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月と六文銭・第十六章(5)

 武田は台湾人留学生リュウショウハンがスポンサー探しで苦労している話を聞いた。健気で真面目な学生なだけに、手伝ってあげたいと思っているのは嘘偽りのない気持ちだった。
 リュウは、基本的な'大人の関係'に問題はないものの、以前の苦い経験から武田に対していろいろ条件を出していた。

~充満激情~

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 食事は和やかに進んで、パスタも魚も食べ終えたリュウが、話を本題に戻した。

「武田さん、アレ着けるの嫌ですか?」

 まだパスタを食べていた武田は喉にパスタを詰まらせそうになった。
 話の続きが始まるのは分かっていたが、リュウがいきなりホテルでの悲劇から話を再開したのに少し驚いた。頭の中で、どんな回答をしたらリュウが納得するだろうかと考えた末、なんとなく優等生な答えを口にした。

「嫌とか好きとかではなく、必要なら着けた方がいいですよね」
「着ける約束していました。
 でも、その人、着けずに入れようとしてきて、私びっくりして、押し返したのです。
 どうして男性は着けるの嫌なのですか?
 もし赤ちゃんできたら、お互い困るのに」
「それはそうですね。でも、ちゃんと連絡先などを確認しておかないと、もし病気になったり、妊娠したらしたら困るのはリュウさんの方ですよね?」
「教えてくれなかったら、そもそもホテルで会うことしません」

 安易だというか、慣れていないのかもしれなかったが、自衛の意識が低いと言わざるを得ない気がしていた。

「その逃げた男性は?」
「一応、ラインは知っていますが」
「ラインだけだったら、いざという時は、ブロックされて逃げられちゃいますよ」
「はぁ、そうですね」
「電話番号や住所とか、会社の名刺をもらっておくとか、用心した方がいいですよ」
「でも、そういうことを言ったら、会ってくれません」
「そうですが…」

 パパ活する女性に取って、自分の情報を出さずに相手の情報を引き出すのは大変なことだろうし、ましてやリュウには言葉のハンデがあると思われる。どうやったら比較的安全なパパ活ができるか悩んだ末、自分に声を掛けたのだと武田は理解した。

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 パパ活に限らず、出会い系などの関係では、肉体的及び精神的リスクが高いのは女性の方、社会的制裁を受ける可能性が高いのは男性の方だろう。

「武田さんは、着けてくれますか?
 今、私は学生なので、病気も赤ちゃんも困ります。
 以前話したように、経験が少ないので、今でも痛いことがあります。
 あまり濡れませんので、長い時間しているのも辛いです」

 少し申し訳なさそうな、自信のない話し方だった。自分から提案しておいて、実はその行為があまりできないというのは矛盾しているというか、詐欺的勧誘と取られそうな話だった。

「でも、武田さん優しそうだから、私、頑張りますね」

 自分で自分の決意を確認するような発言をして、じっと武田の顔を覗き込んだ。
 武田はここでポジティブな返事をしてあげないとリュウは引っ込みがつかないだろうと思ったが、情に流されて何でも「それでいいよ」で済ませちゃうと後でトラブルに発展しそうだとも感じていた。

「次回、お会いする時、エッチしてみますか?私、出来ることいろいろ頑張ります」

 リュウのランジェリー姿の写真を見ていた武田にしてみたら、どんな体位で交わるのが楽しいのか容易に想像できた。リュウはスレンダーで、形の良い胸はちょうど掌に収まりそうだったから、騎乗位で下から胸を見上げながら、それを掴むと手応えがあるだろうし、腰というか尻がバンと張っているので、後ろから腰を掴むには良い形をしていた。
 そんな想像をしている武田はすぐに現実に引き戻された。

「お手当の話、してもいいですか?」

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 リュウは核心に切り込んできた。

「武田さんにお願いするので、どのくらいがいいか分かりませんが、フェイは相場が4、つまり1度は4万円だと言ってました。私のこと気に入ってくれたら、もう少し多く頂きたいです」
「それは考えさせてください」

 武田の返事を聞いて、リュウは少し迷ってから自分の男性経験について話し始めた。

「私、初めては一人目のボーイフレンド、高校生の時に台湾で彼の部屋でしました。
 痛かったです。
 血も出ました。
 しばらくしたくなかったから、彼にそう言ったら、離れていきました。
 悲しかったけど、彼はエッチをしてみたかっただけと思います」

 武田はリュウの目線を注意深く観察した。人は嘘をつくとき、目線が右上を向く。こちらから見た場合、目が左上に動くということだ。想像や未経験の情報を右脳から引き出しているためこうなるらしい。逆に事実や経験などを話す時、左脳を主に使うため、目が左下を向く。左下はこちらから見ると、右下だ。
 リュウは目を伏せがちということもあるが、これまでの話はほとんど左下に目線が行っていた。
 しかし、説得するとか、武田を引き込もうとする時は真っ直ぐにこちらを見つめ、目から脳を真っ直ぐ射抜くような、こちらの魂が吸い込まれるような目線だった。目力が強いといわれるタイプの女性だ。

「それから私、日本に来ました。
 二人目は日本にいる台湾人でした。
 今思えば、かなり自分勝手で、終わった後、痛かったから、するの好きじゃなかったです。
 その人とは半年付き合いました。
 彼とは週に2、3回くらいしましたが、気持ち良かったことはほとんどないです。
 あまり話もしない人でした。
 別れたのは先月の前の月です。
 ちょっと落ち込みました」

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 リュウは前のボーイフレンドと別れたこともあり、もしかしたら経済的にサポートしてくれる人を失ったのかもしれなかった。

「そんなとき、大学の友人が北海道に誘ってくれました。
 羽田から出発する時、武田さんに会いました。
 いままでのボーイフレンドは若く、余裕がなかったと思います。
 武田さんは私の父くらいの年齢だと思います。
 年が離れた男性、初めてです。
 でも、安心したいので、助けて欲しいです」
「分かりました。
 ただ、私には恋人がいるので、そのことは詮索しないでください」
「センサク?」
「細かく聞いたりすることです」
「私、武田さんの生活の邪魔はしないです。
 助けていただくので、武田さんの希望になるべく合わます」
「とりあえず、リュウさんは絶対ダメなことは何ですか?」
「エッチで、ですか?」

 武田はコクリと頷き、リュウは一瞬考えてから、ゆっくり丁寧に答えた。

「アレ、必ず着けてください。着けないでするのは絶対ダメです。
 機械、痛いから使わないでください。
 お尻に入れるのもダメです。
 生理期せいりきもダメです」

 生理期とは、中国語で生理のこと、或いは生理の期間を指す言葉だろうと武田は思った。

「分かりました。
 機械というのは大人の玩具おもちゃということですか?」
「多分そういう名前で、ブルブル振動する機械です。
 後で下の方が痛くなりました」

 本音を言えば、玩具を使ってリュウの反応を見てみたいと一瞬思ったが、それは今すぐに実行しないといけないことではなかった。慣れたら少しずつ使うことでもいいだろう。

「最初は必須ではないですよ、玩具」

 リュウは安心したのか、ウンウンと頷いた。

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