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39.悲痛の声

・ワードハント島までわずか7.2kmなのに

6月22日  

大場さんのここ2~3日の歩いた距離を見ると、6月20日約10㎞,6月21日21.7㎞とリードがある場所を一歩一歩目的地に向かっているのがわかる。

今夕5時15分ワードハント島まで7.2㎞まで近づいている。その後のアルゴスデータが取得出来ない事から9時の交信時間まで期待と不安を持ちながら待つ。5時からの空白の時間にワードハント島まで到達しているのではないか。

そんな気持ちを持ちながらも出来るだけ普通に交信しようと努めた。9時からの交信内容は次の様な物だった。

私・・・・・「氷の状態はどうですか?」

大場さん・・「 乱氷帯の中のリードの真ん中にいます、リードがメチャクチャ有ります、リードだらけです、平らな所はどこにも有りません。雪質が暖かいため、ベチャベチャです。スキーに雪がつき殆どスキーは使えません、徒歩で進んでいますが、ひざまで潜ります、一歩一歩、力を入れて歩く様な感じです、リードが有り、風が強く、雪も重くて殆ど進めません。 」

今後の計画を聞くと、
大場さん・・「 ワードハント島に着いてからアルゴスメッセージで志賀さんに連絡します。その後無線交信でその後の予定を連絡します。」

最後に何か連絡したい事はと聞くと、
大場さん・・「 今までで最悪です。雪質が重たくてうまく歩けません。」
と最初に話していた事を繰り返す。

やはり心配していた通り、大場さんは今回の横断の中で最悪の状態の中にいた。交信中の大場さんの声が耳にこびりつく。3ヶ月間で初めて聞いた大場さんの悲痛な声だ。今までは、どんな時も明るく答えてくれたのに、大場さんのいる場所には飛行機も降りられない。渡り切るしか方法は無いのだ。大場さんの無事を祈り交信を終わる。

                   1997年6月22日23時 志賀


・ゴール地点まで4.8km短縮される

6月23日

■6月23日 午前7時 無線交信。
あまり通信状態の良くない状態で大場さんより次のことを確認した。

現地の天気の状態は良く、健康状態も良い。太陽が見え、視界は500m以上確保できる。その後電波の状態が悪くなり、よく聞き取れなくなった。午前8時に再度の交信をファーストエアー社ですることを大場さんに告げる。ただし、大場さんの早めの出発を考え、無線通信が必要ないと判断すれば、連絡なしでも構わないと伝える。

大場さんの「ラジャー」で了解を確認する。

午前8時、ファーストエアー社で交信開始。午前8時から10分間呼び続けるも応答なし。大場さんが歩き出したものと判断した。

この時、事務所壁のワードハント島の飛行機着陸ポジションは、北緯83度05分 西経74度09分であり、海岸線はこれより北へ3マイル(約4.8㎞)の地点であることを知り、大場さんのゴール地点を従来考えていた地点より、4.8㎞北に設定し直し、日本事務局へ伝える。

その後アルゴスデータの入信を待つが、午前10時・11時近くになっても入らず、打ち合わせのないまま午前11時にテリーさんの無線機で大場さんを呼び出す。5分間呼び続けたが応答はなかった。


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