見出し画像

28.激しいブリザード

・補給前の緊張

■6月2日

午前9:00 無線交信(テリーさんの無線を使用)交信状態ほぼ良好。レゾリュートも大場さんのいる場所もブリザード。

補給物資の追加要請があり、次の物を用意する。

・1.5ℓのアルミ製燃料ボトル(用途聞かず)1ℓ用ボトルを用意
・食用油 1ℓでは不足 1リットル追加 合計2ℓ
・はちみつ 350g 1本では不足 1本追加 合計700g
・針と糸 ミトンが破けているので修理用
・ペミカンを食べる容器 水筒の蓋の3倍位の大きさのもの

大場さんの位置(GPSによる)は、6月2日午後5時10分現在
   北緯86度00分 西経71度58分 (ワードハント島まであと303km)
   天候はブリザードで視界悪い
   次回交信 6月3日 午前7時及び8時

■6月3日
◎午前7:00~7:05 無線交信にて確認
激しいブリザードで視界悪い。レゾリュートもブリザードで、風速約15m。窓の半分位まで雪に覆われていることを伝える。大場さんもテントの入り口の雪を時々かいて、入り口を確保しているとの返事。次回交信午前8時。

◎午前8:00~8:13 無線交信にて確認
ブリザードはまだ続いている。風は南よりの風。食糧の残りを確認するとペミカン2食分のみ。天候の回復が遅れる場合を考えて、できるだけ食いつなぐようにお願いした。大場さんからは補給に来る途中、飛行機からワードハント島までの氷の状態を見てきてほしいとの要望があった。次回交信は午前11時を約束

◎午前11:00~11:10 無線交信にて確認
風は弱くなってきたが、視界はまだ良くない。ゴムボートとソリを繋ぎ合わせて使用する方法について話し合う。交信状態はあまり良くなかった。次回交信を午後7時と約束。

◎午後7:00~7:10 無線交信にて確認
交信状態はあまり良くない。天候については、雪は止み太陽が出てきた。青空が一部見えてきたとの事。交信の最後に大場さんから要望があったが、ほとんど内容確認できず。次回交信を午後8時・9時と約束。6月4日午前7時及び8時に大場さんのいる場所の天候を確認して、よければフライトできる事を伝える。その後交信状態悪く交信終了。

◎午後8:00~8:10 無線交信にて確認

初めは交信状態良好。のち悪くなる。 前回交信時の要望を聞く。
大場さん・・・「糸ようじがほしい。」

滑走路の状態を聞く。
私・・・・・・「滑走路の幅は?」
大場さん・・・「100m位あります。」
私・・・・・・「滑走路の長さは?」
大場さん・・・「500m位です。」
私・・・・・・「雪の厚さはどれくらいですか?」
大場さん・・・「5cmくらいです。」
私・・・・・・「滑走路に予定している両端には、プレッシャーリッジ(乱氷)等の障害物はありませんか?」
大場さん・・・「障害物はありません。」
私・・・・・・「滑走路上に凹凸はありませんか?あると前回補給時のように飛行機がジャンプしてしまいます。」
大場さん・・・「大きいものはありません 又風は西南西の風で弱いです。」

私・・・・・・「雪は何時ころ止みましたか?」
大場さん・・・「4時ころです。」
私・・・・・・「青空はありますか?」
大場さん・・・「ちょっと待ってください 見て来ます。」・・・・・・
       「頭の上に雲があるだけで、それ以外は青空です。」

ブリザードは過ぎ去り、天候は回復したようだ。

私・・・・・・「明日の朝7時に再度の交信でそちらの天候を確認し、ファーストエアー社で、衛星写真でチェックして問題なければ、朝8時の交信時には何時に出発できるかを伝えられると思います。明朝7時の交信をお願いします。」

明日霧がでない事を祈る。補給体制は万全だ。

            6月3日午後8時30分 ベースキャンプにて 志賀


・補給はいつもプランB 


■6月4日
◎午後2:00
ユーレイカに向けて出発寸前、夕方5蒔に大場さんの無線のスイッチを入れてくれるように交信する。「ラジャー、ラジャー」と聞こえたような気もするが心配だ。

