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環境・文化に合わせた情報と考え方の重要性

私の趣味の1つは一眼レフで写真を撮ることだ。

初めてレンズを買うときに「旅行先でも取り回しのきく、ズームレンズを買おう」と店舗へ足を向けた。
散々悩んだ挙句、TAMRONのズームレンズを買った。

映りの色の柔らかさが気に入ったのは勿論、その映りを表すかのように優しく手に馴染むような形状・触り心地だったことが決め手だった。

今回の講義は、ビジネス的な内容が面白いことは勿論、自分が愛用するTAMRONのレンズがTakramでデザインされているという驚きの事実が分かった回だった。

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武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義レポートです。
第14回 Takram/佐々木 康裕 さん(2021.09.26)
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佐々木さんとID

佐々木さんはイリノイ工科大デザインスクール(Institute of Design)、通称IDと呼ばれるデザインスクールに留学されていた。
IDの特徴は以下の2点だという。
①超・多様性:デザイン思考や論理思考その他を有機的に組み合わせた新しいアプローチが必要とされるため
②創造性非依存の再現性あるアプローチ:インスピレーションや一部の天使の発想任せにならないような、高い再現可能性を持った規律的プロセスとしてデザインを行う

また、IDでは世界には「Puzzle」と「Mystery」の2種類があるという話をされたという。
前者は論理思考、資源投入で解決可能、答えがあるもの、後者はシステム思考・デザイン思考、プロトタイピング、答えがないもの、とという特徴を持つ。Mysteryに立ち向かうのがIDで行われる教育である。

総合格闘技化するビジネスとグローバルアジェンダ

VUCAという言葉でも示されるような現代では、前述のMysteryの方が圧倒的に多いのかもしれない。
そのような状況において、昔のように「物を作ればいい」というビジネスではなく、物もサービスも溶け合ったようなビジネスが様々に生み出されている。

またビジネスの検討においては、グローバルアジェンダとの接続が必須になってきている。
例えば、美容系の商品を考える時に、世界のジェンダーの文脈で語られているトピックを意識せずに開発を行うと市場投入後に炎上するリスクが高まる。
また、グローバルアジェンダと接続していないと、世界の他の地域で売ることができないといった場面も出てくる。(日本ではOKなサービスも欧州ではNGとなる)

このように世界中の様々な環境の情報を取り込みながらビジネス・サービスを検討していく必要が今日は必須となっている。

日本ではあまり報道されることがないため、こういったアジェンダは自ら取りにいかなければならない、と私も感じている。
そしてグローバルアジェンダと自分を接続しつづけるという目的もあり、佐々木さんはLobsterrというサービスを展開している。

日本におけるサービス検討の罠

IDはアメリカ中西部に位置するシカゴに存在するのだが、佐々木さん曰く、日本と似ているように感じられる街であるとのことだ。
主要都市に次ぐ位置づけであり、同質性が高く、歴史ある企業が多い街だ。
対比として西海岸が挙げられた(同質性は高くなく、スタートアップ等新興企業が早いスピードで勃興する)

一方、アメリカから太平洋を挟んだ日本では、新しいサービスを作るための考え方としてデザイン思考というものが取り沙汰されて時間が経つが、定着したとは言い難く、また、成功事例はあまり見られない。
その理由として、「アメリカ西海岸式デザイン思考=日本とは異なる文化の様式の考え方を用いている、からではないか」というお話非常に興味深かった。

佐々木さん曰く、「プロダクトは2回買われる」という。
1回目は社内で買われ、2回目は顧客に買われる。
西海岸に良く見られるスタートアップのようにスピード感が重視される環境だとまず社内で買ってもらう必要がない。故にサービス検討において社内調整の重要性は議論されない。
一方、日本の企業では1回目に社内の偉い人に買ってもらうことが必要になる場面が多いと考えられる。どんなに顧客に求められているようなプロダクトでも、社内で受け入れられなければ日の目を見ることができない。
そのため社内調整を重要視しながらサービスを検討するスタイルの実践が必要となり、西海岸式がフィットしない事態となる。

日本と環境が似ているシカゴでも状況は同じであり、西海岸とは異なり「社内調整担当」を設ける等してサービス検討を行うとのことだ。

これは早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄さんの「「チャラ男」と「根回しオヤジ」のタッグこそ、企業イノベーションの源泉だ!」という記事語られている内容がかなり近いとのことで、この一見すると凸凹なタッグがまさにマッチするらしい。

デザイン思考の取入れを進めるためには

前述したように、日本ではデザイン思考の定着が進んでいないように見える。
この部分については「日常的にデザイン思考のエッセンスを混ぜた活動」が必要になるとのことだった。
日本だと打ち上げ花火的な物が多い。(例えば、業務とかけ離れた場所で研修をやる、デザイン思考の型をなぞって一時的に検討をしてみる、等)

しかし、デザイン思考のプロセスの完全再現を目指さずに、毎月毎週毎日の業務にデザイン思考のエッセンスを取り込み定着させることこそ重要、とのことだ。(インタビューを継続的に行う等)

例えば、とにかくインタビューを行い知見を貯めている方もいるらしい。
このようにある部分を切り出して突き詰めることで溜まった知見が論理思考的プロセスと接続されて、後々価値を発揮することもあるとのことだ。

感想

デザイン思考の取入れの話が面白かった。
理想を言うと、根回し等必要なくプロダクトが評価される世界だと思う。
が、大企業ではそうもいかないのは自分自身が就職をして身に染みて分かっているし、自分もそろそろ年齢を考えると「根回しおじさん」(おじさんではないが・・)としての役割を果たせるようになり、自分より若い人たちのアイデアを企業内で一緒に育てられるような人間になりたいと思った。


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