コンセプトは概念。じゃあ概念って?
ウケるコンセプトの考え方、知りたいですよね。
でもその前に「コンセプト」そのものについて、はっきり説明できますか?
コンセプトについて理解を深めておくと、作品づくりや作品理解だけでなくビジネスや人生にも役立ちます。
おそらく世界で唯一のコンセプト作家を名乗るわたくしが、不肖ながらその初歩を解説いたしましょう。
concept=概念?
本来の英単語「concept」は「概念」と訳されることが多いんですが、ここ!
開幕でいきなり躓くんですよ。
概念って何なの?
えっと、素朴な疑問なんですが「概念っていうのはこういう意味だよ」と完全に理解できる人いますか?
ピンとくるのは言語学や哲学の研究者くらいで、凡そ一般的な感覚とは言い難いです。
ましてやconceptの指す意味は、概念の中でも「抽象的概念」とのこと。
よく似た単語でideaというのもあって、こうなるともう何が何やら……。
ふわっとしたものに対して「これはふわっとしているものです」と説明されてるようなものです。
見りゃわかんだよ。それが何なのか教えてよ。
*
そこで推奨する和訳は「意図」です。
コンセプトとは「どういうつもりでそうしたの?」という質問に答えるものです。
つまり、特定の何かではなく発想とアウトプットを繋ぐ共通点を示しているわけです。
例えば世界初のコンセプトアルバムとされる、ビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の場合。「架空のブラスバンドがショウをやったらこうなると思った」というのが問いの答えです。
発想だけではコンセプトになりませんが、それを作品などで形にすることで間にコンセプトが生まれます。
しかし。この説明には大きなパラドクスがあります。
口にするのも憚られる、恐るべき真実。
世にある大半のコンセプトは、実はクリエイターにとっては「ただの後付け」だという。
現に、上述のアルバム内で明確にコンセプトを意識して作曲されたのはわずか2曲でした。
ということは、より現実に即した「コンセプト」の意味はこのようなものになります。
後付けの意図。
前もって周到に考えられたコンセプトは、どちらかというと「目的」です。
これ以上にしっくりくる解釈は、今のところ持ち合わせていません。
異論があるならかかってこい、いや、暴力はやめてください。すいません。
コンセプトを使う:言い換え
コンセプトの意味はハッキリしました、じゃあそれをどうやって考えればいいのか?
もっと言えば、どういうコンセプトを後付けすればうまくいくのか?
これにはいくつかのアプローチがあります。
例えば「日本酒」と「メガネ」というまったく違うふたつのアウトプットがあったとして、それをまとめるコンセプトを考えることにしましょう。
まず、絶対に避けたいのは日本酒にメガネを浸して「メガネ酒」と題する行為です。安直だし、汚いからやめろ。
とりあえずメガネの方を掘り下げてみましょう。
ここで便利なのは「言い換え」です。
「メガネ」を別の言葉に言い換えると、どうなりますか?
アイウェア、陰キャの象徴、見え方を変える道具、賢く見えるアイテム、すっぴんのお供……
いくつか出てきましたね。では次は「日本酒」を言い換えます。
飲めるライス、おっさんの象徴、お祝い、トラディショナル聖水、ほぼ水……
とまあ、時間の許す限り並べていってもいいのですが、大体5分くらいで区切ってやります。
さてさて、ここから繋げられそうなキーワードを探してみましょう。
どうですか? 見えてきましたか?
そう。
正解は「すっぴん」と「おっさん」です。
このふたつを繋げてやると「帰宅後にメイク全落としでスウェット・メガネ姿にワンカップとスルメを煽る独身女性」の姿が目に浮かんできますね。
視力が落ちるほど勤しんでいたのは漫画かゲームか。
偏見に満ちたこの架空の独身女性が、まったく違うはずの「日本酒」と「メガネ」を結びつけるコンセプトになりました。
めでたしめでたし。
というのがひとつめのアプローチ。
架空のリアリティを生み出す、という戦略です。
VRならぬ、Conceptual Reality=CRですね。その略称は誤解を生むか。
これは非常に汎用的で実用性が高く、大抵のものにこじつけられます。
先の例でコンセプトを作れば、あとはお好きな干物女アイテムを挙げていくだけでどこまででもコンセプトを強化できます。
コンセプトを使う:連想
次のアプローチは少し難しいですが、物にすると強力な武器になり得ます。
リアリティから架空を生み出す、という先ほどの逆を行います。
具体例で説明しましょう。まず現実を用意します。
なんでもいいので「冷房が肌寒い」あたりにしましょうか。手頃なやつでいいですよ。
では、ここから連想ゲームを始めます。
しのごの言わずやってみましょう。
冷房が肌寒い
→ 冷房の効いた部屋で厚着するって不毛だな
→ いっそ暑さや寒さに人体が適合したら空調の必要もなくなるのにな
→ 人間が環境に適合していくってSFっぽいな
→ 気候変動によって荒廃した地球を生き抜く人類の話とかどうかな
ハイじゃあこのへんで止めます。
「冷房が肌寒い」というリアリティから、ほんのり社会派SF小説的なコンセプトが爆誕してしまいました。
別に最初から気候変動に対して警鐘を鳴らす意図がなくても、こんなコンセプトが出てくるわけです。ささいな他人とのやりとりやちょっとした体験・記憶なんかも、連想ゲームによって派手なコンセプトになり得ます。
*
……と、一見すごそうな戦略ですが、弱点は「薄っぺらになりやすい」ことです。こればっかりは自分の発想を信じて資料を読み込むしかありません。
ちなみにここで手を抜くと、バレます。
ハリボテの設定資料は作品の強度を落とすので、例え最終アウトプットに反映されなくても本編以上のボリュームになっても徹底するのが吉です。
作品という小さな窓を通して、その向こうに壮大な景色を見せていると考えてください。窓枠の広さしかない景色に、真に迫る壮大さを感じることはないはずです。
見えなくても「どこまで広がっているんだろう?」と思わせることが重要です。
ちょっとしたコツのようなもの
ここまで、2つの戦略でコンセプトメイキングを手短に解説してみました。
我々のような凡人が作れるレベルのウケるコンセプトは、実はこのどちらかを使えばひねり出せます。
すなわち、「とんでもなく身近」か「とんでもなく極端」を狙え、ということです。
前者は架空→リアリティの変換によって共感を生み出します。
後者はリアリティ→架空の変換によって想像を喚起します。
ここまで読んだあなたなら、もう思いのままに魅力的なコンセプトを作れるはずです。
もちろん、後付けで。
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