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●普通の恋 【ショート脚本】/inspired by 菊地成孔 feat.岩澤瞳

【TOP画像お借りしちゃってまずかったでしょうか汗 ご指摘あればすぐ消します。
原稿用紙12枚分

ずっと昔、某脚本教室に通っていた頃、課題で提出したものです。当時、イタい恋にハマり、毎日、だらだら泣きながらこの曲「ばかり」をヘビロテしてました。イキオイで書きもちろん、ご年配の講師からは意味不明と返され‥‥別のものに替えたのですが。パソコンの中に残っていました。脚本としての出来はともかく、当時の私の瞳ちゃん大好きオカシイっぷりは、ありありと。
時が経ち、いろいろと、こじらせ、もう恥ずかしくない・はず。

参考楽曲
普通の恋
https://www.youtube.com/watch?v=4p90PRK_0Eo

○彼の部屋 夜十二時半
実家の古い六畳 本棚、参考書
マンガ(エヴァとか)、哲学書(ハイデガーとか)、ドフトエフスキー(悪霊)詩集、船の模型など
片付いているところと乱雑な場所の差が激しい
ベッド脇に置かれた電話、灰皿

古いタオルを乗せられたケージの中のハムスター、輪っかはあるが、目もくれず、エサをほおばっている

ナレーション「これは退屈と絶望が日課になっている、革命家になりそこなったリストカッターと、お姫様になり損なったチョコレート中毒者の、ありふれた恋の物語。そして奇跡でもなんでもなく、当然のように起こった偶然の再会による愛の物語でもある」

彼(イライラと、古びた文庫本を閉じる。)

彼「クソッ」

(顔を歪めベッド脇の机の引き出しを開け、中を探る。おおぶりのカッターナイフを見つめて目を一瞬輝かせるが、刃がない。どの引き出しを開けても、雑多なものや、カッターと刃を乱暴にむしり開けた包装の残骸だけで、がっかり。刃のないカッターをいまいましげに放り出し、ハンガーにかかった黒っぽいパーカーを羽織る)

○住宅街のコンビニに続く夜道

イメージ 下北沢外れ? 世田谷区外れなど落ち着いた街

彼女 あどけない顔立ちのお人形みたいな(ガリガリではない)女のコ。夢見るように、ゆらゆらと歩いている。唇がわずかに動いている)

彼女「・・・チョコレート。ひどい一日の後にはチョコレート。あれがないと眠れないの。買いに行かないと。チョコレート。・・・」

ナレーション「二人が出会った場所は、お洒落な場所じゃなかった。それはどこにでもある、ありふれた・・・」

○ コンビニ、店内
 客は五人くらい

ナレーション「そこで彼氏を待っていたのは、驚くべきことだった」

ナレーション(彼女の声で、ナレーションとややずらしてかぶせる)
「そこで彼女を待っていたのは、驚くには値しない・・・」

彼(極度に緊張しながら、コンビニのカゴにカッターナイフを幾つも突っ込んでいる)

彼女が、ふわりとコンビニに入ってくる。
この時間に彼女がやってくるのはいつものことらしく、店員はちらりと見て、恥ずかし気に目をそらす。彼女が、どんな服を着ていても、それとわかる可愛さだから。そして彼女のためにチョコレートの棚はきれいに整えられている。

彼は、順々に、あるいは無造作にチョコを腕に抱えてゆく彼女をちらりと見つめる。照明の加減で、きれいにカールした彼女の髪には、後光のようなものがさしているように見える。

彼(あ、という感じで、カッターをばらばらと取り落とす)

彼・彼女「あ。」

彼女(とっさにカッターを拾ってあげようとして手を伸ばすが、カゴを持っていなかったため、チョコをぶちまける。彼も同時にチョコレートに手を伸ばす。彼女は、彼の手首についた傷、包帯に気付く)」

彼(あわてて、上着の袖を引っ張り、包帯を隠そうとする)

彼女(ゆっくり首を傾げ、フェミニンな上着をたくしあげると、彼女にも手首にうっすらしたためらい傷、いくつか)

彼、驚いて彼女を見上げる。

彼女、にっこりして、落としたチョコを拾い上げ、彼のカゴに入れる。おごってくれるかな? 少し話せる? というポーズ。

 ○夜中の公園 深夜二時近く
 道沿い、街灯がそれなりに明るい、人影はない

くるくると回転する彼女と彼の顔のアップ
乱れる髪の動き、スローモーション
ぐるぐる回る球形の遊具で遊ぶ二人
街の看板の光が幻想的に二人を照らす。

彼「(心の中の声)何が起こったかなんて分からない。二度と恋なんてしないと思ってた。なのに、彼女に会った時から胸が痛み出して、心の中の一部が泣き出してる。でもまさかこの僕が? 自分の手首を切ることでなんとか世界とバランスを取っているこの僕が、しかもあんな場所で」

