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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(40)

第四十章
 ~二夫にまみえず~

 ユリは自分が大天使に触れられたのは分かったが、アレが指で、膣内を確認されただけだった。それなのに、どっと疲労感と、目からは涙が流れ出た。

<妊娠の触診?そうか、ルキフェルは私が身籠っていないか確認したのね。取り敢えず妊娠していないということみたいだけど…>

「そのままの体勢で、そこにいろ」
「はい」

 ルキフェルはマサミの方を向いて、次にマサミに同じことをするよう告げた。

「マサミン、儂は今、ユーリカウの体を看たが、身籠ってはいないし、健康そのもののようだ。安心せい」
「ありがとうございます」
「次にお前の体を見せよ」
「はい」

 マサミは躊躇なく立ち上がり、ベールを取り、修道服を脱いだ。ユリに比べたら胸は小さく、下腹が出た、やや幼児体型っぽい体を大天使に示した。修道帽は敢えてとらず、髪を見せることを避けた。

「マサミン、お前は儂を受け入れるか?」
「はい」
「ユーリカウの横で同じ体勢を取って、女陰ほとを見せよ」
「はい」

 マサミはユリの横に並ぶように座布団を置き、バックで受け入れられる体勢になった。

「ユーリカウ、お前、儂に嘘をついていないな?儂の子を産むのだな?」

 ユリは躊躇して、答えられなかった。ルキフェルもそれは分かっているようだったため、目を閉じて五芒星の横に控えていたマサミンに声を掛けた。

「マサミン、お前はどうだ。儂は全能の神である父のように地上の女性と子を成し、地上を支配したいのだ。儂のために子を産んでくれぬか?」
「はい、喜んで」
「よし」

 ユリとマサミは自分たちの後ろに誰か、もちろんルキフェル、が立ったことを感じた。

 ルキフェルがゆっくりと近付いてきて、マサミの腰を掴んだ。

 マサミは自分自身経験のない、映像でしか見たことがないバックの体勢で下半身の先から体を真っ二つに引き裂かれるような痛みを感じながら、初めて侵入され、悲痛な叫びをあげてしまった。

「う、ぎゃあ、ううう、あああ」

 目から涙があふれ、床についた手は座布団を掴んで、痛みに耐えていた。前戯もなく、いきなりペニスを受け入れたマサミは処女だったため、どう反応していいのか分からないくらいの痛みで、気を失わないよう必死に耐えていたのが実情だった。
 ユリは急いでマサミの手を握り、痛みに耐えるよう励ました。

<マサミ、ありがとう。あなたが処女を犠牲にしてまで私のために頑張ってくれていることに感謝しているよ>

 マサミは何度も頷いてユリを安心させようとした。しかし、ユリにはマサミの涙が見えていたし、顔は青ざめ、唇を噛んでいるのも見えて、大丈夫じゃないことは明らかだった。

「痛むのか、マサミン?」

 マサミは腰を掴まれ、抽送が始まったことを受け、涙は遠慮なくどんどん流れ、喘ぎ声というよりも、唸り声を出して、苦痛に耐えていた。ルキフェルのペニスがマサミの一番奥の壁に当たる瞬間は内臓を突き上げられる感覚でウッとなった。 

「すみません、う、私め、男性を、う、受け入れるのが、う、はぁ、はぁじめてのため、う、か、体が慣れ、う、慣れていなくて、う、こ、声を出してしまい、あ、しぃ、失礼、ああ、しまぁ、ああ」

 途中から抽送のペースが上がったので、マサミは会話が続かなくなった。

「ほお、本当に初めてなのか?」
「ううう、は、は、はい、はぁじ、めて、です」
「そうか、神族と交わった女など、お前たちの歴史では3000年くらい前の古代ギリシア以来だな」
「ううう、そうなの、うう、ですか?」
「そうだ」

 血が太ももを流れ、全く快感のない、痛みだけの初体験となった。神の精がどれくらい自分に注ぎ込まれたかは分からなかったが、マサミは顔を座布団につけて、泣いている顔をユリにもルキフェルにも見られないようにした。

<辛かったはずよね、ありがとうマサミ>

 ユリはこれでルキフェルが何か良い知恵を授けてくれると期待した。しかし、その前に自分もマサミと同じ試練に耐えないといけないことに気付いて、構えた。

<マサミは初めてだから辛いはず、それともルキフェルのアレはすごく大きいの?ん、指であれだけの圧迫感、ってことはアレはもっとすごいのか…>

 武者震いと同じ現象だったが、ユリは体がブルッと震えて、体が自然に恐怖を感じているのを伝えてきた。

「ユーリカウ、お前は初めてではないが、神と交わるのは初めてか?」
「はい」

<いよいよ私の番ね。マサミが泣いていたように、好きでもない男に入れられるのって泣いちゃうほどつらい体験なんだろうね。マサミの場合は初めてということもあり、破瓜の痛みもすごかったのだろう>

「やめた」
「え?私めでは、ルキフェル様のご期待に沿えないのですか?」

 ユリは安心したような、がっかりしたような複雑な気持ちになった。処女ではないからマサミと比べたら抱く価値がない?覚悟し過ぎている?神の子を産みたいと思っていない、という本音がバレている?考えれば考えるほど、ユリはこのままでは大天使様が望みを叶えてくれない気がしてきた。

