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ヤマ・森-都市-人をつなぐ樵

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義に関するレポートです。

2021.04.12 第1回 林業アーティスト/足立成亮さん 建築家/陣内 雄さん

北海道で「樵」(きこり)として活動を行うお二方にお話しを伺った。
足立さんは、元々フォトグラファーで12年ほど前から現在の活動を開始、曰く、outwoodsという屋号のようなものを掲げ活動されている。
陣内さんは建築家でNPO法人もりねっと北海道などを立ち上げ、「20年以上、なんだかんだ北海道のヤマに関わってきた」という。
足立さんと陣内さんは異なるバックグラウンドを持ちながらも、ヤマに対する「寂しさ」といった共通言語を持ち、現場ごとに一緒になり、現場が終われば、それぞれの仕事にもどるというスタイルで、森づくりを通じてヤマと人を繋ぐ「樵」として日々活動されている。

理想を描いてヤマをつくる

outwoodsでは1枚の絵を掲げて活動されている。
その絵の中では、木の切り出しや重機を使ったヤマの仕事をしている人たち、ふもとでマルシェを開いている人たち、途中途中でツリーハウスで遊ぶ人たち、そしてその人たちを繋ぐ道などが描かれている。
足立さんは「絵空事(その絵)を実現するために活動している」とおっしゃっていた。
その実現のために重要なこととして、私がお二方のお話から感じ取ったのは以下のことだ。それぞれについて書いていきたい。

① ヤマ・森を人に知ってもらう
② 道をデザインする
③ ヤマ・森と人との新しい関係性を作り、伝えていく

① ヤマ・森を人に知ってもらう

ヤマ・森、と言われて東京育ちの私が浮かべるのは祖父母の家がある東北地方の田舎の景色だ。しっとりとした空気感を持ち、東京にはない音や景色が転がっていた。ただし生活圏からはちょっと距離があったように思う。
北海道も似たような環境だとすると、ヤマ・森と人の間には物理的な距離が存在しているはずだ。物理的な距離はやがて心理的な距離にもなる。

おそらくその”距離”を縮めるために「都市(人がいるところ)に森のことを持ち込む」ことと「人に森に来てもらえるようにする」という2つのことを足立さん・陣内さんは実践されている。そして知ってもらうことから生まれる共通言語を大事に活動されている。

前者の活動として、足立さんの写真・鹿を打った後の薬莢や樵仕事の道具などの展示を百貨店で行ったり、ライジングサンフェスティバルで森の空間を表現したブースを設けるなどされている。お二方自身で様々な提案をして周りを巻き込んで進めていく、熱意と行動力が必要とされる大変な活動だと思った。

ただ、私には後者がより厄介に思えた。"距離"のあるヤマ・森へ人に来てもらわなければならないのだ。「来て」と言われて気軽に行けるようなものではないような気がした。
そのため、後者を実現するためにお二方が行っている、「道」ヤマと人を繋ぐ装置として捉え、デザインしていく、という活動はとても重要なものだと思った。

②道をデザインする

お二方の言う「道」は「森林作業道」を指す。陣内さん曰く「森に近づくときの毛細血管」とのことだ。その単語から、ヤマ・森の末端まで細かく入り込む繊細な道を私はイメージした。実際、「樵の仕事は繊細」とのことだった。
足立さんは「景色がよくないとみんな森に入りたがらない」という感覚をお持ちだ。
一方、「道を作るということは森を壊すということ」なので環境に負荷をかけないような意識も必要となる。
結果として、環境の負荷をかけないことを念頭に置きつつ景観のバランスも考えて間伐材を切り出すという、繊細な道作りが樵のお二方の絶妙な感覚の元で行われている。
講義の後、陣内さんのホームページを拝見したが、「いまどきの林業では少数派の、チェンソーで倒す、枝を切って丸太にする、機械で道に引っ張り出し運ぶ、というスタイル」と書いてあった。1つ1つの手仕事を想像する気が遠くなる。それ故に、美しい道がデザインが可能となっている。
しかしながら、ヤマ・森、美しい道の3点セットがそこに横たわっていても、人が勝手に見に来るわけではない。そこで全てを繋ぐ新しい関係性を作り伝えていくハブが必要となる。それがまさに樵のお二方、足立さん・陣内さんだ。

③ ヤマ・森と人との新しい関係性を作り、伝えていく

従来の林業は、人が森から木を切り出して売ることで金銭を得るものであり、森は人に利用されるものであった。
一方、足立さんと陣内さんは、木を切り売る・利用するという以外の関係性をヤマ・森と構築している。
足立さん曰く、「破壊や自然といった(二項対立の概念ではなく)全てのものが存在する森から、拾い集めて生きていけるか、そのための意識を高めることができるか」、陣内さんの言葉では「将来の価値が残るような森づくり」という意識に基づいた、ヤマ・森との関係性の構築が行われている。
それは、前述した森と人のベストパフォーマンスを助けるような道作りであったり、従来であればパルプにされてしまうような付加価値の低い木を使ってモノづくりを行い、伝えていくことなどだ。
さらに陣内さんは日本の伝統的な工法(本来北海道の気候には合いづらいもの)で、土・藁・木といった北海道の素材を使って快適な家を建築するというイノベーティブな試みも実践されている。

このように多方面で作られたヤマ・森との関係は、お二方を通じて色々なところへ運ばれていく。
足立さんは、「喋りすぎるくらい喋る」ことが大事だが、森のことをひたすら喋る前に「魅力的」と興味を持ってもらうことが必要、そのために「かっこいい」と思ってもらえるものを届けたいと言う。
薪の販売を行っているが、薪を売りたいわけではなく、自分たちのことを伝えるために薪がある、とのことだった。
陣内さんは「ずーーっとやっていける林業」という言葉で活動を説明するという。至るところで使われる「サスティナブル」という言葉が最近よくわからなくなってきていた私にはこの言葉が刺さり、前よりも少し腑に落ちた。
お二方のかっこいい仕事わかりやすい言葉で、人々にその価値、樵の仕事が伝えられていき、それが更に新しいヤマ・森と人とのを生むという循環になっている。
(周囲に伝わった結果、マウンテンバイクを楽しみながらヤマの道の清掃を行うといった活動が行われたりしている)

まとめ・感想

足立さん・陣内さんはヤマ・森を何とかしたい、地元を何とかしたいという思いの元、様々なアプローチでヤマ・森との関係を組みなおし、人に伝えることでその価値を運んでいる。
「デジタル」や「テクノロジー」ではなく、昔ながらの樵仕事を魅せ、その地に腰を落ち着けながらも、軽やかに周囲と交流を行い巻き込んでいくお二方の姿勢に背筋が伸びる思いがした。
また、数年前に対話を行うために入った森のことを懐かしく思い出した。数日森にいたら感覚も何となく変わり、そしてそこをきっかけにリブートして今日まで進んでこれたと感じているので、森には確かに何かある、と思う。
森は好きだが行くタイミングがないなーと思っていた私としては、自分の居住地から、(免許がないため)車がなくても行ける森を探すところから始めたい。

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