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【ドキュメンタリー】DJって 何考えて曲かけてんの?(前編)


「DJって自分の好きな曲だけ流してればいいんでしょ?めちゃ楽でいいですよね!」

と言われたことがある。

渋谷でお店をやっていた時にTBSラジオのリスナーでやってきたあるお客さんからの質問だった。
今はDJとして活動もしている人である。

ところで、特にクラブイベントでもない土平日にDJバーのDJをやるという事を自分のスキル修行と遊びを兼ねて二年間くらい続けている。

パーティーなどとは違い、一つのベクトルに向いている人たちが来るわけではないし、中にはディープな会話をしに来ているお客さんも居たりして、究極なまでに忖度が必要なのであるが、これがとにかく面白いのである。
老若男女、ノリの良い人、悪い人、優しそうな人、明らかに不良な人、興が乗ると踊る人や、特定の曲であからさまに喜ぶ人、ただただスマホを覗いている人、異性を口説いてる人、とにかく酒を飲みまくっている人、友達同士でなにやらずーっと話し込んでいる人、本当に色んなタイプの人がいる。

ギャランティーは発生するわけではないが、うまくハマると気を良くしたお客さんからタダ酒を奢ってもらえる。これがギャランティーに当たるわけだ。

なので、冒頭の質問には「好きな曲だけ流してればいい?んなわけあるかい!」と答えるしかない。

当時、冒頭の質問をした方と去年、同じイベントで共演したときに、そういう感じでも無かったので、人前で音楽をかける事の責任の重さを理解してDJの道を進んでおられるのだと思った。

話は戻る。そういう野良のバーDJ活動で得たものは沢山ある。自分の中の引き出しをフル活用しながら、さらに引き出しを作る、という事だ。

2018年3/14の深夜のプレイリストを元にどんな風に考えてDJをしていたかを回想してみたいと思う。

別件での飲み会を終えて、深夜12時過ぎに到着。

俺を含めお客さんは3人。
店内ではレゲエのMIXがCDでかかっている。

一人は地元のスーツ姿のサラリーマンでダーツが得意な男性A。
もう一人は割とブラックミュージック好きそうな派手な見た目の女性Xで非常にアッパーな性格らしくマスターとも親しげに話している。

ほどなくして、この店で出会った地元に住む大学生のラッパーB君来店。ダーツにハマりめちゃくちゃうまくなっている。いつもの顔なじみの間柄だ。

マスターが女性Xに俺を紹介する。
この女性Xはこのお店の前の店(クラブ)の店員だった女性で、雄一君曰くかなり「ブっ飛んでる、ヤバイ奴」だそうだ。

マスター「あっ、この人DJだから、レゲエかけてくれるかもよ!」

X「マジで~!」

マスター「この後来る予定のこの子の知人がチョップスティックさん知ってるって。」

※チョップスティックさんは俺のやっているユニット「贅沢ホリデイズ」のメンバーです。

↓ の右側の人。

「レゲエか~、今日は四つ打ちのハウスとかテクノをかけたかったんだけどな~。とはいえ、チョップさんの名前が出た以上、贅沢ホリデイズの曲もかける事になるかな。」
と思いつつ一杯頼んで、いつもどおりブースに入る。

サラリーマンの男性Aは基本的にダーツをしに来ているため、音楽にそれほど高い関心が無いことは以前から分かっているので、その人に向けてのDJはしなくてもよい。
気にするとすればラッパーのBだが、彼は俺のDJはもう何度も聞いているのでなんとでもなる。

今日はこの女性Xに向けてのプレイではじめるとしようか。

既にかかっている楽曲の雰囲気に合わせつつ自分の引き出しから一曲目。
以下の条件に合致する曲を脳内から検索する。

・レゲエ
・割と濃い感じの見た目(服装でも好みの音楽を類推できるので、見た目はヒントになる)
・元クラブ店員
・年齢は30代半ば~40代前半?

