人類の敵

僕は1人暮らしを始めて6年ほどになる。
芸人を始めてからは河内長野の実家に3年住み、その後は先輩とルームシェアしていたので、人生初の1人暮らしが今の住まいになる。

ちなみに芸人のルームシェアは基本的に部屋が汚いのは当たり前だ。
大体の家は煙草も吸い放題で、共有スペースであるリビングには、誰かの給与明細やボールペン、耳かきに爪切り、飲みかけのペットボトルなんかも放置されている。

その代わり、といってはなんだが、年に数回だけ
「大掃除して、その晩に鍋とか食おうや!」みたいなノリで一気に掃除をするのがお決まりだ。

何故そんな事態になるかというと、置きっぱなしになっている物が誰の所有物か判然としないのが1つ目の理由。
どう見ても必要な物ではないが、これは本当に捨てていいものなのかが確実に分からないので物がどんどん溜まっていく。
「聞けば済むじゃん、こいつ何言ってんの、ほんとに」って思ったそこの横浜弁のあなた。その指摘は至極当然だが、何故かそれをしないのだ。

2つ目の理由は、全員で汚したのだから自分が掃除すると損した気分になる、というもの。むしろこちらが9割。いや、10割。真実は1つ。
人間というのは環境に甘える。ゴミが落ちている道だとポイ捨てをしても罪悪感が軽減されるような感覚だ。そうなると、どんどん部屋は汚れていく。そしてその汚れの責任の所在が分からなくなる。自分のせいではないと思い込む。従って掃除をしない。というチャンピオンロードの完成だ。


とまあ、そんな生活を長く続けていたので、初めての1人暮らしでは部屋を綺麗に保つことを決心した。100円ショップやドラッグストアで、水回り掃除用の洗剤やフローリング掃除に使えるウエットティッシュ的な物を購入して常備しているし、煙草を加熱式に変更し紙巻き煙草は室内禁止に。布団は晴れた日に天日干し、カーテンも定期的に洗濯する。
こうして、清潔な一人暮らしライフを謳歌している。


しかし。
強大な問題が僕の意識下に現れた。

埃だ。

「何を今さら、埃なんて元からあるもんじゃん」と思った横浜弁のあなた。それは違う。

ルームシェアでは常時乱雑な部屋なので、ちょっとばかし埃が溜まっている事など気にならない。それ以外に気になるポイントが多すぎて。
自分の意志で部屋を清潔に保とうとしていなければ、埃など目に入らないものなのだ。

だが、逆にだ。チェス盤をひっくり返して考えよう。
自らの城を綺麗にしようと思えば思う程、埃という存在は大きく感じてしまう。

埃というのは神出鬼没に、そして大胆に現れる。

2~3日使用していないパソコンの上に薄っすらと姿を現す、埃。
掃除の手が届かないトイレの奥まったスペースに潜む、埃。
ベッドの下で悠々と掃除の手から逃れる、埃。
部屋の四隅に堂々と仁王立ちする、埃。
リモコンのボタンの間に入り込む、埃。
はたき落としても拭き掃除をしてもリセットボタンを押されたように初期配置に戻る、埃。


清潔にしたい、ピカピカにしたい、という気持ちに反比例するように埃が立ちはだかる。


ふと気付くと埃の事ばかり考えてしまう。


そもそも埃の正体って何なんだ?
埃が溜まる原因はなんだ?
外から侵入してきているのか?
それとも無から生まれているのか?
空気中に突如として現れるのか?
もう一度言うが、埃の正体って何なんだ?



様々な疑問が僕の頭を駆け巡る。
そんな僕を嘲笑うかのように、この記事を書いている今も部屋に埃は溜まっていく。

僕が考えた所で、人類と埃の戦いは終わらない。

頑張れ、人類。
頑張れ、地球。


#創作大賞2023
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