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あまのじゃく

「最近楽しいことあった?」
ある人が定期的にわたしにする質問です。

最初の数回はまともに答えられませんでした。「いやぁ、なんにも」とか「地味な毎日ですからねぇ」とか。楽しいことがないわけではないのですが、とっさに思い出を切り出せるほどわたしは器用ではないのです。
でも何度そんなふうに気のない答えをしても、その人は定期的に「最近楽しいことあった?」と聞くものですから、毎回同じ答えなのもなぁと謎の申し訳なさを感じるようになりました。

だから、楽しいことがあったら「これを次回聞かれたら答えよう」と脳内でメモすることがいつの間にか習慣づくようになり、今は2回に1回くらいは「友達とあの駅を散歩したんですよ」、「久しぶりにライブに行ったんです」と答えられるようになりました。

そうしたら、前よりも楽しい気持ちの持続性が、以前よりももっと強くなったのです。
考えてみれば簡単なことで、楽しかったことを心に留め置いて、必要に応じて取り出す。言い換えるとインプットとアウトプットです。

それに、人に話すことで「自分にとってあの出来事は楽しいものだったのだ」と自覚ができるので、記憶にもとどまりやすいですし、引いては楽しかった感情も長く残ります。

小さなことではありますけれど、気が付けたのは何度も飽きもせずにその人が問いかけてくれたからですし、この気づきもまた「楽しい」のです。
その人にそのことを伝えたらきっと、嬉しい気持ちは隠して、これが気遣いだよ、優しいだろう、とか、感謝しろよ、とか答えるんだと思います。あまのじゃくな人ですから。

この間、質問に対して「ブックオフでずっと探していた小説を見つけたことです」と答えると、小説家の名を聞かれました。
すこし古い人ですけど、と断りながら名を挙げると、その人もその作家を知っていて、小説を読んでいるイメージなんて欠片もなかっただけに、かなり意外な気分です。ちょっと、見る目が変わるくらい。

わたしが「最近楽しかったことはなんですか?」と聞いても、毎回「何もないよ」と答えるその人は、過去に何を楽しみ、過ごしてきたのか、今は俄然知りたいのです。


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