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G戦場ヘヴンズドア 完全版[日本橋 ヨヲコ]【3巻完結】おとなのためのマンガレビュー

突然ガツンとぶつかられて、ドンっと押し倒されて、ドシンとした荷物を渡された、みたいな衝撃を受けたいときに。

タイトル:G戦場ヘヴンズドア 完全版
著者:日本橋 ヨヲコ(にほんばし よをこ)
出版:小学館 ビッグ コミックス
既刊:3巻完結(2018年8月現在)
装丁:佐藤 正幸 Maniackers Design

漫画家マンガの傑作と言われる作品。
家庭よりもマンガを取った編集者の父を持ち、小学生の頃から並々ならぬ出来のマンガを描いていた鉄男と、大御所漫画家の一人息子の町蔵が出会うところから話が始まります。

各話のタイトルは、「キタイシナイ」とか「ヨウハナイ」など、全て「~ナイ」という否定形。
というところから察してください、全体的に切迫感満載です。

鉄男の幼なじみの久美子のミラクル設定(病院や料亭を経営する資産家の娘で、政治家と知り合いで、ナイスバディで、スパイダーマン並みに運動神経が良く、芋けんぴが凶器になる)が笑える要素ですが、それ以外はかなりシリアス。


●読もうか迷っている人へ

絵も、コマ割も、セリフ回しも、結構クセがあるので、数ページ読んだ時点で好き嫌いがハッキリ分かれそうです。
1話を読んだ時点で嫌いじゃなければ、読み進むほどにハマる気がします。

●このマンガのここが好き♡

絵が上手い。
例えば、町蔵親子は顔の輪郭やパーツがすごく似ているのに、父親はちゃんと年を取っている。
アングルも上から下から自由自在。まるで映画を見ているよう。

この画力があるから説得力が生まれる話。
高校生が魂を削ってマンガを描く。まさに命懸けで。
父親という超えられそうにない壁に挑む。そして、子どもからは怪物に見える父親もまた人間。

そんな、人間同士の濃すぎるぶつかり合いと、因縁と呼ぶにはあまりにも狭すぎる相関をリアリティたっぷりに見せる。「実際、こういうドラマがどこかにあるかも」と思わせるのは、絵も、展開も、セリフ回しも、全てが上手いから。

1巻で鉄男の父親が、「素晴らしい作品ほど、巧妙に必然の産物だと見せかける。それを奇跡とも知らず、当然のように消費する」と話すんですが、これまさに『G戦場ヘヴンズドア』に言えることかと。

さらっと読もうと思えば、「おおお、面白い!」とあっさり読むこともできる気がします。けど、人物設定ひとつ、タイミングひとつ、セリフ一つひとつを振り返っていくと、この人とこの人がここで出会ったのは必然だ…と思えてくる。それくらい、登場人物にちゃんと人生がある。

同時収録されている「粋奥」も好きです。

●読むときは、ここに注意!

登場人物の線はシンプルですが、背景の描き込みはめっちゃ細かい。一度「これは、上野のどこらへんかなー」と気になり始めると、止まらないかもしれません。

●こんな気分のときにどうぞ

ドラマに没頭したいときに。でも安っぽいドラマは嫌なときに。3巻完結なので、あまり時間のないときのトリップにおすすめです。でも、たった3巻とは思えない濃いトリップができます。

●おすすめしないケース

「ひたすらスカッとしたい」欲求が強いとき。ちょろっとでも、我が身を振り返るのが嫌なとき。

●電子で読む場合

見開きがないわけではないんですが、セリフの位置が配慮されていて前後逆になることがないので読みやすいです。※横ヨミで検証

●このマンガが好きな人はきっとこれも好き

『少女ファイト[日本橋 ヨヲコ]』が好きな人は、必読です!
なぜなら、『少女ファイト』に出てくるルミコの両親(鉄男とクミコ)と、ルミコの想い人(町蔵)の若かりし日の話だから!
比較的短い話だけど命を懸けた濃ゆいドラマという意味では、『千年万年りんごの子[田中 相]』や『春風のスネグラチカ[沙村 広明]』にも通じるかも。


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