日常が映画のワンシーンになる

パリという街に暮らしていると、ときどきまるで私が映画を見ているのではないかと感じる出来事が起きたりする。


平日のお昼間、バスに乗っていた。すると急に、ハイヒールを履いた上品なマダムが席から飛び上がり、トラ柄のポシェットを取るのも忘れ、運転手に向かって行って何かを叫び始めたのだ。

「止めて!降り忘れたわ!このクソ!ありえない!そんなのないわ!クソ!大事なミーティングなのよ!止めて!頼むからお願いよ!」

などと若者もびっくりのFワードの嵐。乗客らも唖然。それはコンコルド広場近くでのことで、その時間は渋滞気味だったから、運転手さんは路肩に近づいてドアを開けてあげ、その我を忘れたマダムを降ろしてあげた。

「最高!ありがとうムッシュー!」

と言い残してバスを降りたマダムは、あの高いヒールを物ともせずコンコルド広場の石畳を、器用に車を避けながら猛ダッシュで目的地へと向かっていった。残されたバスの乗客は口々に「こりゃあっぱれ〜」言わんばかりの、ため息と感心が混ざったような、言葉にならないうなり声のようなものをあげたのだった。


なんとまあ、現実らしからぬワンシーンであった。

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