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溶け込んで目線を合わせることで生まれるもの

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武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義レポートです。
第12回 株式会社Fog/大山 貴子 さん(2021.09.26)
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今回は、株式会社fogという会社を立ち上げ、企業向けのサーキュラーエコノミーの支援や、自身での活動を行っている大山さんにお話しを伺った。

サーキュラーエコノミーにたどり着くまで

大山さんはSuffolk Universityへの進学、ブルックリンで就職・転職、日本へ帰国して広告会社へ勤務、ヴィーガンカフェの経営、コミュニティーガーデン、、とかなり多くの経験通じてサーキュラーエコノミーにたどり着いたとのことだ。

大学生の時は、ウガンダ等でのフィールドワークに従事した。現地の人々の生活に入り込み、現地の言葉であるアチョリ語を教わったりもしたそうだ。現地に入り込みすぎて「帰国したくない」と感じるほどで、一緒に行った他の学生が調査後に「やっと帰れる~」という感じだったというところに溝を感じたそうだ。こういった経験から、入り込んでみることでこの人たちの現状を理解する、未来を考えることがやりたいという思いが芽生えた。

ブルックリンで仕事をしていた際は、黒人の住む大規模なエリアとユダヤ人向けの集合住宅が存在し、それぞれのコミュニティが道で完全に分断されているところに住んでいた。一方、全てのコミュニケーション分断されているわけではなく、大家さんは大概ユダヤ人のため、家賃の回収の際はお互いが関わるという面白い環境だったという。

その後NYに移り、特にPark Slope Food Coopとの出会いが大きかった、と伺った。
Park Slope Food Coopは会員制のスーパーマーケットで入会料200ドル。
1か月に1回ワークシフトがあり。棚卸しから、お年寄りが購入した品物を家まで運ぶのを手伝うといったものまでさまざまな仕事がある。
コモンズという思想が強い場所で、それは店内の展示も、店にやってくるお客さんの行動にも反映されている。
例えば食品のタグには「ここから〇km先で作られたもの」というインフォメーションがあり、購入者へフードマイレージを伝えている。また、ごみの削減のために家からパンを入れる袋を持ってきて、野菜を詰めているお客さんがいたという。
サーキュラーとは何かいうことに日常的に触れることができる場所になっている。

また、大山さんが開かれたヴィーガンカフェは日本人より外国人の来訪が多かったという。大山さんが英語を喋れること、当時の日本はかなり珍しいレベルでしっかりとしたヴィーガンカフェだったことが影響したようだ。食べログよりトリップアドバイザーの方がレビュー多いというなかなか珍しいお店となった。
そこでは、「地元のおばちゃんと観光客と日本に住んでる外国人が混じる」「おばちゃんが近所のどこそこが良いということを日本語で伝え、大山さんが通訳をして繋ぐ」という凡そ日本では見られないような光景が広がっていたそうだ。

コミュニティーガーデンの運営

大山さんはこのように多くの関わりを持つ場で、様々な物事や人の循環というものを経験し、コミュニティーガーデンを運営するに至っている。
豊島区長崎の「壱番館」というところを拠点としており、循環を地域に拡張させるために、リビングラボに近い形で実証実験を行っているとのことだ。
例えば、地域に開かれたブックポスト(RE:RE:BOOKS)や開かれたコンポスト等を置いている。
コンポストについては、ビジネスにすべきかと考えたものの、コンポストは微生物の力を使って土へ還す行為なので、それを人間の利益にするのはどうかという呵責があった。そのためコミュニティサービスの一部であって、お金を伴うサービスとして売るものとはしなかった。なので地域にコンポストを置いた

地域における対話

大山さんが経営されている株式会社fogでは循環型社会の実現に向けた変革コンサルティングを行っている。
その一環として島根県雲南市に入り込み、ローカルマニュフェストを作成したというお話を伺った。

地域の方へインタビューをする中で、この地域は外に発信するのは上手いものの、それが完全に地域に溶け込んでいなかったということが分かった。
「先導している人たちは何だかキラキラしているが自分たちはキラキラしてないから関わっていけないと思っていた」という人々が沢山いた。「本当は思っているけど、言えない」「受け入れることが難しい」といった声が地域のマジョリティーの声だった。
しかし往々にしてよくあることだが、声の大きい人や団体の声が地域の声の代表として扱われる状況だった。
そのような状況の中で、どうせステージに上がれない、といった諦めのようなものもある状況だった。
このような状況では対話をすることが必要だと考えらえたが、そもそも対話をするのが怖いという話もあった。
そのため、対話の軸になる行動指針として、ローカルマニュフェストを作成した。
ローカルマニュフェストはあえて強い言葉にせず、それぞれが理解してどういう風に理解したかをお互い話せるプレイカードとしてつくった。
そしてカードを使って対話会を行い、自分がビビッときた言葉をベースに、いいところ・だめなところ・できていないところ・未来に残していきたいところ、どれを残したらいいか、どうやって残したらいいかを話したそうだ。対話会の前提として、「ここは誰もが決めつけない場所、思いを話しましょう」ということで、誰もジャッジしない安心できる状況を作ったそうだ。

大切にしていること

様々な体験を通じて、大山さんが大切にしていることは以下の5つだ

①多角的に対象を見る:見えている・認識している情報が図べ手ではない。常に新しい情報その裏にある心理、背景を意識する

②境界線を曖昧にする:常に自分は1市民であるという立場を大事にしている。そのため敢えて「〇〇専門家」のような肩書もつけないようにしている

③脱サステナブル:例えば海外の「サステナブル」を歌うブランドについても輸送コストを考えた時に「本当にサステナブルなのか」という視点を忘れずに考える

④日本独自のサステナブル:例えば間伐材の割りばしを使うことが日本独自のサステナブルにあたる。日本の森林保全のためには間伐材の生産は避けられないため、それを利用することはサステナブルなことだと考えらえる

⑤巻き込むために甘える・依存する:自分ですべてをやらずに、様々な人と関わり、巻き込むことが重要

肩書や外から見える情報だけでなく、内側・様々なステークホルダーの思いを受け止めながら、置いてけぼりの人を極力作らないように巻き込み進んでいく、ということのように理解した

所感

大山さんが大切にしていることの③と④が個人的に響いた。
サステナブル(及びSDGs)をいう言葉を唱える企業も昨今増えてきているが「本当にそうなのか?」という気持ちが自分の中にあったからだ。しかしながら誰もそれを口にしないので、私がおかしいのかと思っていた。
大山さんのお話を伺い、自分の生活の中でのサステナブルを考えるときは全体感だけでなく地域の独自性をしっかりと考慮しながら仮説を立てることが重要だと思った。また、サーキュラー(循環)という観点からすると環境面に限らず、それを循環させるに当たっての人の思いや気持ちといった土壌を耕すような活動が重要になると思った。

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