちゃめちゃチーム戦じゃないか。最後はみんなから信頼されているアイツに託される、なんて。なんという尊いことなんだろう。涙ほろり。

「これは競争でなく共創…??」

そのとき、ハッと蘇民祭と繋がった!!
精進に水・煙で清め、禊を重ねた下帯姿の男たちの集団が、切り込みの入った一つの袋を奪い合いカオスになりながらも最後はチームとして"然るべき人"がそれを手に入れる。それこそがまさに受精の仕組みと一緒ではないか!

だとすると、この蘇民祭自体が、生命の誕生という人類普遍のストーリーを表現しているのではないか?
そう明示して高らかに謳うこともなく、時代を超えて生命誕生の大切さを伝えているのだとしたらと思うと、震えるような思いがした。

蘇民祭は競争の祭ではなく、命をめぐる共創の祭

時代を超えて続くものには理由がある。そんな風に蘇民祭を見てみると、きっと発見があると思います。

引用tweetは当時蘇民祭を特集したNHK worldの番組で、実際に精進から始まり争奪戦まで参加した俳優さんの写真右下のコメント。

「生まれる前のことを思い出した。精子の気持ちが分かった」

続く

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