彼女「(心の中の声)そう、退屈と絶望に塗り固められて、私が必要としているのはチョコレートだけ。友達なんて誰もいない、私、死んだらきっと地獄に落ちるの。なのにどうして。彼を見た時に私の傷もうずき出して、たまらないの、胸が痛くなって。こんなに冷たくて、チョコレートにしか感じない私なのに」


○公園の砂場。砂でお城のようなものを作り、カッターナイフ達を、オブジェのように積み上げて遊んでみる二人。

彼女(遊具で遊んだため、ファッションや髪が乱れているが、構わない様子で、うっとりと粒チョコを口に運ぶ)

彼(彼女から少し離れて、ぼんやり柵に身体をもたれかけている)

彼「いったいどうして・・・」

彼女「?」

彼「(すねたように)ズルいよ。僕のカッターナイフは取り上げたくせに、君はチョコを食べてる」

彼女(ゆっくり口に粒チョコを放り込む)

彼女「・・・おとこのひとは、傷つけるのが好きよね? 固くて鋭いもので、柔らかくて暖かいものを一方的に傷つけるのが」

彼「・・・え?」

彼女「でもあなたはそうじゃない。代わりに自分を傷つけてる。それがやめられないのね。でも、そんなの、あなたの勝手。そんなの、昨日までは、なんでもなかった。でも、出会っちゃったから。今日、これから、あなたが自分を傷つけたら、きっと私も痛くなる。きっと私も辛くなるわ。だからあれは捨ててもらったの」

彼「でも、君のチョコはさ、」

彼女(彼にチョコを両手いっぱいに差し出す)

彼女「だから、分けてあげてる。でしょ? あのね、聞いて。私がチョコレートを。一日の終わりのお祝いと、また明日が来る呪いのチョコレートを誰かと分け合うなんて、すごい。すっごいことなのよ?」

彼(差し出されたチョコに、少し、たじろぐ)

彼女「だって私が大好きなのは、甘やかしたいのは自分だけ、そして私がほんとうに傷つけたり、ダメにしたりできるのも、自分だけ。‥‥あれ。私、なんでこんな場所に居て、なんでこんなこと喋っているのかな。きっと夢でも見てるのかな。ねえ、私、いったいどうしちゃったの? あなた、いったいなにもの?」

彼(彼女を見つめる。口を開くが、言葉にならず、意を決してチョコを食べる。板チョコもむしり開け、暴力的にかぶりつく)

彼女(彼の様子に目を見開き、うっとりと微笑み、やがて、微笑んだままうっすらと涙が伝いだす)

 

○彼女の部屋、小ぎれいなワンルームマンション
 半出窓にやや乙女チックなケージとかぶせ布、その中にハムスター、しきりに輪っかを回している


彼「(心の声)カラカラカラカラ、空回りしてた檻の中みたいな日常のドアを、恋というカギで開けてみると」

彼女「(心の声)驚いたことに、道はあちこちに通じていて、楽しいとかくすぐったいとか待ちきれないとか、やるせないとか」

彼「(心の声)心の中にいろんな色が湧いてきて、それだけで世界が七色に染まり」

彼女「(心の声)疑りも恐怖も遠く、どうでもよくなって、なんだか心地のいい不安定さの揺りかごの中で、私の中の絶え間ない独り言は、どんどん、小さくなっていったみたい」

 

彼(すでに彼女の部屋に何度か訪れている、慣れた様子。上着のポケットから、でっぷりした自分のハムスターを取り出し、)

彼「ほら、これがウチのハムスター。今、二才かな」

彼女「あ。連れてきてくれたの。ポケットなんかに入れて? うちのコのケージに入れてみるね。貸して」

彼女(彼のハムスターをケージに入れる。)

彼女「・・・大丈夫かしら。ケンカしたりしないかな。うちのハムスターも二才でメスよ、あなたのはどっち?」

彼「さあ? 考えたこともなかった。ハムはハムだったから。でも、身体が、でかいからオスじゃないの・・・かな、たぶん」

○彼女の部屋、床に敷いたラグとクッションの前でくつろぐ二人 

彼女「あ。買うの、忘れた。」

彼「・・・(笑って)チョコ?」

彼女「(うつむき、髪をくるくると指で弄ぶ)」

彼「いいよ。行こう」

 

○ 窓辺のハムスターのケージのアップ。鼻をひくつかせる二匹。

ハムスター1「・・・さっきのセリフ聞いた?あんたの飼い主ったらいいかげんね、あんたがオスかメスかもわかってないの、ひどくない? そんなんで、ちゃんと愛されてるの?」