自分の引き出しにある楽曲と照らし合わせると、ジャパニーズレゲエの楽曲でならなんとか「レゲエ」のDJをする事ができる。チョップさんの名前が出てくるという事はある程度日本語モノはいけるだろう。
では、いきなり超コテコテだがポップ過ぎないジャパニーズレゲエで、なおかつ上げ過ぎない感じで様子を伺うことにしよう。

そう。
こういった現場では、「自分の得意なワンジャンルだけしか廻せないDJ」はアウトだ。
俺もジャパレゲ好きでよかった。

ただ、洋楽レゲエと違って、メッセージがはっきり耳に入ってくるのでリリックの内容も重視しないとBGMとしては痛い目を見ることもある。
しかし、リリックが刺さる分、聞いている人の心情に直接フックしやすいという利点もある。

ちなみに俺は洋楽のレゲエはほとんど持ち歩いていないし、あまり詳しくない。

01:H-MAN「ラガラガレゲエ馬鹿道場」
https://www.youtube.com/watch?v=VGnJ0CGicLI
ジャマイカの有名なDeejay(レゲエ用語で歌い手をさす)の名前を連呼するので、もし海外のレゲエ中心に聞いてる人でもシンパシーが沸きやすい。

02:MOOMIN「MOON LIGHT DANCEHALL」
https://www.youtube.com/watch?v=NJl3_S8Y9qo
世代的に絶対に好きなのが目に見えているので。
例によって女性X「好きすぎる~!!」といって一緒に歌いだす。
早くも心をガッツリ掴んだ模様。

とりあえずジャパニーズレゲエ続行だ。

03:FIREBALL「SIMMER DOWN」
FIREBALLによるBob Marleyのカバーなので、これも大まかに「レゲエ好き」の人には受けが良い。

05:H-MAN「Si Dung Pa Riddim(Remix)」
https://www.youtube.com/watch?v=XmM68JHnYXA
超チルい楽曲。
女性X「これ超好きなんだけど~!」
どうやらH-MANが好きだそうで「今の若い子、H-MANとか知らないでしょ!ヤバい~!お兄さん、歳いくつ?」と聞かれたので
正直に「41」と答える。本厄です。

06:NANJAMAN「SOUND TERRORIST」
https://www.youtube.com/watch?v=6X33VUi4Gkw
これはベテラン系のDeejayはウケるな、ということで「ハマの兄貴」NANJAMANの楽曲を。

07:HIBIKILLA「MUSIC IS MY MISSION」
チョップさんを知ってるという事は一緒にJ.T.Cを組んでいたHIBIKILLAを知らないことは無いだろうということで。

08:MINMI「FLY HIGH」
https://www.youtube.com/watch?v=Lt4A1Wds08w
レゲエ好きからJ-POP好きどちらもイケる曲を。そろそろ女性シンガーの声が欲しくなるころだ。

09:FIREBALL「流」
https://www.youtube.com/watch?v=tUaHYcqu8bk
誰が聞いてもいい曲。よく昔、GUNHEADと一緒にカラオケで歌ったなあ。

10:HOMEGROWN「Irie Music feat.Pushim,Moomin,H-man & Mighty Jam Rock」
https://www.youtube.com/watch?v=KVs148-gpCg
もう10年くらい前の曲だけど大御所が並んでいるので日本語レゲエセグメントのとどめといった感じで。
あえてOASISに行かない感じ。

若干、この辺でジャパレゲをかけるのも自分的に飽きはじめてきたので、もう女性X的には満足させただろうと思い、ちょっと流れを変えて行く。ここはちょっと自分の好きな流れに持っていく機会かも知れない。
不思議なもので、人はその人の好みにズバリハマった一曲をかけると、心を開いてくれ、割と色んな楽曲をフラットに聞いてくれるという所がある。
これはどんな現場でもそうだが、お客さんの好みに寄り添うのは基本中の基本だ。


ま、俺のやり口だから、絶対自分を曲げたくないという人はその人の流儀でやってください

11:Dry & Heavy「Love Explosion」
https://www.youtube.com/watch?v=sJ92T4OoCCE
まずはゆったりとDUBっぽい流れを出してみる。

12:Suns of Dub「Stand For Something feat.Keida」
https://www.youtube.com/watch?v=y9yl2-6UM4o
深夜2時近くなってきた。同じく女性ボーカル物でさらに飛びまくってるDUBを。一挙にズーンとしてドローンとした空気が漂う。
この当たりでダーツをしに来ていたサラリーマンA氏がお帰りに。お疲れ様です!おやすみなさい!

