このてのひらに-red ②
街路樹が続く道。
閑静な住宅街。
歩道を気にしながらきみを探した。
仕事が終わってからという不確かな時間。
しかも夜遅い。
だから、なるべくきみの家の近所で
車で。
『今から行きます』
と連絡ができたのは、てっぺん(0時)間近。
昼とか。朝とか。
土日とか。
そういうのにまったく無関係な世界。
しかも1回しか話したことのない娘を
真夜中に車に乗せて二人っきりっていう…
ご両親に申し訳ないようなこのシュチュエーション。
あ。
細身のデニムパンツに薄いグレーのカーディガン。
彼女だ。
変なやつに声なんかかけられなかっただろうか。
車を側に寄せて、ドアを開けた。
『ごめんね、こんな時間に。』
『いいえ。明日はお休みですから。っていうか…本当に来てくれたんですね。こんなところまで…』
『来るって!おれから言い出したことなんだし…さ、乗って?けっこう暗いから心配しちゃったよ…ごめんね?』
『大丈夫ですよ。ここ、昔からの人しか住んでないし、顔見知りばかりなんです。』
『確かに古い家ばかりだね… って。きみは?ご両親にはどう伝えたの?』
『あ…言ってなかったですか?うち、姉と暮らししてるんです。両親はアメリカ行っちゃってて…』
『大丈夫?』
『姉も…夜遊びしてるから…大丈夫です。笑 』
『夜遊び?心配だな…』
『お父さんみたいですよ?』
『あ。ちょっとショックかも』
『ごめんなさい… 笑』
『笑っちゃってるじゃん!』
きみの笑い声で
今日の疲れが飛んでいくようだった。
▤▤▤▤▤
あの晩から始まったんだ。
誰も知らないおれたちの恋は。
たくさんの夢、夜、きみの味。
何度も抱き合って確かめて。
ただ…
思い上がったおれがあんな提案をするまでが、幸せな時間だった。
人目を避けなければいけない逢瀬。
おれはそれに苛立つことが多くなった。
だから。
部屋を借りようとした。
ふたりだけの秘密の要塞。
そのことで喧嘩になった。
『今のままでいいじゃない?』
『どうして?もう、こそこそするの、やなんだ』
『仕方のないことでしょう?』
『そうやって、きみに仕方のないことって言わせたくないんだ』
『しょうさん…部屋を借りて、わたしはそこで待つの?』
『そうだ、安全に、おれのこと待っててくれるだけでいいんだ』
『…そんなの、いや。わたしまで、管理しないで。こそこそしてるほうがいい。』
▤▤▤▤▤
きみとどんどん
ぎくしゃくしていって。
終わった。
なんでも欲しがったせいだ。
多少の不自由を我慢してればよかったんだ。
多少の不自由…
今までなら、我慢できてたことが。
きみとはできなかった。
ずっと一緒にいたかった。
いや、
いられると思ってた。
二年後…
友人から届いた招待状に
きみの名前が並んでた。
不思議と
平気だった
きみが幸せになるなら。
しかもおれの友達と。
きっとあいつは、あの飲み会の時から狙ってたんだ。
そうだよ、
だから…
顔を覆っていた手のひらに、
目から染みでた涙が光ってた。
誰も知らないおれの心の砕けた欠片が
手のひらに傷を付けた。
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