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////星の鳴り止まぬ夜に。

冷たい空気が舌に触れる。

大きく口を開けて、遠くから走ってくる風を食べる。

 

髪の一本一本を丁寧に撫でながら、それはあたしの中をすり抜けて行く。

やがて静かになって、誰も居ない公園で立ち尽くす。

 

遠くからアコースティックギターの音色が聞こえる星降る夜に、

あたしは一雫の星の音を聞く。

 



それはまつげの先を滑り降り、

重力に引き寄せられるまま真っ直ぐと耳に届く。

 

チリンと鳴って飲み干したカクテルグラスの三角をなぞり、

僅かに色づいて底に溜まる。

 

あたしは席を立つ。

その拍子にカクテルグラスはバランスを欠き、

キャンドルが灯る柔らかなカウンターの上で少し弧を描いてから吸い込まれるようにして床に落ちた。

細かく重みのない美しい音色が店内に響き渡り、時を止める。


それはあたしを引き留めるかのように、

もしくはもう二度と戻るなとでも言うように。



床一面は星空になった。



やがて音に注目していた他の客たちが止まった時間を動かし始めても、

あたしはそれに上手く馴染めずにただ、


“何て言ったらいいの?”


と、床一面の星空を見下ろして呟くしかなかった。

 


あたしはどちらの方向へどのような歩幅で一歩を踏み出せば良いのかを考えることが出来るほど強くはなくて、

ただただそこに立って居るだけで精一杯であった。

塩辛さが舌に触れる。


大きく口を開けて前方から押し寄せてくる波に喰われる。

連れ去ってしまうかのような勢いで、あたしを闇が叩き続ける。


この場所もいつかは静かになって誰も居なくなるのだろう

そう思うと立っていることすら馬鹿馬鹿しくなってくる。


あたしはあたしの身体を操る細く張った糸を指先で手繰り寄せ、

隠し持っていた大きな古いはさみの錆びて赤褐色になった刃先を当てた。


解放された身体は自らの重みに驚きながら音もなく解放され、

床一面の星空へダイブする。


キラキラと輝く美しい星たちがあたしを歓迎するかのようにあたしのなかに深く突き刺さり、あたしは少しバウンドをして星たちに愛を示す。


砕け散り合った世界にしばし休息の時を。

永遠という世界に逝ってしまうには、まだはやいのでしょう?


感覚のない皮膚からたくさんの赤い蕾がが芽吹き、

床の上でゆっくりと花びらを開いた。


温かな甘さが舌に触れる。


大きく口を開けて吐き出してしまうこともできたが、しなかった。

遠くで騒がしい音が走り回り、やがてあたしの肉体は宙に浮かされる。


床に未練を残した髪の、一本一本を滑り降りて星屑がさよならを言う。




あたしはまだ公園でひとり立ち尽くしたままで、

もう聞こえないアコースティックギターの音色を聞いていた。


ふと見上げた空に、星が流れた。

美しいあの星は、

この場所から見るから輝いて見えるのだとあたしは知っている。


あたしが太陽になれたなら360度全て輝いて見えるかもしれないが、

それもまた悲しいことだと思った。


あたしは大きく弧を描く。

星空が頭上で大きく揺れた。


目の前に星空が広がる。


後頭部に鈍い痛みを感じながら、

あたしは

静けさの中に溶けた。 




(////星の鳴り止まぬ夜に。2009年09月25日18:52)

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