「私め、覚悟を決めて、大天使様を受け入れます」
「いや、本日はマサミンの覚悟、あっぱれ!と言っておこう。本当に初めてだったようだ」

 マサミは痛む体を起こし、何とか立ち上がって、体の向きを変えた。ゆっくりと手を伸ばし、ルキフェルの顔を掴んで引き寄せ、彼とキスをした。

「マサミン、儂の子を産め」
「はい」

 マサミは立っていられないようで、ユリは急いで立ち上がって彼女を支えた。その時、マサミがルキフェルのペニスを握っているのが見えた。彼女の手は小さい方だったが、それでも完全に握ることができない太さとは…。

「ユーリカウ!」

 呼びかけられて、ユリは我に返って顔を上げた。

「二日後にお前の体を確かめる。再びオリーブ油の湯で体を清め、儂のことを待て、良いな?」
「はい、仰せの通りにいたします」
「それまでは、お前の愛する男性と言えど、受け入れることは許さぬぞ。
 お前は儂と交わることが決まったのだから、人間や低級な悪魔ごときを受け入れてはならぬぞ。
 よいな?」
「はい、謹んで身を清く保ちます」

 今日は侵入されないのね、そう思ってユリは安心したが、そうなると願いは聞き入れてもらえないことになってしまうのか。

「マサミン、結界の内側にお前が使うべき銀の十字架のありかを示したを巻物を置いておく。
 それを探し、二人とも、一つずつ常に首から下げて学園内の男性に近づけ」
「はい」
「お前たちが探しているインキュバスが化けている人物の近くに行くと共鳴して分かるようになっている。
 二人とも目当ての人物に近づけば共鳴が強くなり、お前たちには誰がインキュバスとその仲間かは分かるだろう。
 まずはそのサイトウとやらに近づいてインキュバス本人かインキュバスの仲間かを確認せよ」
「はい、仰せの通りに!
 ありがとうございます。
 早速、銀の十字架を探し、明朝からは探索を進めます」
「よし、それでインキュバスとその協力者を見つけ、儂に報告せい。
 良いな?
 決して自分たちで何かしようと思うな。人間と神や悪魔とでは力が違い過ぎるからな」
「はい」
「それと、雷に打たれて亡くなった子がいたな」
「はい、ケラスースです。優しい、とてもいい子でした。もう十年も友人でいましたし、これからも永遠に友人でいたかった子です」
「事故だったのか?」
「我々の能力では事故か否かは判断できませんでした」
「そうか、それで、もう一人いたな」
「はい、親を刺して、取調室で自殺したヴィオラです。彼女の両親の夫婦げんかがそんなに過熱するとは思えませんでしたが、結果的には母親が父親を刺し、ヴィオラが母親を刺して、殺してしまいました。それを苦に自殺しました」
「キリスト教で自殺は罪であることをお前たちは知っているな?」
「はい、神との契約の下、神が求めた時のみ命を捧げるための自死が認められていると学びました」
「そうだ。つまり、何があっても、お前たちは全能の神である儂の父と儂から命じられない限り、自死は認めぬぞ。よいな?」
「はい、決して勝手な判断で命を粗末に扱うことはしません」
「よし。そうか、儂には、お前たちの言葉でいう『宿題』ができたようだな」
「今も日に夜にユータリスというインキュバスがユーリカウを誘惑していますので、なにとぞ大天使ルキフェル様のお力で天界で何が起こっているのか、お突き止めいただきたく」
「二日後にユーリカウが儂の求めに応じた時に話そう」
「はい、分かりました」

 ルキフェルが消えた直後、マサミはもう痛みに耐えられず、まず膝から崩れ、前に倒れるように並べられた座布団の列に顔から崩れ落ちた。太ももから膝に掛けて流れた血が乾いて、赤い川が流れたような跡が、早くも黒くなり始めていた。部屋には血の匂いが残っていた。
 ユリは風呂場に行ってタオルをオリーブ油の入った湯に浸けてから絞り、マサミの太腿を拭いてあげた。出血の元である女陰は多分傷ついていて痛いだろうから、慎重に太腿の側から軽く拭いた。
 マサミはそのまま、つまり裸のまま、寝始めてしまった。寝息が苦しそうだった。今夜の出来事を思い出していたのか、ルキフェルが夢に出てきていたのか、苦しんでいるようだった。

<本当は私が苦しまないといけないのに、ごめんね。私が斉藤先生に抱かれるのを降霊の時だけにできたらよかったのに、リアルに抱かれたいと思い、関係を持ってしまったからこんなことになったんだよね。後悔しているし、なんとか直したい>

 ユリはマサミを連れて、ベッドルームに戻り、なんとか普通の寝間着を着せて、ベッドに寝かせた。そのまま、夢の中でうなされるマサミとそれを見つめるユリ。

<今夜はたくさんのことがあり過ぎた。明後日まではルキフェルが何が起こっているのか突き止めてくれるだろう。それまで自分は身を清く保つことが必須だ>

 ユリは屋根裏部屋に戻り、ろうそくを消し、窓を閉め、座布団を部屋の隅に並べ、カギを掛けて降りてきた。風呂場に寄り、風呂桶にヒノキの蓋をして、灯りを消し、扉を閉めてベッドルームに戻った。
 マサミが唸っているのは終わったようで、一応寝息を立てて寝ていた。

<マサミ、ありがとう!多分、今夜のことで私の一生は救われたと思うわ>

「マサミ、おやすみ」

 ユリは久しぶりに安心して眠れるような気がして、目を閉じたら、スッとそのまま眠りに落ちた。

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