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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(42)

第四十二章
 ~宝探し~

 二人は母屋で朝食をマサミの母と一緒に摂った。

「政子おば様、試験が近いので、もう一晩マサミと勉強したいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんよ、ユリちゃんがいればマサミも勉強頑張るでしょうから」
「ありがとうございます」
「おうち、大丈夫なの?」
「大丈夫です。まぁ、時々母が父に爆発しているので、小さな喧嘩は絶えませんが。そもそも父が浮気をしたので、完全に父が悪いのは確かです。私は母の味方ですが、二人で解決してもらわないといけないと思っています」
「随分と大人の考えなのね。スミレちゃんみたいなことがあるといけないしね。本当にあの子のところはどうしたのかしらと心配していたんだけど、事故にしてもスミレちゃん本当に気の毒よね」
「もう十年も一緒にいたのに、急にいなくなると何が何だか分かりません。サクラのこともそうですが、駅まで行ったら、ひょっこり『おはよう!』って反対側の階段から上がってきそうで」
「あなたたち四人は学園一の仲良しだったのにね」

 ユリは頷いて、少し涙が出そうになったから下を向いた。サクラは事故だったにしても、スミレは自殺してしまったし、私は望まない妊娠をしそうだし、マサミは好きでもない相手と初めての経験したし、私たち今後どうなっていくのだろう。

「ユリちゃん、いつでも、いつまでも、ウチにいてもらっていいんですからね」
「はい、おば様、ありがとうございます。マサミと私はいつまでも親友でいますので、追い出されるまでいるかもしれません」
「ハハハ、ならユリちゃんの"離れ"も作ってあげないとね」
「え、嬉しい。でも、マサミの離れの一角をマサミが譲ってくれたらそれで十分です」
「もう少し片付けてくれたらいいのに。あなたたち四人が共同生活できるくらい広いはずなんだけどね。マサミはご先祖さまの大切な宝と言っていろいろガラクタまで捨てずにいるものですから」
「キリスト教の勉強をするには役立っていますよ、貴重な資料として」
「そうなの?」

 マサミは食べ終わったようで、会話に入ってきた。

「だから、ひいおじい様が集めた貴重なキリスト教の本とかは本当に本当に貴重なんだから」
「そうなの?私は娘時代、一冊も広げたことがないけど」
「ママはキリスト教の教えは理解していても、それほど個別の事物、歴史の出来事、聖遺物などの宝物には興味がなかったんでしょ?西棟のキリスト像なんて日本では大したことはないとされるけど、スペインとかイタリアだったら国宝級の価値があるのよ」
「え、そうなの?」

 ユリが助け舟を出した。

「でも、おば様の若い頃って西棟は閉鎖されていたから知らないんですよね、いろいろな物の由来が」
「うーん、マサミに言われて初めていろいろなものがあるのを知ったくらいだからね。お爺様、マサミのひいおじい様ね、が宣教師から引き継いだものとしか言われてなかったし、私の父は西棟を閉鎖して、私たち子どもは大人になるまで中を見ることがなかったからね」
「そうですよね!」

 おば様を立て、マサミを立て、丸く収めようとユリは努めた。こういう時、他人が一人いると逆に家庭内が上手く動くし、家族間のコミュニケーションがスムーズになるという不思議な効果があった。
 それが分かっていて、仲良し四人組の親たちは子供たちが互いの家を行き来することを喜び、頻繁に泊ることを許していた。しかし、食事だけは必ず一緒に摂ることをルールにしていた。子供たちのことを知るには良かったし、友人の前で自分達の子がどう振舞うのかを見ることもできた。

 朝食が無事に終わって、いよいよトレジャー・ハントの開始だ。屋根裏部屋に残された革の巻物に平面図と銀の十字架の探し方がラテン語で書かれていた。マサミとユリは辞書と携帯電話で翻訳しながら、西棟内を動き回った。
 学校に行く時間までに見つけないと今日一日が無駄になってしまうし、何よりもユリに迫っている危険を取り除かないと、本当に望まぬ妊娠で退学とかになりそうだという危機感があった。