13:The Crystal Method「Dubiliscious Groove」
なつかしのTRIP HOP のコンピに入ってたやつ。ダブ的なベースラインとHIP HOPのビート。若干この当たりがビートを入れていく。

15:Baby D「Come Into My World」
https://www.youtube.com/watch?v=sQRPkC0aFm0
いい加減ロービートにも飽きてきた頃なのでレゲエ的なベースを入れたままもうちょっと踊れる方向に持って行きたいし、一気にジャングル系のノリを。という事で「私の世界へようこそ」って感じで曲名で選びつつ。はじめて自分でジャングルをかけてみたがブレイクビーツ早回しって気持ちが良い。
ラッパーBとダーツ勝負をしていたマスターがだんだんとリズムにノってくる。
ここからはマスター(ダンサー出身)に対してノレる楽曲をかける方向に。

14:Baby D「Got To Believe」
https://www.youtube.com/watch?v=dHyCpLUOkOs
ジャングル的なビート続行。普段、かけた事がないし、この店で鳴らないタイプなので、ここ二年くらいで一番俺のDJを聞いているであろうマスターがいい感じにビートに乗りはじめてきた。

15:Baby D「Destiny」
https://www.youtube.com/watch?v=YkbYB3lKnBc
これも今考えるとBaby Dだった。多分、Baby Dのアルバムまとめて機材に入れてたっぽい。
もう楽しくなってくるのは「運命」だよってことで。これもいい曲だな。フワーとしたパッドと女性ボーカル、ブレイクビーツ、全部いい。

16:Baby D「Take Me To Heaven」
https://www.youtube.com/watch?v=syiNmDS3Ehg
古い曲だねえ。酔いも廻ってきて、このままへヴンモードに突入しようか、ということでハウスくらいの速さのブレイクビーツ、このまま四つ打ちになだれ込んでしまいましょうか。

17:Wiwek & Alvaro- Boomshakatak ft. MC Spyder
https://www.youtube.com/watch?v=-wmPazbce7g
今までハードっぽい四つ打ちとかがかけられなかったフラストレーションがついつい爆発してしまい、時期尚早感あり。仕事モードだったらアウトです。これ。
早漏状態。こんなにいきなりエグいEDM系に持って行ったらダメです。というわけでもうちょい抑えないと!とミス回収モードに入る。

18~20 四つ打ち、ハウス系
BPM 135付近から125ぐらいまでにスピードに落としていく。情報量少な目の曲で、ビートを付けながらも場の空気をフラットに戻していく作業。

21:DAXRIDERS「YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE」
https://www.youtube.com/watch?v=Ro5aBePAYlE
とはいえ、久々にマスターが楽しそうにしてるので、もっと楽しんでもらおうかと、マスターの思い出の曲(この曲で大舞台で踊ったことがある)を一発。この曲、偶然、俺の大好きな曲で初めてかけた時に超反応してこんな偶然あるかい、という事で盛り上がった。
絶対にこの店では外さないアンセム。同じところで続けてやってるとこういう楽曲が出てくるのも面白い。

22~26
マスターが踊りまくることで、場の空気が好転したので、このまま四つ打ち中心で上げていく事にする。
ラッパーBはそれほど四つ打ちに興味が無いんで、ほどほどで切り上げてファンコットセグメントに入ろうか、と目論んでいると…

