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退職老人の本についてのエッセー集
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記事一覧

今月読んだ本 (13)

2024年4月  今月もkindleで読んだ本の紹介から。今月はTED CHANG "EXHALATION"を読みました。日本語訳では「息吹」として文庫本になっています。 最近、Netflixで放送された「三体」を見ました。三部作の原作の第一部を映像化したものですが、実に見事な出来でした。原作をうまく世界向けにアレンジしているんですが、大事なところはきっちりとおさえている。例えば、冒頭の文化大革命のシーン、三体ゲームの中の人間コンピュータのシーン、船が強靱な超極細合成ロープ

今月読んだ本 (12)

2024年3月  今月もkindleで読んだ英語の本の話から。今月はJeremy Rifkin "THE AGE OF RESILIENCE"を読みました。不明を恥じますが、リフキンという名前は昨年初めて知りました。もう80歳に近い国際的にも著名な社会思想家で、西欧各国の政策にも影響力を持つ人物のようです。地球温暖化などの環境問題に対処するためには、現代の資本主義社会の根本からの変革が必要だという事は今では半ば常識になっていますが、その大元は、たぶん、この人あたりにあるので

今月読んだ本 (11)

2024年2月  今月もいつものようにkindleで読んだ英文の本の紹介から。今月はSHEHAN KARUNATILAKAという小説家の"THE SEVEN MOONS OF MAALI ALMEIDA"を読みました。日本語の小説なら谷崎賞受賞作、英語で書かれた小説ならブッカー賞受賞作は必ず読もうと決めていた時期がありましたが、最近はずっとサボっていました。この小説は久しぶりに読むブッカー賞受賞作です。2022年の受賞。英国の文学賞だったブッカー賞もいまや英語で書かれていれ

今月読んだ本 (10)

2024年1月  今年初めて読んだkindle本は、Mustafa Suleyman "THE COMING WAVE" でした。AIの危険性を訴える警世の書です。著者は、イスラム系の名前ですが、オックスフォード出身の英国人で、DeepMind社の共同創業者の一人。DeepMind社は、深層学習AIを専門とする企業で、AlphaGoという囲碁プログラムを開発しました。当時、世界最強と言われた韓国の棋士イ・セドルに勝ったことで日本でも話題になりましたね。チェスや囲碁将棋の世界

今月読んだ本 (9)

2023年12月  今年最後になる今月もkindleでの読書の話から始めます。今月読んだのは、KARIN SMIRNOFF というスウェーデン作家の"THE GIRL IN THE EAGLE'S TALONS"でした。日本ではまだ無名の女性作家によるアクション・エンタテインメント作品ですが、どうして私がこの本を選んだかというと、これが「ミレニアム」シリーズの最新作だったからなんですね。「ドラゴン・タトゥーの女」「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」からなる「ミレニアム」

今月読んだ本 (8)

2023年11月  今月もいつも通り、kindleでの英語の本の読書から。今月は、DAVID GRAEVER+DAVID WENGROW"THE DAWN OF EVERYTHING"を読みました。共著ではあるけれど、あの「ブルシットジョブ」のグレーバーの遺作、従来の先史時代のイメージを書き換えた傑作、アメリカでベストセラーなどという諸情報を目にすれば、誰もが一刻も早く読みたくなりますね。私もまさにそうでした。でも、日本語で「万物の黎明」として刊行された書籍はなんと5,50

今月読んだ本 (7)

2023年10月  今月もkindleで読んだ英語の本の話から始めます。今月は、WALTER ISAACSONの"ELON MUSK"を読みました。何カ国語に訳されたのか知りませんが、世界同時発売されたこの本の日本語版は上下二巻。kindleだと厚みがないので長さがよくわからないのですが、読んでも読んでもなかなか終わらない長い本でした。でも、日本でもかなり売れたようですね。なにしろ、現代の世界で最も興味深い人物の一人であり、間違いなく歴史に残る事業家イーロン・マスクの伝記で

今月読んだ本 (6)

