見出し画像

研究論文の査読業績を集約するPublons(パブロンズ)を使ってますか?:研究者たちのデジタル履歴書③

 researchmapにもORCIDにもない研究者業績管理の穴といえば、「査読業績」です。科学論文は多くの研究者達のボランティア作業である「査読」という検証を受けたうえで「承認(アクセプト)」されたら掲載されます。しかし、査読者は基本的に「匿名」なため、業績に残しにくいです。これを解決してくれるのが「Publons(パブロンズ)」です。Publons初心者ですが、紹介します。(小野堅太郎)

note仕切り線01G

 科学論文には大きく分けて2つあります。「査読あり」と「査読なし」の論文です。「査読」とは、掲載される前に他の研究者から指摘を受けて修正したりし、最終的に掲載に十分な質が担保されるかどうかの審査過程です。ピアレビューと我々は読んでいます。科学には客観性が必要ですが、自分の研究にはどうしても客観性が抜け落ちてしまいます。そのため、論文は投稿した後に利害関係のない第三者の研究者により審査を受けます。この査読によって「科学の信頼性」は維持されています。そういう意味で、査読のない論文というのは重要視されません。

 査読において審査する人をレビュアー(評価者)といい、すべてボランティアで行われています。雑誌編集者からメールで依頼文が届きます。大体、論文タイトルと要旨が掲載されています。依頼された研究者は引き受けるも自由、断るも自由です。メール文の「Agree」をクリックすれば、承諾したことになり論文にアクセスできるようになります。「Decline」をクリックすれば、お断りしたことになり「できれば、代わりのレビュアーを教えて」とのお願いが出てきます。この返事をする期間が1~2週間程度、審査してコメントを提出するのが2~3週間程度でしょうか。いい論文だと楽しく読めるのですが、時に読むこと自体が苦痛な論文に出会うこともあります。それなりに大変な作業です。

 投稿者にはレビュアーの名前は伏せられています(最近、一部の雑誌ではオープンにするところが出てきました)。科学界において非常に重要な過程であり、ボランティアによって行われているため、非常に評価されるべき研究活動の一つです。しかし、匿名で行われるレビュー作業というのは客観的にオープンにできる業績として記述できず、自己申告に留まってしまいます。そこで、客観的審査を得て「査読業績」を残すシステムとして2012年「Publons(パブロンズ)」が誕生したわけです。

 Publonsの開発者はアンドリュー・プレストン博士です。PublonはPublish(掲載)に-on(基本単位を示す;例-neuron、electron)をつけた造語です。物理学者らしい命名だな~。「研究単位」のような意味になるでしょうか。2014年のネイチャー誌にインタビュー記事があります。結構、刺激的な内容で面白いので読んでみてください。Publonsの今後の方針もよくわかります。「The scientists who get credit for peer review」Richard Van Noorden, Nature, 2014

 上記記事からも読み取れますが、査読制度には様々な問題があります。そこら辺を一気に解決しようというのがPublonsによる査読業績の公開なわけです。研究者にとっては避けたい内容であると同時に、非常に有用なツールにもなりえる諸刃の剣です。実験や教育に忙しければ、査読はなかなか引き受けられません。逆に、研究業績があまりなくとも、査読を多く引き受けているのならば、科学界における功績は大きいと言えます。フェアな研究者評価のためにPublonsは欠かせないものになる可能性を秘めています。

 Publons社は、2017年、Clarivate(クラリベイト)社に買収されて傘下に入りました。クラリベイト社は、トムソン・ロイター社で科学情報を総合的に取り扱っていた部門が2016年に分社化したものです。トムソン・ロイター社時代にORCIDより先行して「研究者識別子」として提供されていたのがResearcherIDです。Publons社がクラリベイト社に入ったことにより、ResearcherIDプラットフォームと統合されたのが現在の姿です。トムソン・ロイター社からクラリベイト社に引き継がれた有料の科学論文検索サイト「Web of Science」との連結がなされ、ResearcherIDは「Web of Science ResearcherID」という長い名前になっています。

 とりあえず、現在のPublonsの機能の目玉は、個々の研究者における査読実績の記録です。雑誌からの感謝メールをreviews@publons.comに転送すると、Publons社で確認作業が行われ、無料で登録してくれます。かなりめんどくさい作業に思うのですが、数日後に査読実績の記録が完了します。小野はまだ、一部の査読分しか登録していません。また、雑誌の出版社が提供する査読投稿プラットフォームとも提携していて、チェックを入れていれば、自動登録されます。ORCIDとも連動していて、査読業績が反映されるようです。

 さてさて、PublonsはResearcherIDと統合されたといいました。Web of Scienceという有料の論文検索システムが使える研究機関(大学)ならば、ResearcherIDをもらって「自分の論文の引用数」などを見ることができました。近くの九大の先生をうらやましく思っていたのですが、お金のない九州歯科大学の教員でもPublonsから論文引用回数などのデータが見れるようになったのです。これは弱小大学にとっては福音です。

 Publonsに自分の論文を登録すると、Web of Scienceに採用されている膨大な科学雑誌内での引用回数が瞬時に出てきます。Web of Scienceには厳密な審査があるため、ハゲタカジャーナルなど信用度の低い雑誌は含まれていません。そもそも、クラリベイト社は科学論文雑誌の格付け数値である「インパクトファクター(IF)」を算出しています。これは「過去二年間における、その雑誌に掲載された論文の平均引用数」です。たくさん引用されるということは、科学界によりインパクトを与えたということになります。IFを計算している会社ですので、1つの論文が何回引用されたかを出すことができるわけです。

画像2

 トップ画像で小野の業績を晒していますが(恥ずかしい・・・)、Web of Scienceに採用されている論文が87本で、それらの総引用数が1029ですので、1本あたり12回引用されている計算です。研究歴が20年ですので、毎年50回引用されているということになります。ただし、論文数が多ければ引用数は増えてしまいます。また、一部の論文だけがやたら引用されているけれども、他の論文はほとんど引用されてない場合もあります。

 そこで、論文数と引用数のバランスを考えて計算されたものが、h-indexです。トップ画像の右にある数字がh-indexで、小野は18となっています。この解釈は「18回以上引用された論文が18本ある」というものです。計算は結構簡単で、「引用数が多い順で並べて、順位の数字が引用数を上回る前の順位」となります。一般的に25以上であれば「スゴイ研究者」と言われています(小野は平凡ですね)。あと、研究歴が長いと引用数は増えて高い数値が出てきやすいので、5年間の業績に絞ったh5-indexというのもあります(小野は2015-2019年ならh5-indexは8でした。)。h-indexには問題もあり、極端な例をいうと、10本の論文のうち1本が1000回引用されていても他の9本が0回引用ならば、h-indexは「1」になってしまいます(1回以上引用された論文が1本、という解釈)。まあ、あくまでも評価指標の一つです。

 ログインするとより細かい引用動向をグラフで見ることができます。自分の頑張りを視覚的に見れるというのは、やる気を出すうえで重要なことです。インパクトファクターや、引用数、h-indexは気にしながら、研究活動をすることもこれから重要になってくるでしょう。

全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。