ワールドカップに挑んだJリーグ最強ディフェンダー

12月6日。カタールワールドカップ2022ラウンド16。日本代表はPK戦でクロアチアに敗れ、今大会もベスト16の”見えない壁”に弾き返されてしまった。

またしてもベスト8に進めなかったという落胆。ドイツとスペインを相手にアップセットを起こし、自国チームが今大会の台風の目となった高揚感。モロッコが初のベスト8進出のみならず4強まで駒を進めた事への羨望。
様々な感情が渦巻き、数日経った今でもかなりモヤっとしているのが正直なところだ。

とまあ、日本代表やその他の試合について色々と語りたい事はあるが、Jリーグファンとしてはやはりこのトピックスに触れたい。


川崎フロンターレ・谷口彰悟の躍動。

熊本・大津高校から筑波大学、そこからプロキャリアの全てを川﨑フロンターレで過ごしている、「純・国内組」のプレイヤーが、スペイン・クロアチア戦にフル出場し、堂々たるプレーを見せた姿は、すべてのJリーグファンにとって特別な光景だったはず。


谷口彰悟は2014年に川崎フロンターレに入団。1年目から現在まで長らくレギュラーポジションを確保し、2017年のリーグ優勝を皮切りに川崎フロンターレの全てのJ1タイトルを経験。2020年よりキャプテンも務め、Jリーグ優秀選手6回、ベストイレブン4回を獲得するなど、Jリーグではトップオブトップのプレイヤーである事に異論を挟む余地はない。
逆に、日本人選手の欧州移籍が当たり前になってきた昨今、Jリーグのトッププレイヤーでありながら欧州でのプレー経験が無いというのは、希少な存在だとも言える。

日本代表としては、過去にも何度か選出された経験はあるものの、本格的には2022年のアジア最終予選からメンバーに定着。吉田麻也、冨安健洋の負傷によって出番を得た2月の2連戦で板倉滉と共にフル出場し、クリーンシートを達成。
ここで森保一監督からの信頼を確固たるものとし、ワールドカップへの切符を手中に収めた。


この様に、ここまでの実績と信頼があり、Jリーグでの安定したパフォーマンスを普段から見ていても、スペイン戦のスターティングメンバーに谷口の名前が並んだ時、正直不安な気持ちになってしまった。


それは、谷口の実力を疑う訳では決してなく
「見たことがないから」。

世界トップクラスのアタッカーと対峙する姿を見たことがないからだ。

現在の日本代表は、欧州5大リーグや、ヨーロッパリーグ・チャンピオンズリーグの出場権を持つクラブに所属している選手がほとんどで、彼らはこの4年間、個の力で世界のトッププレイヤーと渡り合える事を証明してきた。

その中で、日本国内でのプレー経験しかなくドイツ戦orスペイン戦に出場したフィールドプレイヤーは谷口のみ。どうしても90分守り切れる姿を想像できず、ネガティブな心境になってしまった。


結論から言うと、そんな心配は杞憂に終わった。

中央のブロッキング、裏のスペースのケア、インサイドハーフへのアタック、その全てをJリーグで見せているクオリティのまま披露。
谷口の特徴とも言える、”繋げる所は繋ぐ”冷静なボール捌きで、押し込まれる展開が続く中マイボールの時間も増やした。
後半に入ってからは攻撃的な三苫の背後のスペースを埋め、リードして迎えた終盤は三苫、守田とのチーム川崎でアセンシオとF・トーレスを完封してみせた。
要するに、パーフェクト。僕は、心の中で謝罪したい気持ちになった。

そして、続くクロアチア戦も先発出場。
絶え間なく飛んでくるロングボール。神出鬼没に飛び出してくるバロンドーラ―。高さという武器で殴り付けるようなセットプレー。全ての攻撃を堅実に、そして激しく弾き返し続け延長戦まで戦い抜いた。


過去に、川崎フロンターレのルーキーDF佐々木旭が
「ビルドアップやポジショニングが自分の課題」
と谷口に述べた際、
「まずはそこじゃない。日本代表クラスのDFは守備の部分で水を溢さない。」とアドバイスを受けた、というエピソードがある。

その言葉通り、今大会の谷口彰悟のパフォーマンスは一滴たりとも「水を溢さない」ものであったし、その上、初のワールドカップでいつも通りの”水の供給”までやってしまった印象だ。


遠藤保仁や中村憲剛の代表引退後、純粋な国内組が日本代表から減っていく中で、Jリーグで育まれた才能がまだまだ世界のトップ相手にも通用する事を証明してくれた。僕は1人のJリーグファンとして、震えた。誇りに思った。

2022年のJリーグキャッチコピー。
「Jが世界を熱くする」。

ワールドカップの舞台で、1人のJリーガーが間違いなく世界を熱くした。

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