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国際的研究者IDシステムORCID(オーキッド)とは?:研究者たちのデジタル履歴書②

 前回紹介したresearchmapは日本語話者向けの研究者情報システムでしたが、国際版として英文でのORCID(オーキッド)があります。英語だからと嫌がらずにORCID登録を済ませておくと、researchmap入力が楽になるのでおススメです。(小野堅太郎)

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 ORCIDは「(Open Researcher and Contributor ID」の略になります。IDは「identification」の略とすれば(intelligent designではありませんよ)、直訳すると「研究者・寄稿者の公開身元」ということになります。ん?業績管理ではないの?となります。そうです。ORCIDの主たる目的は、業績管理ではなく研究者の身元特定ということになります。

 Googleで「小野堅太郎」でエゴサーチすると私のresearchmapマイポータルしか出てきませんでした。おそらく「小野堅太郎」という名の研究者が他にいないか、いてもresearchmapに登録していないのでしょう(2021年現在)。ところが、「Kentaro Ono」で検索すると、「小野健太郎」さんのresearchmapが2件ヒットしてきます(広島大学と慶應義塾大学の方)。英語論文では「Kentaro Ono」と著者名を示していますので、PubMedで論文検索すると私でないたくさんの「Kentaro Ono」の論文が引っかかってきます。「小野君、論文たくさん出してるねぇ!」と言われても、「いや、そんなに出してないんで、他のKentaro Onoです。」と答えることになります。

 同姓同名や同アルファベット名だけでなく、結婚などで姓が変わってしまうことがあり、「この論文の著者は誰なの?」という問題が常に起こってきます。そこで出てきたアイディアが「1研究者に1番号をふり分ける」というものでした。名前が同じであろうと、結婚して名前が変わろうと、この割り振られた番号は変わりませんので、著者が何者かを特定することができるわけです。本国でも施行される「マイナンバー」も同じ考えです。2015年から、住民票のある日本在住国民に配布されています。日本はかなり出遅れていて、アメリカでは1936年から「ソーシャル・セキュリティー・ナンバー」、中国では1999年から「公民身分番号」が配布されています。

 ORCID IDと呼ばれる「研究者識別子」は2012年からの運用となります。ただしこれは自分で登録して番号を貰わないといけません。「マイナンバー」も「ソーシャル・セキュリティー・ナンバー」も「公民身分番号」もその国で生まれれば貰えますが(厳密には出生届を出したら貰える)、外国人がその国へ住むことになったときは自分で役所に出向いてID申請を行わなくてはなりません。ORCIDは非営利団体であるORCID Inc.が運営していますが、元々は2008年のトムソン・ロイター社からのResearcherIDを基にしており(Wikipedia情報)、2011年にORCID Inc.が技術提供を受けたようです(ResearcherIDについては次の記事で紹介します)。

 徐々に普及してきており、現在では論文PDFにORCID IDが付与されるようになってきました(身近ではJournal of Dental Researchとか)。著者名の右上に緑色の丸い印がついていれば、PDFからその著者のORCIDに飛ぶことができます。ちゃんとORCIDに情報が入っていると、その研究者の過去の論文を間違いなく追うことができます。PubMedとかでもできますが、同アルファベット名の別の人の論文が出て来たり、名前が変わっていたら論文を追うことができません。ORCIDはまだ始まって10年もない過渡期にありますが、この10年で論文がほぼデジタル化された経緯を踏まえると、いずれ登録が必須になるのではないかと感じています。

 ORCIDの基本構成は、Biography(経歴)、Funding(研究助成)、Works(業績)です。経歴には英文で、これまでの自分の研究活動やアピール点を書きます。研究助成は、DimensionsWizardというDimensions社の世界的研究助成データベースから検索して一括入力できます。WorksはElsevier社が提供している論文データベースScopusからいけます。researchmapでの業績管理の際は、このORCIDの業績情報から入力できるため楽です。

 さらに2018年からEmployment(職歴)、Education and Qualifications(学歴と資格取得)、Invited positions and distinctions(特別任用と受賞)、Membership and service(学会員と社会貢献)の4つが追加されており、こちらは手入力が必要で、他の業績管理サービスとの同期はできません。他にもいろんな情報を入力できますが、最低限といった感じです。ORCIDは業績管理サービスとしてはちょっと物足りないです(今後、追加されるでしょう)。

 ただし、研究者としての国際的公開情報と考えると、日本だけを対象にしたresearchmapよりも格上のサービスと言えます。ORCID入力を仕上げてしまうと、1クリックでCV(英語の履歴書)を生成できますので、留学を考えている研究者には超おススメです。QRコードも作成可能ですので、名刺やHPなどに活用できます。これらの機能が無料で使えるのですから、使わない手はありません。

 若い研究者(大学院生も含む)は、まず最初にORCIDを始めるべきです。英語なので初めは手こずるかもしれませんが、入力量は大したことないはずです。一応、日本語表示もできますが、変な日本語ですのでおススメしません。

 さて次回は、5年以上の研究歴を持つ研究者にお勧めの業績管理サービスPublons(パブロンズ)の紹介をします。他のサービスにはない「査読」の業績を管理することができます。お楽しみに。


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