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40.6月23日、晴天の日に

・当たった予感

12時5分前、ジョイさんの食事の合図「もんじゃもんじゃ」の声がインターフォンより流れる。

昼飯前の予感がし、私はガレージ2階に上り、無線機の前で大場さんの呼び出しを開始する。11時に集まった撮影スタッフも昨日の大場さんの状態から考え、7.2㎞を歩くのはまだだろうという感じを持っていたためか、無線機の前には私ひとりしかいない。

呼び出しを始めて3分位経過した時、かすかに大場さんの声が入ったような気がして再度「大場さん聞こえますか?レゾリュート志賀です」と呼び返す。本当に小さな声で「ラジャー、ラジャー、聞こえています」と無線機から大場さんの声が流れる。

無線機を使うためには、20m程のアンテナをセットしなければならない。セットしているということは、もうワードハント島に着いているのだろうか?大場さんの声も雑音のなかから聞こえだしてくる。電波が弱く聞き取りにくいことを伝え、再度噛み締めるように質問する。

私・・・・・「大場さん! 今いる所はワードハント島ですか?着いていましたらラジャーで答えてください。」

大場さん・・「ラジャー・ラジャー・ラジャー」

間違いない。本当に到着したのだ。

私・・・・・「おめでとうございます。よかったですね。大場さんからの電波があまり良くないので、30分後にファーストエアー社でピッアップのためにそちらの天候を聞きたいので、再度交信をお願いします。」

ここで一旦無線を切った。

あまりにあっけない到着だった。乱氷とリードの中で苦戦している大場さんを心配している感情は、ゴールした大場さんの現実に、おいてきぼりをくらい、喜びが湧き上がるには、まだしばらく時間を必要としているようだ。私は大場さんがレゾリュートに戻ってくるまでは、気が抜けないと思ったりしていた。


・北極の日本晴れ!

■12時30分 ファーストエアー社にて無線交信

ここでも大場さんの声は聞き取りにくい。大場さんに天気の状態を聞くが良く聞き取れない。再度聞く。「雲はありますか?」

大場さん・・「雲はありません! まったくの青空です。日本晴れです。日本晴れです。」

大場さんの気持ちを示しているような明るい声だった。昨日の苦労を全てふっきったようなさわやかな声が私の気持ちにジーンと伝わってきた。

■15時
みんな晴々とした顔をし、ツインオッター機に乗り込んだ。私が「補給の時のフライトとは全く違った気持ちだね」と言うと蓮見さんも「本当にそうだね」と言った。離陸をし、高度をとる為のツインオッター機の騒音も前ほど気にならず、心地よく感じる。不思議なものだ。

夕べの寝不足もあり、メモを取りながらもふっと眠ってしまうのではないかと思うほど心地よい。今日はいい日になりそうだ。

ピーターさん、テリーさん、CRVの蓮見さん、デジタルハウスの斎藤さん、TBSの武石さん、玉井さんも昨日からの緊張がとけたように気持ちよさそうに寝ている。

いろいろな人々の気持ちを乗せワードハント島へまっしぐらだ。

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