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27.A Gift From IWAKI いわきからの贈り物(4)

■館長の家を訪問

2010. 06.05

フランスは、今まで蔡さんがいわきの船の作品を発表してきた国と明らかに違っている。その一番の違いは、休日はきっちり休んでゆっくり楽しむということ。美術館ももちろん土曜、日曜の仕事はしない。その土曜の午後2時過ぎ、我々いわきチームは館長の家でのお茶会に招待される。タクシーがホテルまで迎えに来て、細く曲がりくねった道をどんどん山の上の方へ向かう。車から見える景色がすばらしい。街並やビーチやヨットが眼下に見えてくる。

館長の家は、古い教会を買い取って奥さんと二人で改造中である。まわりを沢山の太いオリーブの木に囲まれ、とてもいい雰囲気。広いリビングでいろいろな種類のお茶をたのしみながら、クッキーを一緒にいただく。我々は、お土産に持っていったいわきの図録を蔡さんに渡し、美術館のスタッフとボランティアで蔡さんのインスタレーションの準備をしてくれている人達へプレゼントしてもらう。いわきチームも裏表紙にサインする。喜んでくれているのがよくわかる。

蔡さんは一緒に持参した前回の台北の個展の出来事を綴った蔡通信を丁寧に見てくれている。気がついたところを褒めてくれ、訂正したほうが良いところを話してくれる。廃船展示の写真のスポットライトの眩しくて気になるところを消して下さいとか、並んで写っている人々の左端にいる後ろを向いている人を消すなど、指摘されればたしかに気になるのがよくわかる。蔡さんの台湾でのスピーチが英語に翻訳されて掲載されているのを見て凄く喜んでくれる。

台湾での通訳センさんが日本に遊びに来た際、我々が温泉に招待したことを知ると蔡さんは「いいですねー」と微笑む。私が台湾で出版された本、「蔡国強又来了」をセンさんに頼んで台湾から60冊も持ってきてもらったことを話すと、蔡さんは、深川の新聞には台湾で出版されたその本の内容が毎日掲載されていることを教えてくれる。深川日報という新聞だそうでいわきの事も沢山書かれているらしく、ぜひ見てみたいと思った。蔡さんは「自分も携帯電話で新聞の内容を見ているんです」とニコニコして話してくれた。

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蔡通信を片手に談笑


■レベッカの実家

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もう一軒、我々は別の車に乗換えて訪問することになる。二軒目は、美術館スタッフ・レベッカのお爺さんとお婆さんが住んでいる家。

ニースには山が7つあり、この一つの山の頂上付近で車を降り、長くて狭い階段を上って行くと垣根に色とりどりのバラの花が咲いているのが目に飛び込んでくる。ブーゲンビリアのアーチをくぐるといい感じのテラス。下には綺麗な水が張られたプール。プールサイドには、何人かが水着姿で午後のひと時を楽しんでいる。広くはないが、全てバランスがいい。

蔡さんもこの人々の生活に感激している様子。私に「こんな造りいいですね。庭のあちこちにいると、気持ちよくなれそうな良い場所があって、自然に体を動かすことができますから」と言う。葡萄だながある軒下に座っておしゃべりをしたり、少し動いて自家製のワインを飲んでみたりと、あっと言う間に楽しい時間は過ぎてしまう。

のんびりリラックスしながら聞いた蔡さんの話はどれも面白かったが、印象に残った話がひとつ。ある時、蔡さんが中国でインタビューされた。

「日本と中国の関係はいろいろな問題を含んで必ずしもうまくいっているわけではないですが、長い間いわきの人々とうまく付き合ってこれたのはなぜですか?」との問い。

蔡さんは「私は中国の代表というわけではありませんし、彼らも日本の代表というわけではないですから」と答えたという。蔡さんはすでに中国を代表する人の一人と見られているのを感じ、そして彼の絶妙な返答に感心した。インタビュアーも「うまいことを言いますね」と言ったそうだ。

こんなふうにゆったりした時間は仕事のことを忘れさせ、新しい活力を生むことを実感した。

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スタッフへ図録をプレゼント

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