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未来の種を育てるスペキュラティブ

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義に関するレポートです。

2021.04.19 第2回 パーソンズ美術大学/岩渕 正樹さん

NY在住のデザイン研究者の岩渕さんにスペキュラティブデザイン(今はこの言葉を使わないらしい)や、ビジョンや夢をもって世界を広げていくことの重要さについて伺った。

スペキュラティブデザインとは

私はスペキュラティブデザインというワードやその概要は文字で読んだことあるが、正直なところあまり腹落ちさせることができていないし、何か得体の知れない難しいものだと感じている。
というのも、未来を考えて風呂敷を広げることは面白いことだが、ちょっと方向性を間違えればたちまちSF小説のように非現実的すぎるディストピアを想像の中で広げてしまう。その中でどうやって思考を広げていけばよいのか、それが適切なのかがわからない。なので、難しいように感じている。(なお、SF小説は大好きだ)

所謂スペキュラティブデザインにおいては、現在から未来は円錐状に広がっていると考える。以下の順で円錐は外に開いていき、未来にはいくつもの可能性が存在するということを表す。
・もっとも起こりそうな未来:「Probable」
・起こってもおかしくない未来を:「Plausible」
・起こりうる未来:「Possible」
現在の延長ではない、飛躍した未来を幅広く想像することを通じてどれが好ましい(Preferable)未来なのかを議論していく。特によりあいまいなPossibleやPlausibleに焦点を当てることが必要だとされている。

短期的な狭い世界でしか見えない視野を脱出できるというところにポイントがあり、いきなりリターンがあるかは分からないが、10年20年で生きてくるのではないかというテンションで考えているとのことだった。
時間はかかるが、各自の持つ未来の種から全員で時間をかけて結晶化させることにポイントがある。(「共創から共脳へ」というワードを使用されていた)

このスペキュラティブデザインを学び、社会で実践されている岩渕さんにおいて、未来をつくるために欠かせないのが「Social Dreaming」「Vision」だそうだ。

Social DreamingとVision

元々Social Dreamingは1980年代から出てきた心理学の一分野で、「夜見る夢をみんなで共有すると自己をより知れる」という考え方だそうだ。

現代は様々なものが存在しており、従来「既存のものをよくする」という考え方では新たなものを作り出すことは難しい。
そのため、既存の枠に捉われないカテゴリを作り出し、プロダクト、体験、サービス、人々の文化(これまでの常識)を変えるような商品を考える必要がある。
既存の枠に捉われないということは、前例がないことをしなければいけないということであり、今までのデータが役立たない状態ということだ。
その未知なる領域へ踏み出すために、野望や勇気、ビジョンが必要になる時代にきていると岩渕さんは考えている。
そして内発的な情熱、将来的な利益、新しい文化を意識することを
Social Dreamingとし、どうやって夢を作っていくかが重要である、とされている。
現代では昔のように「鳥のように空を飛べたら」というような夢を持つことが難しい。そのため、どのように現代においてポジティブな夢を持てるようにできるか、ということがポイントだと感じた。

また、夢を描いたうえでその方向性を伝える役割を果たすのがビジョンだ。
「夢を現実世界にどう落とし込むか」という例として示されたUberのデザインマネージャーの話が興味深い。
Uberのデザインマネージャーは理想の町を作るために、町全体を最適化、可視化していくかという視点で事業を見ている。そこから、街づくりをするときはUberがデータを持っているから自動運転エリアとその他を分けるた街づくりをするとか、Co2削減にも有用ではないか、といった示唆が行われる。
このようにビジョンがあり、プロダクトが作られていくということが重要だそうだ。

ビジョンに基づいてプロダクトを作るということは、特に20代のころの私には馴染みが薄かった。ビジョン・ミッション・バリューは知ってはいるが、どう実践していくべきなのかの手触りが薄いような感覚を持っていた。
そんな私には実際にビジョンを掲げて進むteknikioの話が刺さった。

Vision Drivenで進む会社の話

現在岩渕さんがデザインディレクターとして働いているteknikioではVision Drivenでプロダクトを作っているとのことだった。
technikioのビジョンは「STEM should be Gender Neutal」。岩渕さんは大きな問題にチャレンジしたいという思いから、ジェンダーニュートラルというビジョンを持つ会社に参加したという。

technikioのビジョンは、現在の職業の約80%においてSTEMが求められる(し、STEM教育を受けているほうが良い待遇の仕事にも就きやすい!)が、女性への普及が少ないということへの問題意識から生まれたビジョンだそうだ。
興味深い点は定量的な着地点がないという点だ。(「女性への普及が50%になったから、男性と女性のSTEM教育を受けた数が同数になったから、ビジョンが達成された」というようなもの)
とにかく今は女性へのSTEM教育の普及率が低く、それを改善するため少し強めのビジョンを掲げ、様々な実践を行っている。

実際にプロダクトを投下し、結果見て、改善を行うことで女性を取り込むことができるSTEM教育プロダクト作りを行っている。
例えば、プロダクト投下後の調査から、女子はどのようにコーディングをするかやロジックが動くかということにあまり興味がないということが判明した際は、「HTMLが学べます」ではなく「最後に何ができるか」をアピールするWebページにするなどの改善を行った。
また、ロボット等所謂男性の方が興味を持つようなものを作るのではなく、身の回りのもの(布とかボタンとか)に電子工作を掛け合わせた形でカリキュラムを組むようにする等も行っている。

まとめ

夢を描き、ビジョンでその夢を現実へ落としていく、というと簡単に聞こえてしまうが、それがなかなか難しい。
これは、時間をかけて考えていくものなのだろうと思う。が、その余白が圧倒的に足りないように思えている。
まずは意識して余白を自分の中に作るところから考えていきたい。

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