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「ポジティブに人を変える」デジタルアートとソリューション

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義レポートです。
第6回 teamLab/堺大輔さん (2021.05.17)

<プロフィール>
東京大学工学部機械情報工学科、東京大学大学院学際情報学府では、ヒューマノイドロボットのウェアラブル遠隔操作システムについて研究。主にソリューションを担当。
(引用元:https://haa.athuman.com/lpo/seminar/it_seminar_teamlab/

teamLabと言われて真っ先に思い浮かべるのはお台場、豊洲のデジタルアートミュージアムだ。しかしながらアートだけでなく様々なアプリ等のソリューションも生み出している。
アートとソリューション、別物のように思えるが「人々がポジティブになるように体験を変えていく」という点が共通していた。また、それを実現する仕組み・文化が根底にあった。この観点で今回はまとめていきたい。

↓何回も行ったお台場のteamLab★Borderless。展示がインタラクティブに変わっていったり塗り絵した魚が泳ぐ等、興味を惹かれてしまうアートが多く、気が付いたら何時間も溶けていたという恐ろしくも大好きな施設。

人々がポジティブになるように体験を変えるアート

従来のアートの鑑賞方法として、ルーブル美術館でモナリザに人だかりができる写真が提示された。
私は数年前に六本木でミュシャ展を見に行ったことを思い出した。絵の前には必ず人がいて絶えず動き回りゆったり鑑賞できない。いいポジションの人がなかなか場所を譲ってくれない。邪魔だなと横柄に思いつつ、私も誰かの邪魔になっているのだろうと少し萎縮しながら見て回った。

このように他者の存在が悪い方向に干渉するというものが従来のよくあるアートの鑑賞方法だった。

teamLabでは「他者が邪魔にならない」どころか「他者がいるからこそ成り立つ」という新しいアートの鑑賞方法を提供している。

その1つがまさに先日鑑賞してきた「人々のための岩に憑依する滝」というアートだ。

↓数か月前に訪れた際の写真。フォトスポットとして人が途切れず撮影をしていたが、人によって表示されるデジタルアートがちょっとずつ異なるところが面白かった。

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この写真は岩のようなオブジェの頂点で撮ったものだが、そのオブジェの裾野までデジタルの滝が流れている。人自身を岩と見立て、人に滝が当たると水の流れが変化していく。
お互いの干渉が緩やかなため、他者の存在が大きく気になることもなく変化を楽しめるアートになっている。

子供向けの「裏返った世界の、巨大!つながるブロックのまち」も同様だ。
子供たちがブロックを置くと、ブロック同士が繋がって、乗り物が走り出しす。ブロックをうまく繋げると、乗り物が進化したりするアートだ。
質疑応答の際に「喧嘩等、マイナスの影響が起きることはないのか」という質問に対して、「何となくあっちで誰かがブロックを置いてなんか変わったな」程度の変化、かつゲーム性を高くしていないので問題はないと回答されていた。競争をあおらず、誰でも共同作業として楽しめるレベルに止めるというバランスの良さに脱帽した。

人々がポジティブになるように体験を変えるソリューション

teamLabではアートだけではなく様々なサイトアプリを作っている。
「とにかくマイル保持者のテンションを上げる」ためのアプリ、「何気なく自動販売機に立ち寄っていたユーザーが目的をもって立ち寄るようになる」ユーザーの行動を変容させるサービス、様々なものが生み出されている。

このようなサイト・アプリ構築には、人々の体験を変えるという観点からのクオリティの考え方、そしてそれを可能にする体制作りがあった。

クオリティについては「本当に気持ちよく使いやすく使えるか」を重視し、1タップ少なくする等、細かい積み重ねによってクオリティを向上させていくとのことだった。
品質管理について質問をしたところ、一般的なウォーターフォール型開発で用いられる定量的な指標(バグ曲線等)に加えて「ユーザーの使い勝手、ユーザーが気持ちいいか、使いやすいか。」という定性的な観点でも見るとのことだった。
使い勝手の良いサイトやアプリが当たり前になってきている今の時代に、こういった定性面の作りこみが行えることは重要なことだと感じた。

そして、できる限りの情報は得た上、プロトタイプを作成し、そこから「どうすればクオリティが高くなるか」という軸で考えながら固めていくそうだ。
所謂、大規模開発に携わっていた身としてはこれは困難に思える。
品質管理、機能、UIと担当が分断されることが多かったからだ。
しかし、teamLabではデザイナー・プログラマー・カタリストの3名がプロジェクトに入る体制を組むことでこれを可能にしている。
例えばプロトタイプを作り、「この動きがイケている」というデザイナーに対して「その動きの実装は表示速度が遅くなりユーザーの使い勝手が悪くなるので避けた方がよい」とプログラマーが返す、といった風に検討を進めていくのだそうだ。

また、このような会話や素早い検討は文化、ナレッジ・ノウハウの蓄積により可能となっている。

文化の浸透とナレッジ・ノウハウの蓄積

teamLabでは内部でチームを組んで様々な開発を行うことで、文化の浸透(心理的安全性の担保合理的に考えること)とナレッジ・ノウハウの蓄積を実現している。

外注先やフリーランスの集まりのように1つのプロジェクト限りの関わりの人間関係に基づく散逸的なチームでは、心理的安全性に欠けがちだ。
そのため、最初から仲間にいる内部のメンバーで行い、一緒にリスクをとる試みを繰り返すことで、楽しみながら困難に見える案件にチャレンジできるような仕組みになっているとのことだった。

さらに、内部でチームを組むことはナレッジ・ノウハウの蓄積にもつながる。
一緒にプロジェクトをやっていると「これが良い」がだんだん一致してくるとのことだった。そしてナレッジが溜まっているので、ブレストしていてもすぐにみんな腹落ちして案が決まるのだそうだ。これが素早く検討を行える素地となっている。

また、堺さんは「空間によって人の行動は変わるので空間は重要」とおっしゃっていた。
その言葉通り、オフィスも「できる限りアイデアを呼び出しやすくする」ために合理的な空間として作られていた。
例えば、ホワイトボードがない。その代わりに「メモデスク」がある。
テーブルの上一面がメモになっているのだ。これで、UXやパースなどを書きながらラフに自分の手元で考えることもできるし、真ん中に書くことで皆に考えを伝えることもできる。(一方、ホワイトボードだと誰か1人が書くか、皆が立って書くことになり合理性に欠ける。)
このように細かい箇所から合理性がちりばめられていた。
また、机上で行えないような実験を行えるスペースもあり、会社で皆で一緒に作ることが合理的な空間となっていた。

所感

オフィスツアーから講義は始まったのだが、メモデスクに度肝を抜かれた。
ホワイトボードで書くことは、皆の視線を一手に引き受けることにもなるし、間違ったことを書いたらどうしよう、と私はとても緊張するので苦手だ。メモデスクはまさにこの点を解消してくれるものだった。
また、内製化することで心理的安全性を担保しているという話も興味深かった。
ハード面・ソフト面の双方から、プロジェクトに携わる社員のUXを考えることができている会社だからこそ、クオリティの高いデジタルアートやソリューションを作れるのかもしれない、と思った。(4月に利用し、「このアプリテンション上がるし好きだな」と思っていたものが講義で紹介されており、妙に腹落ちした。)

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