ヤンキーを両側面から抱きしめてみた

 僕は1988年に北海道札幌市で生まれ、10歳の時に親の仕事の都合で大阪に引っ越して来た。引っ越し先は大阪狭山市という大阪府下で4番目に人口が少ない街で、思春期を大阪狭山市で過ごしたので僕にとっての”地元”は間違いなくここである。

 大阪狭山市は1987年に市制施行された市で、歴史はとても浅い。よって僕の世代には周辺の地域からベッドタウンとして移り住んで来た家庭が多く、親世代から大阪狭山市に居住している世帯は少なかった。
 その影響だろう。少し上の世代は田舎らしい荒れ方をしていたようだが、僕の世代にはヤンキーが異常に少なかった。もちろんヤンチャな生徒もいるにはいたが、僕らの通う中学校ではヤンキーが圧倒的にマイノリティだった。

 学年1の女ヤンキー(巻き髪・ファンデーション塗りたくり・真っ赤なルージュ・パンティー見えミニスカート)
 学年1の男ヤンキー(襟足長茶髪・細マッチョ・野球めっちゃうまい・野球推薦で高校進学)
 学年1の男ヤンキー2(腰パンならぬももパン・すぐ膝蹴りする・金髪にしては生徒指導の先生に怒られ黒に戻す無限ループ・金髪エンドレスエイト)

 の皆さんなどは、あまり居心地が良くなかったのか、隣の市の同級生とつるんでいる事が多かった。
 その後も僕はそこそこの偏差値の高校に進学し、そこそこの偏差値の大学に進学したので、ヤンキーと全くと言っていいほど関わって来ない人生だった。

 そのため僕はヤンキーが苦手だ。とはいっても、カツアゲされたりパシリにされた様な実害を被った訳では無いので、憎しみの類ではなく「理解できない」といった意味合いが強い。ヤンチャな友人がいないので、ヤンキーやアングラの社会は僕にとって完全なフィクションであり、彼らの言動・行動が全く理解できない。

 唯一のヤンキーの知り合いは大学生の頃アルバイトしていた居酒屋の元ヤン社員。その人は昔ヤンチャしてました感を出していたが、狭い店の通路を大股で肩先行で歩いていたし、サラダを盛りつけながら何の脈絡もなく「俺さ、ナメられるの嫌いやねん」と言ってきたり、どう見ても現役だった。その現役度にはキングカズもビックリだ。
 結局その社員は、店のZIMAを数本盗んでクビになるという、日本中の期待を裏切らない最期を迎えた。その日本中の期待を裏切らない度には大谷翔平もビックリだ。まあ、つまりヤンキーの知人は実質ゼロだ。

 話を戻し、ヤンキーが苦手な一番の理由は”かます”から。
 ヤンキーは事ある毎にかます。かましてから全ての行動を取る。”かまし”で始まり、”かまし”で終わる礼節を重んじている。伝統のかまし文化を守り続けている。
 
 僕はこの”かまし”が本当に意味の無い行動だと思っている。チャレンジャーとして”かます”のは悪い事では無いが、”かます”ヤンキーのほとんどは自分より位や力が下の人間に”かます”。その”かまし”ほど醜いものを僕は、ウ〇コくらいしか知らない。

 しかし僕は全ての”かまし”を否定している訳ではない。行動の伴う”かまし”はもの凄くかっこいいと思っている。

 僕は格闘技が好きなのだが、大体の格闘家は試合前から興行を盛り上げる為にかまし合う。かましてかましてKO勝ち、これは無茶苦茶かっこいい。負けた方も試合を盛り上げたという意味ではかっこいい。
 真面目そうな選手がヤンキーを倒す姿を観たいなんて事は別に思わない。強けりゃヤンキーの方がむしろかっこいい。
 しかしだ。”かまして負ける”、”かまして負ける”が3回くらい続くと「ちょっと一旦黙ってやれや」って思ってしまう。

 僕はラップバトルも好きなのだが、これも同じ。どれだけ悪そうで前科自慢をしても、かっこいいラップで勝利すれば文句無しにかっこいい。
 HIPHOPの文化的な側面を知らないので勝手な事を言わせてもらうが、チンピラみたいなラッパーがかましてからバトルに負けて「裏行ったら覚えとけよ」とか言っちゃうのはもう最悪。負けを”かまし”でサンドイッチ。KMKサンドの出来上がり。
 「そんなに負けを認めたくないなら出なきゃいいのに」って思ってしまう。

 僕はヤンキーやスジ者が登場する映像作品や読み物も好きだ。こういう作品は中途半端な悪者が本物の悪者にぶっ飛ばされる構図が多いので本当に痛快。
 ここまでくると「ヤンキー好きなんじゃないか」と思われそうだが、断じて違う。いや、断じて違うは言い過ぎたかもしれない。筋が通ってて行動が伴っている本当に強いヤンキーは割と好きだ。友達には多分なれないけど。

 考えてみると、ワンピースの主人公・ルフィもメンタリティはヤンキーだ。仲間の為に世界政府にケンカ売るんだから。でもルフィはいつだって格上相手にケンカを売るし、負けた後に”かます”ような事もしない。あと実際に滅茶苦茶強い。実力・行動が伴いきっている。ルフィ最高じゃんか。

 と、ここまで読んだ皆さんの心には1つの疑問が浮かんでいるかも知れない。

「なんだかんだ言ったって、ヤンキー怖いんでしょ?」


 ああ、怖いさ。文句あっかよ。
 当たり前だろ。怖いに決まってるだろ。
 悔しいけど、前から来たら道譲るだろ。
 そんなもんだろ。

 怖いから近付くことは無いけど、強いヤンキー格闘家やヤンキーラッパー、作り物の中に生きるかっこいいヤンキー達を、僕は遠くから応援しています。


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