◎午後2:20
レゾリュ一ト離睦。4000フイート(1200m)の高さに一面の雲。

◎午後3:10
約3000mの高度を時速200kmで飛行。ずっと雲の海だったのが前方に明るい所が見えてくる。太陽の光が下から当たってくるような感じだ。その明るい光の上へ行くと所々ペンキが剥げたように雪が解けたフィヨルドの上に出た。空気はすごく澄んで3000m上空からくっきり見える。大場さんのいる所がこんな感じだったらいいのだが。とにかく夕方5時に大場さんが無線のスイッチを入れてくれるのを願う。そうすれば天候が判るのだ。

◎午後5:00
風強くユーレイカの山にかかる雲が流れている。ツインオッター機もフラフラしながら着陸。すぐにラス機長が私を呼び無線の周波数を合わせながら大場さんに天侯を聞くように言う。周波数は5210.0。ラス機長がチャンネルをすべて回すが、ツインオッター機にはこの周波数がセヅトされていない。2度チェックしてラス機長も交信をあきらめた。

大場さんのいる場所の天侯が変わらないのを願うしかない。後で考えるとこれが間題だったのだが!! 野積みのドラム缶よりボンプを使い、3本分機体に入れる。さあ、いよいよ補給物費が届けられるぞ。今回は、念入りに無線交信もして準備したので、用意に抜かりはない。

◎午後5:50
機内にドラム缶を5本積み、ユ一レイカを離陸。大場さんのいる北緯86度まで3時間40分で行く。ツインオッター機には車のナビと同じものがあり、刻々と目的地迄の時聞が表示される。

◎午後6:55
飛行コースを東へ少し変えたと思われる。陸地の頂上は見えるが、海面は雲に覆われて見えない。5分ぐらいすると視界がパッとよくなった。これから先は大場さんが歩いてくるコースなので氷の状態をチェックするためにノートを取り出した。その時、副操縦士か後ろを向き私に何か言う。

騒音でよく聞き取れないが「大場さんの居る場所は、風が強いのでユーレイカに戻る」と言っているようだ。エッと思う間もなく左手に見えていた太陽が右手に見えてきた。旋回しているのだ。確かにユ一レイカを離陸してから1200mの高度になるまで、今までになく揺れていたのを思い出す。時計を見ると午後7時だった。改めて副操縦士に聞くと、ユーレイカの気象観測所で気象情報を取り、風がおさまるまで待つようだ。

ユーレイカヘの戻りの飛行は高く上がらずに飛ぶ。山にかぶった雪の表面が解けて、また凍って奇麗だ。ツルッとした感じでその山に薄雲がかかって絵の様だ。その美しさは予定していた補給がまた、プランB(予定の立たない計画)に変わったイライラを慰めるのに十分だった。

◎午後8:10
ユーレイカに戻る。すぐパイロットはドラム缶より燃料を補給し始める。往復、2時間半ぐらい飛んでドラム缶3本程使ったようだ。

◎午後9:00
「衛星写真を見て、飛行の判断をする」と言う。こうなったら、いろいろ考えても仕方がない。パイロットの判断に任せるしかない。チラッと大揚さんの顔が浮かぶ。午後1時の無線交信で午後2時の出発を伝えているので、なぜ到着しないのか、心配しているだろうなと思う。

◎午後10:30

ラス機長がホテルのサロンに来て、すまなそうな感じで、「今日は風が強く、飛べない。明朝5時、霧のでないうちに出発する」と言う。4時には起きなければならない。私にとっては今回3回目の補給。いつも予定通りにはいかないのが判っていても途中からの引き返しはさすがに疲れた。補絵はいっでもプランB(※)というのをつくづく思い知らされた。

               6月4日 午後12:00ユーレイカにて 志賀

※北極圏では、予定はAとBしか無くて、Aは予定通り、Bは予定が立たずひたすら待つだけ。天侯だけではなく、補給物資も1週間に数回の定期便だけが頼りの場所では、目の前に有る物しか当てにできず、ほとんどの事がプランBとなってしまう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?