 三角巾を付け、汚れていいようにスモッグを着て、古い書庫を探し回っていた二人にはいろいろと懐かしいことが思い出されたようだった。

「ねぇ、マサミ、宝探しみたいで楽しいね」
「こんなことやったの、中二以来かな」
「ねぇ!中二以来だね。それ以降はマサミが少しずつ整理して、今の降霊会も形が整ったし、こうしてほとんどのものが整然と並んでいるし」
「そういえば象牙の張り型を見つけた時、皆で大笑いしたね」
「したした!しかも、スミレがアタシに突っ込もうとして」
「結局入れたでしょ、ユリ?」
「え、そうだっけ?」
「そうよ、彼氏とどっちがデカいかやってみようって言って、めちゃ丁寧に消毒してから、ぐっと入れて、結局アンアン言いながらイったじゃん」
「えぇ、そうだっけぇ?」
「ユリ、結構成長が早かったから、ああいうのも使ってたし」
「まぁ、確かに早熟だったけど、象牙なのが新鮮だったんじゃない?」
「ユリがイってビクンビクンしているのを見て、サクラとアタシは呆れてたんだよ。あの当時、ユリって何でも試してたじゃん?」
「うーん、そうだったかも」
「しかも、スミレが『次はアタシ!』ってユリから引き抜こうとして喧嘩になったじゃん」
「あ、思い出した!なんか余韻に浸りたかったのに邪魔されて、結構マジに怒ったんだよね、アタシ?」
「ほら、思い出したでしょ?」
「えへへ。アレ、この辺に仕舞ったよね?」

 ガソゴソ幾つか引き出しを開け閉めしたところで、ユリはニヤニヤし始めた。

「えへへ、見つけた!4年ぶりかな」
「4年ぶりだね!へぇ、よく見ると、彫刻が結構細かいんだね」
「横にして飾っておくと象牙の置物だけど、なんなのか気が付くと突っ込んで使えるという"夜のお道具"なのがすごいよね」
「まぁ、普通は気が付くよね?私達だってすぐに本来の目的が分かったくらいだから、中学生のくせに」
「目的が分かっても入れるかどうかは別問題って言いたいんでしょ?」
「もちろん!まぁ、そこがユリのすごいところよね、実際に入れちゃうんだもん」
「えへへ、好奇心旺盛だったと思ってよ」
「ユリの好奇心の強さ、全員が一目置いてたよ」
「アタシの好奇心はともかく、この角度というかカーブとここ、この"カリ"の感じを見てよ」
「なあに?『いい具合に引っかかる』って言うんでしょ?あの時もそんなこと言って、サクラは大笑いしていたけど、スミレとアタシはマジでドン引きしたんだから」
「あの時、サクラは経験者、スミレとマサミは未経験で男に関する理想と現実を知らなかったからね」
「確かにね。あの時、中二なのにサクラも経験済みだってことに気が付いて、後でスミレとアタシは相手が誰だろうと興味津々で」
「そうなるよね!実はあたしも不思議に思っていたのよ、誰がサクラの初めての相手かってこと。だっていつもあたしたちと一緒にいて、男子とほとんど一緒にいないし、中一から塾にも行ってて、部活もやってたし」
「結局、分からずじまいだったね」
「そうね。なんか、サクラって楽しい人生を送れたのかな?」

 二人は黙ってしまい、ユリは張り型を袋に入れて丁寧に口を縛り、箱に入れ、出してきた引出に戻した。

「ねえ、マサミ、サクラの事故、本当に偶然に雷が落ちたのかな?」
「どういうこと?」
「神の力をもってすれば、雷の落ちるところを決められないかと思って」
「つまり、サクラは狙われたってこと?」
「普通はそんなこと考えないよね?有りえないもん、雷が特定の誰かに落ちるなんて。でも、私たちは降霊を通じて、神の、或いは悪魔の存在を知っているし、彼らにどんなことが可能なのかを知っているじゃない?誰にも信じてもらえないけど、今回の私とユータリスの件もそうだけど、悪魔が何かを画策しているように私には思えて仕方がないの」

 二人は考え込んでしまった。世の中には"まさか?!"ということはあまりないのに、自分たちはそのまさかが起こるのを何度も目の当たりにしてきたので、自然と神か悪魔が何かやっているのではないかと考えるようになっていた。

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