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32.残り250km

・日本の香り

  6月9日   PM9:00

レゾリュートにある一軒だけの店「COAP」へ煙草を買いに行った。その中にある郵便局に行くと私宛の荷物が届いていた。かなりの重さがあったが、その重さは嬉しさに比例して苦にはならなかった。ワクワクしながら担いできた。私が頼んだ物以外にもいろいろ入っていそうな感じだ。

部屋に戻り荷物を開けると、タバコ・ビデオ・雑誌・新聞・小説(『竜馬が行く』)等が入っていてうれしくなった。その外に日本で毎週読んでいた漫画の本まで入っている。私の会社(東北機工)の事務員の志賀さんと古川君の心遣いが感じられる。日本の香りのするものばかりだ。

夕食後、テリーさん・ジョイさんと私の3人で日本から送ってもらったビデオを見た。映像記録社制作の『いわきを見る』の中から、『満開-いわきの桜-と海辺の暮らし-九面港の早春-』を見た。せりふがなく映像と音楽だけのビデオだったが、ジーンときた。見終わって私がため息をつくとジョイさんに「ホームシックになったんじゃない」とからかわれた。そうかもしれない。そこには日本のいわきの自然と人々の日常生活があった。「大場さんが北極から戻ってきたら見せてあげたい」と私が言うと、テリーさんがうなずいていた。

その後、私が大場さんを支援するきっかけとなったNHKの『わが夢は北極海横断』のビデオを見た。ビデオの最初の方にはニュースでも流れた、いわきでのそりを海に浮かべた実験の様子もダビングされていた。3人で真剣に見てしまった。しばらくぶりで大場さんを見たテリーさんは感激していた。

途中で大場さんの着ていたTシャツを見て、「あれここのTシャツだよ」とテリーさんが説明してくれた。顔を見ると涙を流していたようだった。2年前に亡くなった「北極の父」と呼ばれた旦那さんを思い出したに違いない。私も初めて大場さんを知った時の気持ちが湧き上がってきて、鼻の奥がツンとした。あと残り250kmを歩けば、長かった大場さんの旅が終わる。無事に終えたい。確実にサポートしたい。私は決意を新たにした。



・交信記録

無線交信  6月9日   PM10:30

大場さんからのアルゴスメッセージ(交信したい)は出ていないが、ガレージ2階の無線機で大場さんに呼びかける。

「大場エクスペデッション。大場エクスペデッション。大場さん聞こえますか。」

すぐに大場さんの声が入る。

「聞こえます。志賀さんこちらの声はきこえますか?」

雑音の中から大場さんの声が浮かびあがる。間違いなく大場さんの声だ。ほとんど聞き取れないので、こちらより一方的に次のことを伝えた。


1 次回の補給が必要な場合に備え、食料・燃料は2週間分以上用意している。

2 朝と晩用のペミカンは、ポーラーフリーからもらった事。

3 昼用ペミカンは明日蓮見さんから送られてくる予定になっている。

4 テリーさんのところでは無線の交信状態が良くない。天候がよいと特には入りが悪いので、次回交信は6月12日午後9時にファーストエアー社で待機する。

5 大場さんが交信を必要とする場合、朝のアルゴスメッセージで合図をしてほしい。

6 前回の補給時、飛行機からのルートチェックは、雲があったため、あまり良く確認できなかった。一部見えたところは、リードに薄氷が張っていた。

7 アルゴス・新アルゴス共にデータが取れているので、安心してほしい。

以上のことを伝えた。1つごとに確認をとったところ、大場さんからは「ラジャー・ラジャー」と返事があった。一部雑音がひどく聞き取れないところがあった。

現在ファックスのリボンが切れたため、ファックスの受信がテリーさんの回線に入っている。夜はもらえないので少し不安だ。明日CRVに電話をして、いつレゾリュートにリボンが着くかを確認しよう。

             レゾリュートベースキャンプ  志賀


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