ハムスター2「え、気にしたことないな、ちゃんとごはんもらってるし。それで十分でしょ、基本的に」

ハムスター1「そうみたいね。あんた、ずいぶん丸くなったみたいよ? ペットショップにいた頃は、すばしこくてスマートだったのに」

ハムスター2「それ言うなって。寝て食べるしか楽しみないんだし。逆に聞くけど、そっちこそ、なんで日がな一日そんなカラカラ堂々巡りの運動? ペットとして、ハムスターとしての義務なの? えと、ダイエット? それって楽しいの?」

ハムスター1「これはね、楽しいとかじゃなくて、習性なの。習慣なの。回らないとキモチ悪いの。孤独に追いつかれそう、寿命が私を追ってくるから、くるくるくるくる、カラカラカラカラ回り続けてる。やんないと落ち着かないの、飼い主のチョコぐるいと一緒だわね」

ハムスター2「はは。ウチの世話役も同じだわ、ときどき生きてるしるしを見ないと死ぬ衝動に追いつかれるって。変だよな、ひとりぼっちで生きて死ぬのなんて、めっちゃ当たり前のことなのに」

ハムスター1「だね。私も、ずっとひとりで、カラカラと輪っかを回してポックリ孤独に死んでいくんだと思ってたし。それがいわば、普通でしょ。まさか、私たちの飼い主同士が恋に落ちるなんて。そして、あんたともう一度、こうして偶然、会えるなんてね」

ハムスター2「ああ…… まあ、確率で言ったら奇跡的かも?」

ハムスター1「だよね? うん! ああ、テンションあがってきた。ほら、あんたも回りなよ。だってせっかくの奇跡じゃん、走り回ろうよ?」

ハムスターオス「遠慮しとくわ。大げさすぎ。これくらいの奇跡なんて、むしろ普通に思えてきたし、眠くなってきたわ……」

 

○駅から住宅街のコンビニに向かう二人

続く夜道

彼女「見て。ほら。月が、キレイ。三日月だよ。ずっと着いてくるみたい」

彼 月を見ずに、彼女の髪をかき上げ、耳にそっと口づける。

彼「君の耳は、三日月よりも、ちょっとぽっちゃり、丸いね?」

彼女、ちょっと彼をにらむ。

 

○コンビニの正面

彼女、幻を見ている。半年前の、自分たちが出会った時の幻。お互いに、チョコとカッターを取りこぼしてフリーズしている時の二人の目線。

彼女「(まぼろしから目を離し)・・・もうちょっと歩こうよ」

彼「え? いつものチョコの買いだめは?」

彼女「(うつむき)いいの。今は。ね、もうちょっと歩こう?」

彼「(笑う)お月様が、着いてくるから?」

彼女「ちょっと、だまって」

彼「・・・・。」

(彼も、過去の二人のまぼろしを見ている。ちょっと目をそらし、二本の指で、過去のまぼろしにサヨナラの合図)

寄り添って歩く二人、絡み合う指
月はまだ、雲に隠れない。


ナレーション「こうして偶然の邂逅により、二人の退屈と絶望は心地よい安らぎと甘い期待と薄い痛みとのタペストリーに姿を変え、革命家になりそこねたリストカッターは自分自身の灰色の闇に曖昧な幕を降ろした。お姫様になりきれなかったチョコレート中毒者は、代わりに甘い吐息の生産者となり、そして、奇跡でもなんでもなく、当然のように起こった偶然の出会いと再会による愛の物語は、この計算し尽くされないアンチクライマックスと、甘く軽い痛みとをまぜこぜにしたまま、くるくる、カラカラと、明日へと引き継がれていく・・・。」

カラカラと輪っかが回る音、街の雑踏
 

                 END

「普通の恋」菊地成孔 feat.岩澤瞳

★これは、曲がスキすぎて(他にもスキな曲はたくさんですが)想いが募り、一気呵成に書いてしまったモノです。
が、私の中の、第二期スパンクハッピーに磔にされたままの、いちファンが「瞳ちゃんがハムスターなんて飼うはずないし!飼うなら高貴な猫のスフィンクスとか瞳が緑のロシアンブルーだし!わかってない!」とか、作品へのディスりが凄いです。
第二期SPANK HAPPY、菊地成孔さん岩澤瞳さん大好きな方、「まー二次創作だしいいんじゃ?」みたいにお目こぼしいただけますと嬉しいです。

★最後までお読みいただきありがとうございました。

★もし、悪くなかったという方いらっしやっいましたら、スキ♪ いただけますと、励みになりますm(__)m


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