2023年9月 今月もkindleで読んだ本の紹介から。今月読んだのはCHRIS MILLER "CHIP WAR" 。日本では「半導体戦争」の書名で出版されています。かつての世界では原油をめぐって戦争が起こったが、現代では半導体をめぐる戦いが生じている。世界の将来に大きな影をおとしている米中の対立の、全てではないとしても、その主な要因が半導体をめぐるものであることは、半ば常識になっています。この本は、そんな情況をそもそもの半導体の出生地点にまでさかのぼって記述した、波瀾万

今月読んだ本 (5)

2023年8月  今月もkindleでの読書から。今月選んだのは、JIMMY SONIという人が書いた"THE FOUNDERS" でした。日本語訳では「創始者たち」ですね。本の表紙には、「PAYPALとシリコンバレーをつくった起業家たちの物語」と(もちろん英語で)書いてあります。かつてアップルのスティーブ・ジョブスやマイクロソフトのビル・ゲイツらの物語を読んで、同時代を生きた彼らが自分よりもずっと年下なのに、言ってみれば、世界の姿を一変させるような大きな事業を成し遂げたこ

今月読んだ本 (4)

2023年7月  毎月一冊kindleで読むことにしている英語の本、今月はFRANCIS FUKUYAMA "LIBERALISM AND ITS DISCONTENTS "を選びました。ソ連が崩壊して、第二次大戦後に長く続いた冷戦が終結した(と誰もが思った)頃、これこそかつてヘーゲルが描いた歴史の最終段階であると主張して「歴史の終わり」を著した日系のアメリカ人政治思想家(英語ではpolitical philosopherと書いている)フクヤマは、世界的な大スターになりまし

今月読んだ本(2)

2023年5月  毎月一冊は(kindleで)読むことにしている英語の本、今月読んだのは、 Ursula K. Le Guin "Words Are My Matter"でした。彼女がとても嫌った紹介の仕方をすると、「著名な女性SF作家」だったアーシュラ・K・ル=グインが最晩年に刊行した講演と書籍や作家の紹介文を集めた本です。日本では「私と言葉たち」という題名で翻訳出版されています。日本でも彼女のファンが多いのはたぶん、彼女が"Earthsea Cycle"「ゲド戦記」の作

今月読んだ本 (1)

2023年4月  今月から、今までは「神須屋通信」の中で書いていた「今月読んだ本」を独立させることにしました。まず、今月読んだ本のことを書く前に、今月87歳で亡くなった富岡多恵子さんに触れておきたい。詩人として出発して数々の優れた小説や評論、エッセーを書かれた富岡さんの、私は永年の読者の一人でした。特に評論が好きで、中でも、同性愛者としての折口信夫の深層に迫った「釈迢空ノート」には驚嘆しました。これだけの作家なのに、新聞やテレビの扱いが小さいと不満でしたが、朝日新聞に朝井ま

「世界の名著」を読む #08

マルクス  その2  今回はいよいよ「世界の名著」のマルクス・エンゲルスの巻を読む。最初に断っておきますが、「資本論」をちゃんと最初から最後まで精読するには数年はかかる。今回はざっと斜め読みしただけ。それでも、一応最後まで目を通したのは、これが初めてだった。その感想はと言えば、最近、やたらと「資本論」がもてはやされているけれど、やっぱり万人向けの本ではないなということだった。若くて体力も時間も十分にあった頃ならともかく、私のような古希を過ぎた老人は、解説本を読むだけで満足す

ペーパーバックを読む #17

ロスリング・ピンカー・ブレグマン  世界的な碩学である言語学者のノーム・チョムスキーは、かつてのバートランド・ラッセルにも似た、やや過激な左派リベラルの活動家としても知られている。そのチョムスキーが、最近、私は楽観主義者だ。未来に希望を持てなくて、どうして人々に改革を訴えかけることができるだろうかというような事を講演で述べた、という新聞記事を読んだ。たしかにその通りだ。でも、普段だったら見落としていたかもしれないこの小さい記事に私が目をとめたのは、その直前に、ルトガー・ブレ