ここで新たな来客!
さきほど言っていた男性だろう。
店内は薄暗く、バーカウンターまでは遠いので人相までは分からないが、かなりゴツい。うわ!ケンカ強そう!という感じである。
この人物を男性Yとする。
という事は、同じくレゲエ好きである事は予想される。女性Xの隣に座って親しげに会話をしている。
とりあえず会話に集中する感じなようなので、アッパーにしようかと思ったが、一旦チルいBGM状態に落とすことにする。

28 Chris Brown「Time and Place」
https://www.youtube.com/watch?v=NQi6H3cWkt0
ここまで余りなかったHIPHOP要素をいれつつのチル方向へ。ひたすらダーツをしていたラッパーBがノリはじめる。
いきなり曲調を変える、というのも、変わった曲調にちゃんと受け皿となる人がいるときにはいい結果を生むこともあるのだ。

30 Demicat「Low Orbit」
https://www.youtube.com/watch?v=z0_cyZ1Hvrs
こんな感じで会話の邪魔にならずチルい選曲で空気と化す。
HIP HOP的なロウビート感を維持することによってラッパーBの興味を失わない程度に。

34 NIDJI「Hancur Aku (Feat. Dea) 」
https://www.youtube.com/watch?v=snr4OEvcjzw
普通にチルやってるのもアレなんで、インドネシア感も投入したい、ということで
昨今のインドネシア音楽系でもっともいい感じでチルいこの楽曲。

ここで、マスター雄一君からの情報が入る。
どうやら、女性Xと男性Yは「そういう関係である」との事。Yはある離島に住んでいて東京に来る時に会っているらしい。これは頻繁に会えない二人だろうから、もう少しおとなしくしておこう。

35-38
チルく若干ムーディーな感じを出しながら会話の邪魔にならない選曲を心がけつつカウンターでの男女の様子を伺う。
話も若干落ち着いてきたようなので、そろそろファンコットに入りたい気持ちになって来た。

39 RATNA ANTIKA「SUPER LOVE」
https://www.youtube.com/watch?v=deuziTdxAHU
インドネシアのDANGDUTの歌手、RATNA ANTIKAの中でもすごい好きな曲。
DANGDUT KOPLOは静かに始まり、後半、DANGDUT特有のクンダン(太鼓)などの打楽器が入りパーカッシブになっていく。
そうこのチャカポコしたグルーヴ聞いたことありませんか?というわけで、BPMを合わせてFUNKOTタイムに突入。
チルDJからFUNKOTに入る時に非常に使えるので重宝している。

40:DJ ANDY「CINTA SATU MALAM」
というわけでFUNKOTタイムに突入。ラッパーB君もさんざん俺のDJは聞いていて、FUNKOT洗脳(笑)が行き届いているので、FUNKOTがかかればいい感じにご機嫌に。フロアのチェアリング椅子を出してスピーカーの前で音浴びの体制に。

41-46俺が聞きたい曲をかけるFUNKOTタイム。

ここでマスターから新たな情報が!
カウンターの二人の会話が凄いことになっている。話が重過ぎて聞いてらんない!!とのこと。

先ほど二人は「そういう中」だと書いたが、女性Yは現在、別に付き合っている彼氏がおり二股中。さらには、男性Xは島に妻帯者で子どもが二人いるらしい。
そして3/14ホワイトデー、この日、「何かの決着をつける」つもりで東京に来た男性X。
何が起きるか分からない。果たして今夜は無事に終わるのか…。。。
そしてDJの俺に何が出来るというのか?

47:ENDRO CHAN「HERE I AM」
途中で思いっきりレゲエになるFUNKOTトラック。ブチ上がり中の不意打ちにも使えるが、FUNKOTからチルに戻すときにも使える。
とりあえず、どうやらパーティーモードでいる場合ではない。ひとまずFUNKOTセグメントを抜ける必要がありそうだ。

時間はすでに深夜3時を迎えつつある中、明け方、そして後半へ続く!

ありがとうの一言です。本当にありがとう!