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私の今までの研究人生⑧後輩に託する思い:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 いよいよ最終回です。全8回にわたって、稲永先生(名誉教授)の研究人生を紹介させていただきました。小野も共に研究を進めたものとして感慨深いです。本記事のお言葉、大切にして研究を引きつがせていただきます。(小野堅太郎)

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14.痛覚研究に託する思い

 生理学教室における痛覚の研究は、今から10年ほど前、歯科侵襲制御学分野が行っていた乳がん細胞Walker 256Bを使った癌性疼痛モデルの開発に小野君がかかわったことに始まります。少し遡りますが、小野君が生理学者としての道を選ぶことを決心したとき、私は、彼に提案しました。とりあえず暫くは私の研究課題に沿って研究をしてもらうが、将来は、私が中心になって行っている研究テーマを継続してやるというより、他の研究テーマを見つけ独自に研究することを勧めました。それは2つの理由からでした。1つは、同じテーマをやって功績を上げたとしても、一般的にはどうしても教授である私の業績になりがちで小野君自身の功績になりくいこと、2つめは、これが最も大きな理由ですが、私の研究課題は、歯科領域では大きな研究テーマになりにくく、発展性から別の課題を選んだほうが良いように私自身感じていたからでした。このようなことが根底にあったのだと思いますが、小野君は、その癌性疼痛モデルを使って、学位論文の指導を始めました。原野先生(九州歯科大学・歯科侵襲制御学分野助教)と日高(古田)さん(古田歯科医院)は、口腔顎顔面の癌性疼痛は、末梢というより中枢のグリア細胞の活性化が強く関与することを明らかにしました(Harano et al., 2010; Hidaka et al., 2011)。左合君(九州歯科大学・歯科侵襲制御学分野助教)は、グリア細胞のなかでも、ミクログリアとアストロサイトが違った時系列で活性化されることを明らかにしました(Sago et al., 2012)。山本君(アメリカUCLA)は、免疫組織学的手法、カルシウムイメージング法、パッチクランプ法を用いて調べ、疼痛関連物質であるエンドセリンの三叉神経節細胞に対する作用を明らかにしました(Yamamoto et al., 2013)。先に長期滞在研究員としてきた許先生は、中国では東洋医学、疼痛の研究をしていた人でした。三叉神経節のパッチクランプセットを小野君が立ち上げようとしたとき、客員研究員として再度来日して2年間在籍してもらいました。三叉神経節ニューロンの電気生理学的な分類分けが出来たこと(Xu et al., 2010; Ono et al., 2010)と、その結果が、山本君の学位論文へと発展したのは大きな成果でした。

 4年前、空席になった助教のポストに、口腔顎顔面における疼痛研究で数多くの業績をあげられている日大歯学部の岩田教授の元で学位を取得した人見先生(九州歯科大学・生理学分野助教)に来てもらいました。現在、口内炎モデルラットの疼痛解析法の開発が成功し(Hitomi et al., 2015)、このモデルラットを用いて口内炎鎮痛法の開発に取り組んでいるところです。

 私が行ってきた口渇中枢が存在する脳部位は、体液調節だけではなく、循環・体温調節系に関与することが判っていました。最近は、疼痛制御にも関っていそうだということが判ってきましたし、アンジオテンシンⅡも関連していそうです(Asami et al., 2011; Ono et al., 2011)。将来的には、小野先生や人見先生が何らかの形でこの2つを繋いでくれるのではないか、と期待しています。

15.おわりに

 この小文を書いていると様々な出来事が脳裏に浮かんできました。いろんな方々、紙面の関係上、本文中にお名前をお出しすることが出来ませんでしたが、多方面に亘る方々に大変お世話になりました。どうもありがとうございました。

 私の研究生活を陰で支えてくれた家族、特に、妻に感謝します。

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