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月と六文銭・第十七章(02)

2.部長とモデル
 The Director and the Model

「すげーな、何あれ?」

 一番威勢のいい野本アセットの相葉あいばが口火を切った。

「あれがさっき話した、うちの部長、武田運用本部長で、一緒にいたのが、多分ガールフレンドのスーパーモデル」
「まじ、アレがゲイの部長?
 嘘だろ、ゲイであのモデルと付き合っているはずがないじゃん?」
「しかも、胸、FかGあったよね?
 あのスケスケのドレス、俺、鼻血出そう」
「小学生かよ、お前?」

 全員が大笑いしたが、同時に全員がドレスとそこから透けて見えたビアトリスの肌を思い出していた。東欧系だから肌は真っ白だった。

「スケスケだったけど、あれってシャネルのドレス。
 確かOLの年収くらいする奴だ。
 今のレートで230とか240万」
「うそ?」

 男性全員が目をぱちくりしていた。

 ビアトリスのドレスはシャネルのレースドレス。前年のオートクチュールに出ていたもので、為替レートで上下するが、約240万円するものだ。さすが服飾アナリストのみどり生命・島田、彼の出す数字に間違いはなかった。

「スケスケのドレスが240万円?
 誰がそんな金を出すんだ?」
「多分、武田部長…」
「あの下に着ているの下着じゃなくて、水着だったよね?」
「いや、ニプレスを張っていただけだったような…」
「よく見てるなぁ、お前」
「俺、あのデカい胸に圧倒されたよ」
「確かに!
 誰だよ、モデルの胸が小さいって言ったの?」

 座っている男性陣から見上げたビアトリスのGカップは大迫力だった。

 しばらく沈黙があって、鈴木が口を開いた。

「ごめん、俺、黙ってたけど、あのモデル、知ってる」
「え、お前の知り合い?」
「そうじゃなくて、先々月のヴォーグに出ていた」
「まじ?じゃあ、本当にスーパーモデル?」
「ああ、あれは本当にビアトリス・クルシコフ、今年2月のスイム・スーツ誌にも出ていた」

 スイム・スーツ誌とはスポーツ・フォトグラフィックという米国のスポーツ誌の2月特集号のことで、表紙を飾ると世界的なモデルと認められる。また、真ん中の新人紹介特集の投票で一位になると翌年は見開き8ページの個人特集を組んでもらえるという名物雑誌だった。

「それに、噂じゃ来年あたりから女優になって映画にも出るらしい」

 実際には既にテレビドラマなどにゲスト出演していたが、ハリウッド映画のヒーローものに出るとの噂だった。

「まじか…」

 ゲイで貧乳の自称モデルと付き合っているビッグ・ディック(=くそ野郎)が本当はビッグ・スティック(=大物)だったことが判明して、全員がスケールの小さい話をしても仕方がないと感じたようだった。しかも、飲み代まで出してもらっていたし…。

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